SPECIAL
波及営業コンサルタント
有限会社 日本アイ・オー・シー
代表取締役 藤冨 雅則
取引先のネームバリューで次々に新規開拓を実現する「波及営業戦略」を体系化した辣腕コンサルタント。特に技術系のメーカー企業や、特殊な加工、取り扱い品、異色サービスなどを手掛けている企業の販売戦略の再設計、大きく売れるようにする仕組みづくりに定評。
「これまでにも、ずっと皆で話し合ってきたテーマです、いまさら議論したってムダですよ」
ある企業で「新市場開拓」のためのコンサルティングをしていたときに出た社員から発言。
思わず、唖然としてしまいました。
というのも、「ある特定の機能が、お客様にどのような“効用”を与えているのか?」という現実をテーブルにあげて、横展開の可能性を探っているのに、全く顧客の目線に立てず表面的なメリットばかりしか口にしないのに…その発言なのです。
本気になってテーマに取り組めば、本来どれだけ考え尽くしても足りないはずです。
例えばです。
「ドリルを買う人が求めているものは、ドリルそのものではなく“穴”である」という名言があります。
こういった話をすると、思考力のない人に限って「分かっていますよ、それくらい!」と発言します。
彼らの理解は、極めて表面的で「穴がほしいだけですよね…」といったような理解しかされていません。
そんなの6歳児だってわかります。
そんな表面的な議論だけで、新しい市場が見つかったり、売上拡大のチャンスを見いだすことが出来れば、経営の苦労なんてありません。
なぜお客様は「穴」を求めているのか…
自社商品がお客様に提供しうる《本質的な価値》に真摯に向き合うことでしか、
新たな成長ベクトルを描くことはできません。
そのためには、ベネフィットは深掘りが欠かせません。
ベネフィットは、深掘りすればするほど、「営業」や「販売」に際してのヒントを与えてくれるものなのです。
現実的に、穴を欲しがっている人には、様々な人達がいます。
「家具を作ろうとしている人」
「庭にデッキを作ろうとしている人」
「換気口をつくろうとしている人」
「穴」ひとつをとっても様々な用途開発の可能性を秘めています。
また、穴に着目せず、ドリルの機能に着目することで新たな用途開発の可能性もあります。
例えば、ドリルは刃先を回転させて対象物を「こすって」います。
この「こする」という機能からも、ベネフィットが考えられます。
- ドリルを刃先ではなく、「バフ」(布)や「ヤスリ」に変えれば、研磨機になるのでは?
- ホイッパーをつければ、かくはん機になるのでは?
既存商品の売上を拡大したい。
別な市場に攻め込んで第二の成長ステージを開拓したい…そうと思ったら、無鉄砲に営業をするよりも、原理原則に基づいた用途開発のステップを踏むことが大切です。
自社が提供できるであろう「ベネフィット」を再定義して、お客様からの充分な満足が得られている映像が浮かぶまでイメージをしてからターゲット市場に攻め込む方が、がぜん営業効率は高まるからです。
前置きが少し長くなりましたが、前回の続きである「新市場開拓を成功させる発想法」と今日の話は密接に関連しています。
「新市場開拓を成功させる発想法」は5つのステップを踏みながら、アイディアを練り上げ、企画に纏めていきます。
1.既存商品の特徴を抽出すること
2.ある特徴を抽象化すること
3.抽象化した特徴を無関係な世界に投げ込むこと
4.他要素との組み合わせや他分野での成功モデルの抽出
5.自社テーマへの具現化
前回は、この5つのステップのうち、
1.既存商品の特徴を抽出すること…について「ノイズの必要性」を取り上げて、お話してきました。
今回はその続きなので、2の「ある特徴を抽象化すること」からお伝えしていきたいと思います。
ドリルの事例で見た通り「刃先を回転させる」という特徴から、「まわる」「摩擦」…などと抽象化をしていきます。
この段階で、「分かりきった議論は辞めましょう?! それよりも早く具体的な答えを見つけましょうよ!」と答えを性急に求めてしまうと、視野狭窄の発想しか出てきません。
