会社を飛躍させるための目標の立て方。仲が悪い兄弟が、会社を変貌させるまでのエピソードと共に。
静かな東京の春、建設業を営むお二人が相談に来られました。
兄が社長で、弟が専務という、実の兄弟です。様子からすぐに、兄弟の仲が良くないことが解りました。
私は、お訊きました。
「いまの御社に、もっとも必要なことは何ですか?」
社長が先に答えます。
「業務の仕組化です。属人性を無くす必要があります。」
専務が答えます。
「我々経営者が、もっと社員と関わる必要があります。当社には一体感がありません。」
両人の答えとも、間違っています。そして、仲が悪い理由が解りました。
会社を一つに団結させるために、絶対に必要なものは『目標』です。
それも、『超具体的な目標』です。
その目標は、下記の形になります。
『〇年後、〇円級の〇〇を、〇件受注する』
例
3年後、大手法人から1000万円規模の案件を、年間10件受注する。
1年後、パッケージシステムの契約(月10万)を、月30件にする。
(他には、シェア率や新サービスの立上げなどありますが、それらも、上記の表現を推奨しています。)
この表現は、ビジネスにおいて必要なことを、完全に満たしています。
単価とは商品を指します。単価を指定することで、どの商品やどの顧客を重点とするのかが定義されます。
件数とは、「売り方」を意味します。期間を共に書くことで、事業の展開の大きさやスピードが明確になります。そこから、どれぐらいの設備や人が必要になるのかが、計算できます。
この表現が、自社の狙う『市場』と『占有率』を含むことになります。
どのような市場を重点とするのか。そのとき、当社は、その市場でどれほどの地位(規模)であるのか。
この一つの目標を決めることです。この一つの目標こそが、部門間の協力体制を引き出します。その結果として、会社全体の団結を強くします。
この目標は、一つの部門や一人の担当で達成できるものではありません。それだけの集客が必要になります。それだけの新規受注と解約防止が必要になります。そして、納期と品質を守り、安定したサービスを提供しなければなりません。人材の調達も、人の戦力化の仕組みも必要です。
この一つの目標が、組織をつくることになります。具体性があることで、その「大変さ」が解り、協同を生むのです。また、考え方や価値観の違いもその目標の前には、相乗効果を生む要因になります。
「年商〇億」、「地域NO1」という、具体性が無い目標は、その意味を為しません。また、事業理念も違います。事業理念は定義であり目的です。そのため組織の方向性は示しますが、期限、規模とスピードという展開に関する具体的な目標にはならないのです。生々しい目標こそが、構成員の思考と行動を引き出し、組織の形成を進めます。
(何度もお伝えしている通り、経営理念は、全く別物です。それは、経営者の理念であり、テーマです。組織形成に寄与することはありません。)
組織のただ一つの目標は、必ず『外』になります。
外、すなわち、市場に対する働きかけです。それらは「商品」か「売り方」に関することになります。
商品とは、「ある人が持つ課題(欲求)に対し、パッケージ化されたサービス」となります。その商品や販売比率をどのように変えていくのか。
売り方とは、「見込客を集め、成約し、サービスを提供し、満足してもらうための流れ。」となります。その売り方をどう変えるのか。また、どこに展開するのか。
企業と言うものは、あくまでも、『外の存在に貢献するための機能』なのです。
そこにしか存在意義はありません。そのため、ただ一つの目標は『外』になります。
ただ一つの目標が『内』にあれば、完全に間違いとなります。それでは、企業として根本を満たさないことになります。その結果、部門間の協同は生まれず、組織化が進むことはありません。
冒頭のF社のお二人に、「ただ一つの目標は何か」をお聞きしました。
すると、社長は、「業務の仕組化」をあげました。
仕組化とは、内部の体制であり、効率化です。利益率も上がります。しかし、それは直接的な「成長発展」のテーマではありません。
ただ一つの目標に、このような「内部の仕組化」を挙げる会社は多くあります。しかし、それが進むことはありません。または、その歩みは遅くなります。
「仕組化が出来た後に案件を増やす」でなく、「案件を増やすから、仕組化が進む」のです。
ここまでの説明をすると、F社長は言われました。
「この一つの目標を決めることは、非常に大変なことですね。そして、責任重大です。」すでに経営トップとしての自覚を十分に持っているF社長です。
専務は、「経営陣がもっと社員に関わるべき」と答えました。これは、暗に、社長のことを責めていることが解りました。いまの社内のごたごたと停滞感を解決するためには、社長が社員のところまで下りてくることが必要だというのでしょう。
