最短で最高のクオリティ
先日、出張の機会があって久しぶりに羽田空港を利用しました。仕事終わりで少し時間もあったため、一息つこうと空港内のとあるお店に立ち寄りました。お腹も空いていたので軽食とビールを頼み談笑していたところ、スタッフの方がワインの試飲を勧めてきました。
スタッフの方曰く、「このワインは市場では手に入らない相当希少なもの。○○ホテルや○○航空のファーストクラスで出された…」との説明が長く続きます。試飲しながらとりあえず話を聞きます。「我々の会社は卸もやっているので、この素晴らしいワインが手に入る…」「ご自宅にお送りすることも…」
ワインは確かに美味しいと感じましたが、頼んでいたビールもほとんど飲んでおらず、仕事の話も中断しています。一つのワインの説明が終わり、やれやれと談笑しながら追加のオーダーをすると、またしても別の試飲ワインを持ってきてくれます。前回同様「このワインは…」とプレゼンが続きます。
二度あることは三度あります。その後三つ目のワインを持ってきてくれました。同じ調子でプレゼンは続き、テーブルにワインが3本並びました(1本目からずっと置きっぱなし)。三つともスタッフの方の言うとおり、たいへん美味しいワインでした。
さて、フライトの時間も迫ってきていたので、私たちは軽食をいくつかとビール1杯で店を後にしました。ワインの説明が少し長く感じましたが、試飲とは言え希少かつ高級ワインを3種類いただいたことで、なかなかの満足感を得ることができました。
しかし、です。スタッフの方に悪気はないと思いますが、一連のやり取りに関して、個人的にはかなり大きな失敗だったのではないかと思っています。希少なボトルワインを売りたい気持ちが強すぎ、すべてが裏目に出たのではないかと思います。
まず第一に、3種類も試飲を勧めてくれた割に、そのワインの凄さを説明するだけでその後どうして欲しいのかが全く分かりませんでした。おそらく買ってほしいのでしょうが、そもそも価格も、手続きも、もっと言えば売っているのかさえ怪しい(市場には出回らないことをずっと強調)。珍しいからおすそ分けくれているのかな?と本当に思ってしまうくらいです。
また、ご自宅に送れると言ってはいましたが、それはこちらが買うのか、プレゼントしてくれるのか、説明を聞いているだけではわかりません。まあ、こちらから質問すればよかったのかもしれませんが、そんな間もない感じのやりとりでした。味は美味しかったので価格次第では買っていたかもしれません。
そして第二に、私たちはビールを頼んだ後にワインを注文しようと思っていましたが、試飲とはいえ3杯も飲んだら(しかも希少な高級ワイン)、限界効用逓減の法則が働いています。つまり満足。「もういいや」となってしまい、早々に店を出ることになりました。
もし、スタッフの方がもっとうまくお勧めしてくれたら、追加でグラスワインを注文し、ついでにつまみ的なものも頼み、さらにお土産にワインを買っていた可能性もあります。客単価はおそらく5倍以上になったでしょう。それどころか、お店を気に入ってリピートするかもしれません。
場所が空港ということもあり、出店する各店舗は通常の商売とは異なるサービスが求められます。特に時間の制約は大きく、よりスピーディに、効率よく動く必要があります。ただし、ここに落とし穴があります。
商売の仕方が、スピードや効率を求めるあまり「雑」になってしまうのです。仕方がない部分もありますが、何でもかんでもお土産同様「押し売り」のような売り方になると、せっかくの機会が台無しになります。お客も離れていきます。
実際のところ、空港のお店は一元さんだけではなく、リピーターも少なくありません。「今売れればそれでよし」の考えでは店舗の継続は厳しいでしょう。結局、どんな立地でもお客が求めていることを察知する力は絶対的に必要なのです。
経営者の皆さん。自分都合の商売はやめましょう。時間がないから雑なサービスでOKというわけではありません。時間がない中で雑なサービスをされると、逆にお客は覚えています。限りある時間の中で、最高のサービスを提供する仕組みをつくりましょう。
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