デジタル化導入側と納品側のすれ違い
またしてもシステム開発失敗で大手流通会社と外資系ITベンダーの間での訴訟が発生してしまいました。詳しい経緯は公開されていませんので、事実を断定した議論はできませんが、納品を巡る見解の違いが露呈した、という背景の様です。
納品に関する見解の相違、というと、にわかには理解しにくいことですが、顧客側は「システムは完成していない」とし、ITベンダー側は「要求通りに完成した」というすれ違いが発生したと思われます。通常の設備投資などではあり得ないことですね。実はこのような見解の相違は、業務システムの導入プロジェクトではそれほど珍しいことではありません。
導入プロジェクトの典型的な初期段階は、「要求の定義」になります。業務部門が、どのような機能を要求しているか、について明確化する段階です。通常、この作業はITベンダーが会議で聞き取りながら行いますが、多かれ少なかれ「誤解」とか「漏れ」が発生しがちです。もちろん、このようなことが起きないように、ダブルチェックするなどの工夫をするのですが、複雑な業務システムの場合は、どうしても多少のことは発生してしまいます。
今回は、その誤解とか漏れが、顧客側が納得できないレベルで発生したことが最終テスト段階で発覚し、ITベンダーがそのハンドリングを誤ったか無視した結果、トラブルに発展したのだと思います。通常、そのようなトラブルが大事に至らないように双方で歩み寄りながらハンドリングするものなのですが、今回は外資系のITベンダーでしたので、おそらく海外特有の「細部にわたるまで厳格に定められた契約書」で縛られ、柔軟な対応ができなかったのではないかと思います。
この例は、超大手企業の話なので中小企業にどこまで参考になるのか?という疑問がわくと思いますが、実は本質的に会社規模の大小には関係なく参考にすべきです。業務要求は中小企業であっても必要ですし、その作業の正確性・網羅性は確実に担保しなければならないからです。しかも、それはソフトウェアが完成する時点までは発覚しない可能性があるので、結構やっかいだ、ということを認識しなければならないのです。
では、これをどうやって間違い無くこなしてゆくべきなのか?ですが、これは一言に尽きます。「優秀なプロジェクトマネージャーの主導による良好なコミュニケーションの実現と維持」です。ここで、プロジェクトマネージャーは、ITベンダー側に求めても良いですが、業務側の事情をよく知った社員のサポートは必須です。よく「会社のシステム化はデジタル化に慣れた若い社員に任せよう」といった意見を聞きますが、業務にそれほどたけていない若手を起用することはお勧めできません。業務を知り尽くしており、どのようにすれば会社の業績に貢献できるかを把握している中堅社員が、要求定義作業に対してフルコミットする、という環境を作らなければうまくいかないのです。
そして、プロジェクトマネージャーは傾聴力も必要ですし、理解力も必要です。聞き取った要求事項を論理的にまとめ上げる能力も必要なので、かなり能力の高い人でないとこなすことはできません。これもあって、ITベンダーを決定する際には、会社やソフトウェア製品とセットでプロジェクトマネージャーの能力判断が必要になるわけです。
今回の件は、お互いの不信感も高い様に見えます。巨額なプロジェクトでしたので、優秀なプロジェクトマネージャーがアサインされていたのかもしれませんが、それでもコミュニケーションに失敗が発生したということになります。システム導入プロジェクトの難しさを改めて考えさせられますね。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。