私は、少し厳しいことをお伝えしました。
「社長には、他の誰にも替わりができない役目があります。その社長に、社内のことで憂いを持たせる様では、幹部としては失格です。」
組織は、役割分担です。社長が担うのは「未来の決定」です。その決定で会社のすべてが決まります。それに対し、幹部の役目とは、その実現です。本来は、「内部のことは俺に任せて、社長は会社の未来を創るために外へ出て行ってくれ。」と言うべきなのです。
専務もすぐにこの言葉の意味を理解されました。お二人とも、立派な経営者です。本気で顧客、社員、地域のことを考えています。
しかし、会社は、うまく行っていません。
部門間での連絡ミスや漏れが多く、お客様からのクレームが頻発しています。また、現場での手戻りも多く、コストが余計にかかっています。そして、根本的な対策は打たれません。すべてが、モグラ叩きで、繰り返し同じ問題が起きています。社内は、バラバラであり、雰囲気は最悪な状態です。
その根本的な原因を、二人は解っていました。
それは、二人の仲が悪いことです。二人の関係が、そのまま社内に影響をしていたのです。社長が営業部を、専務が工事部を見ています。そのために営業部と工事部の関係も悪くなっていたのです。
営業部は社長の言うことをきき、工事部は専務に従います。二つの部門は、全く歩み寄ろうとはしないのです。そして、管理部などの他の社員は、「どっちの言うことを聞けばいいのか」という状態です。完全に頭が二つの状態だったのです。
これは、組織においては、最悪な状態と言えます。「頭が二つの状態」こそ、企業の倒産原因の二位となります。(一位とともに、この解説はまた今度。)
面談の最後に、F社長は言われました。
「矢田先生、昔は兄弟の仲は良かったのです。一緒にできるものなら、一緒にやりたいのです。よろしくお願いします。」
隣に座る専務も小さく頷きます。第三者を入れることで状況を打破できるのではという狙いも含み、ご依頼をお受けすることにしました。
あれから、ちょうど一年が経ちます。
F社の今の目標は以下のものとなっています。
「年間3億円の受注が狙えるゼネコン2社と新規取引をする。」
この目標を実現できれば、会社は大きく飛躍することができます。
この目標によって、会社全体に一体感が生まれていきました。
営業が、具体的なリストを作り、営業攻勢をかけています。そして、すでにその狙う規模の1社から、見積を獲得出来ています。それも、見込みの高いものです。
その工事は、過去に経験が無い規模であり工法です。営業部と工事部からメンバーを出してのプロジェクトが立ち上がりました。工程や積算など、夜遅くまでその検討は続きます。そして、管理部は、施工管理者の採用に動いています。なんとしてもその1件を受注し、やりきるのだという機運が高まります。
コンサルティング開始からすぐに、F社長と専務は、経営計画書づくりに取り掛かりました。その過程で、会社の進むべき方向と価値観、そして、事業モデルと各方針を議論したのです。
ここでも、経営計画書の持つ力が発揮されます。外部に当たる時には、自然に協同状態は引き出されるものなのです。
そして、文章の上に共通認識が形成されます。社長も専務も経営計画書の前では、本音で本気で議論が出来るのです。そこでは、余計な人間関係が排除されます。
私は、経営計画書をつくる時の要所をお伝えしました。その一つに「具体性の無いものは、トコトン排除すること」があります。
経営計画書にごまかしの文字が入ると、その効力はたちまち弱まります。「徹底する」、「展開する」、「強化する」、これらは経営計画書には有ってはならない言葉です。
そんな社長と専務の様子を見て、社員も変わり始めます。営業部と工事部が各案件の打合わせをするようになったのです。そして、夏には、ここ数年間なかったバーベキュー大会を開催することになりました。
彼らも、同じ会社の人間として、いがみ合うことなどしたくなかったのです。同僚として、真剣に、そして、和気藹々と働きたいと思っていました。社長と専務のその様子に安心したのは、社員だったのです。
先日のコンサルティングの際に、私はお二人にお聞きしました。
「いまの会社の目標は何ですか?」
社長が話そうとするところに、先に専務が声を出します。
「年間3億円の受注を狙えるゼネコンを2社、新規開拓することです。あと1社です。」
声を出して笑う3人です。
会社のただ一つの目標をお決めください。
それは、超具体的です。その目標には、お金の臭いがプンプンします。
その目標を達成できれば、当社は飛躍できるというものです。
そして、その一つの目標を即答できるようになってください。
社長も、幹部も、社員も全員です。
その時、会社は変貌を遂げることになります。
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