信頼と新規事業:成長を支える相互強化のメカニズム
信頼構築と新規事業への進出の相互作用を意図した事業展開を進めることで、ダイナミックかつ連続的な成長サイクルを描くことができます。
顧客や取引先、社会などから得てきた信頼は、単に現在の事業を支えるだけでなく、新しい事業を生む土台にもなり得ます。一方、新規事業の成功が、自社の信頼を強化し、次なる挑戦の基盤を築くこともあります。
この意味で、信頼と事業創出には「互いに強化し合うダイナミクス」が存在するといえます。この循環を理解し、活用することが、企業の持続的成長において非常に効果的です。今回は、このダイナミクスの構造を解き明かし、実際の事業展開に活かすための視点について考察します。
■信頼が新規事業での成功に寄与するメカニズム
ビジネスにおける信頼には、様々な定義・考え方が存在しえますが、トラスタライズの理論においては「この企業なら期待通りの価値を提供してくれる」という確信の強さの度合いを示すものだと捉えています。この信頼を既に構築できている企業は、新規事業においていくつかの利点を享受できます。
まず、顧客や取引先がすでに持つ、自社に対する期待感が、新規事業の障壁を低くします。たとえば、ある製造業者が品質管理で築いた信頼を背景に、アフターサービス事業に進出したケースを考えてみてください。既存事業の顧客は「品質が信頼できる企業なら、サービスも同じく高品質だろう」と自然に思うことが期待できます。また、これまで取引のなかった会社に対しても、信頼を伝達・訴求することで、よりスムーズに事業拡大を図れるようになります。
さらに、信頼は単なる取引先だけでなく、従業員や投資家などのステークホルダーにも影響を与えます。「信頼に値する新しい挑戦」と認識されることで、企業全体が一枚岩となり、リソースを集中させられるとともに、外部からの支持も得やすくなります。これが新規事業の成功確率を高める要因となります。
■新規事業が自社の信頼を強化するメカニズム
逆に、新規事業が自社の信頼をさらに高める機会にもなりえます。既存事業の殻を破る新規事業を実現することで、「この企業は常に進化し続ける」というメッセージを発信することにつながったり、新たな価値が創造されたりするからです。
例えば、ある健康食品メーカーが、既存事業で「安全性」と「信頼」を売りとしていたところに、新規事業としてサステナブルな商品ラインを発表しました。この新しい取り組みは、内部的には安全性のさらなる進化と環境への配慮を両立できることから取られた施策ではありましたが、外部からは「環境への貢献にも努力しており信頼できる企業だ」との認識を強めることにつながりました。その結果として、信頼・安全性の訴求が大切とされる健康食品販売において、既存事業の売上向上にも寄与したといいます。
ただし、新規事業が失敗に終わったり、既存事業の信頼と相反する要素が目立ってしまうと、逆に信頼を損なうリスクもあります。例えば、「迅速な対応力」を強みとして訴求してきた企業が、新規事業では同様のレスポンスを実現できないと、結果として全体の評価を下げてしまう可能性があります。信頼、すなわち期待通りの価値提供を可能にする要素は何かを見極めて、事業展開においても全社での一貫性を意識することが、信頼と新規事業のダイナミクスを正しく機能させる鍵になるのです。
■ダイナミクスを活かすための視点
信頼と新規事業の相互作用を最大化するためには、次の視点を押さえておくと効果的です。
①自社にとっての「信頼」の定義と把握
自社のどのような点が信頼されているのか、顧客が自社の何を価値と感じ、何をもってそれを満たせるだろうと感じてくれているのか。新規事業との相互作用に限りませんが、これを明確にすることは極めて重要です。
この、いわば「売れる理由」を明確にする上でまず実施すべきなのは、実際に顧客と接する営業担当者、そして可能なら実際の顧客の声を集めることです。この段階で、自社が価値と思っていたものと実態との認識のズレ、あるいは社内の担当者間での認識のズレが見つかることも少なくありません。最も大切にすべき信頼の構成要素を、予め明確にしておくことが大切です。
②既存・新規事業間での一貫性の確保
既存事業で信頼を形成している要素が明らかになれば、新規事業において構築・訴求すべき要素がそれと矛盾しないよう、細心の注意を払うべきです。事業を問わず、自社のアイデンティティとなるように、提供価値や対応姿勢を事前に確認しておく必要があります。
自社の「信頼」に対し、事業をまたいでも一貫性を保っておくことが、効率的な蓄積の促進につながるとともに、顧客にとっての安心感につながるのです。
③新たな信頼の創造
新規事業の成功を通じて、既存事業にはなかった新しい信頼の要素が生まれてくることがあります。例えば、先ほど例示した健康食品メーカーの例では、サステナブル・環境という新しい要素が生まれました。
新規事業によって信頼の構成要素の幅が広がると、既存事業の底上げにつながったり、また新たな新規事業の種につながったり、という可能性が生まれ、企業全体の価値向上につながっていきます。
信頼と事業創出は、一方通行ではなく、相互にお互いを成長させていくダイナミクスを生み出します。このメカニズムを戦略的に起こすことで、企業は持続可能な成長の道を切り拓くことができます。
自社の信頼がどこに根ざしているかを明確にし、それを新規事業に活用する。そして、新規事業を通じて得られた信頼を既存事業やまた新たな事業に提供する。この循環を意識することで、単なる成長ではなく、より強固なブランド構築が可能になるのです。
自社の信頼を、将来に向けた成長サイクルを描くためのテコに据え、新規事業の可能性を捉えなおしてみてはいかがでしょうか。
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