抽象化をする目的は、対象物の本質を追求する重要なプロセスなのです。
というのも、自社が提供している「本質的な価値」を追求していくと、他業界や他の分野との共通点が見えてきます。
これが次のステップの「抽象化した特徴を無関係な世界に投げ込むこと」に繋がっていくのです。
「まわる」「摩擦」することによる、他の現象はないか…。
それが、「電動」によって省力化することで、便利になるもの、問題が解決されるものはないか…。
まったく無関係な世界に「抽象化された特徴」を投げ込んでみます。
例えば、主婦であれば、家事のなかで「回転作業」をしていることはないか…
日曜大工をする夫であれば、ドリル以外に回転動作が必要な工具はないか…
工場に勤務している人であれば、回転作業している生産工程はないか…
など、日常生活や、企業行動など、現実に動いている世界に思いを馳せてみると、意外にも「もしかしてコレを電動にしたら便利かも?!」と発想が湧き出てきます。
こうして大きな方向性で「イケるかも?」というジャストアイディアが生まれたら、次はビジネスになるか否かの、そのアイディア自体を研磨していきます。
4.他要素との組み合わせや他分野での成功モデルの抽出のステージです。
ドリルと似た原理で、サンダーという研磨機があります。
また、ビルの廊下をワックス掛けするポリッシャーという用具も普及しています。
ドリルと似た原理で、他に成功しているモデルはあるのか?
そして価格とお客様が得ているベネフィットのバランスは、適切なのだろうか?
という視点で市場を眺めていくと、自社の取り組むべきテーマというのもが見えてきます。
5.自社テーマへの具現化 のステージです。
私も、このコラムを書いている最中、ドリル屋さんのクライアントさんが出来たつもりで書いていますが…
やはり原理原則に基づいて発想していくと新しいテーマが見えてきます。
クルマのワックス掛けや床掃除用に家庭用ポリッシャーは、世の中に出回っているのですが…
なぜか、多くの人が苦痛に感じているのに、パッケージ商品レベルで出回っていないものがあります。
何かというと、
フローリングのワックスを落とす「剥離機」です。
ワックスを剥離しないと、汚くて床がくすんでしまいます。
しかし、この作業が大変なのです。
これを省力化するために、家庭用ポリッシャーで代替できそうなことはわかります。
しかし、フローリングが傷つかないか…不安が残ります。
そこで、板が傷つかないような微細な布ヤスリなのか、剥離剤とバフ(布の研磨)を組み合わせてやるのか……素人にはわからない不安を「これで解決できます!というパッケージ化商品(組み合わせ商品)として発売するのです」
これは、かなりの需要があります。
専門業者もほとんどおらず、専用機もなく、困っている人がネット上でも様々な書き込みをしています。
手作業でワックスを剥離するのは、骨が折れるし、業者に依頼したら
10万円近い価格をチャージされてしまいます。
フローリングの張替なんて言ったら
100万円近いお金が掛かります。
それが1万円そこらで問題解決できたら…悩んでいる消費者は飛びつきます。
(家庭用ポリッシャーは5千円程度なので粗利も稼げる)
「問題の深刻さ」や「解決されることの喜び」と、それに掛かる「コスト」を比較したときに割安だと市場が判断したら、営業力が多少弱くても売上は容易く上がっていきます。
つまり、ちょっとしたアイディアで横展開は極めて高い確率で成功し、新市場開拓が実現できるのです。
話がかなり各論に入ってしまいましたが、このように新たな用途を開発して、新市場開拓を成功させるには、5つのステップを意識して思考することが重要です。
御社では、思いつきレベルの事業企画ではなく、面倒な思考手順を踏んだとしても、成功確率の高い事業計画を練り上げるステップを意識して進めていますでしょうか?
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