やっぱり嫌われたくない社長がたどる道
「それでもやっぱり嫌われたくないって思う人は多いんじゃないですかね。」― 前回の私のコラムを読まれた、ビジネスで大きな結果を出されているクライアントの社長が笑いながらおっしゃいました。
そのコラムは「ある顧客層に思いっきり嫌われるからこそ、狙っている顧客層に思いっきり好かれる」という趣旨で書いたものでしたが、なかなか反響も大きく、いくつかメッセージやコメントもいただきました。
その中で多かったものが、「わざわざ嫌われなくても、どちらにも好かれる方法はある」的なご意見。
予想通りともいえますが、やっぱり皆さん嫌われたくないんですね。
これは日本の環境や教育によるところも非常に大きいです。「嫌われる=悪」、あるいは「みんなと違う=悪」という価値観を刷り込まれて育つため、ビジネスの世界に出て急に「人と違うことをしろ」と言われてもその違和感に耐えられない。
「真面目に、一生懸命に、皆がやっていることを、コツコツと、より上手に。。。」こういった価値観は高度成長期の「大きな物語の時代」にはいい方に働きました。市場のニーズが画一的かつ需要が供給を上回る時代においては、世の中で広く求められているものを上手につくっていれば売れる時代だったからです。
トヨタ自動車などはそのお手本です。他社が出した売れ筋車種をいち早く真似し、その他社をQCDで上回ることで競争優位性を獲得しました。ハーバードのマイケル・ポーターは80年代に「日本企業に戦略はない」とこき下ろしましたが、とにかくオペレーションを磨くことが日本企業の戦い方だったわけです。
ところが、大きな物語の時代が終焉を遂げ、市場ニーズが限りなく多様化された現代の「小さな物語の時代」においては、すでに売れているものを真似したところでビジネスは成り立ちません。さらには、市場で求められるものが「ハードからソフト」「モノからコト」への移行していることも、真似をする余地を少なくしています。
このような時代背景において、「みんなと同じこと」をやることはビジネスにおいては死を意味します。普通のことをやっていても誰からも相手にされないからです。
そして、その時代転換を皮膚感覚で理解していない経営者は、今までのやり方を踏襲する、あるいは世の中でうまくいっている「正しいやり方」を知りたがります。しかし、そんな「正しいやり方」とされることをやっていたのでは、埋もれるだけなのです。
現に、いま結果を出している経営者やリーダーは、従来正しいとされてきたやり方を敢えて捨てることで結果を出しています。
たとえばマーケティングでいうと、最近のヒットCMはやはりハズキルーペ。日本を代表する俳優陣に「ハズキルーペ大好き」と連呼させるベタベタなCMは広告業界においては「悪い見本」とされるものですが、綺麗なイメージを打ち出すばかりのCMに嫌気を指した会社の会長自らが指揮をとり、あのCMが生まれ、商品は大ヒットとなりました。
あるいは政治の世界においては先の参議院選挙で山本太郎氏が、まったく前例のない戦い方、かつ大政党では絶対に擁立しないような候補者を立て、資金も後ろ盾もマスコミの注目もなにもない状態で2議席を獲得しました。
両者に共通するものは「違和感」です。多くの人に違和感を持たれないようなことをやっていても、誰にも相手にされないということです。
特にこれだけ情報発信がしやすくなった現代において、ありきたりのメッセージやキャッチコピーでいくらマーケティングをしたところで、何の反応も得られません。特に資金に限りのある中小企業においては、積極的に「違和感」をつくり出していく必要があるのです。
そのためには、経営者自身がこれまで抱いてきた「優劣」や「善悪」といった価値観をいったん捨て去ることです。視点を上げ、感情を張りつけずに冷静に市場を分析し、なにを伝えればインパクトが出せるのか、どんな動きをすれば埋もれずに済むのかを考えていくことが求められます。
つまり、いい商品、いいサービス、いいキャッチコピー、いいセールストーク…、そういったものでは売れない時代ということです。
ビジネスにおいて、利益を生み出す源泉は「いいもの」を提供することではありません。「他と違うもの」、つまり他社との「差」が利益を生み出すのです。
これだけニーズが多様化した時代に、すべての顧客層に「好かれる」ことなどビジネス上あり得ません。本当に大切にしたい顧客にメッセージが届くよう、とことん違和感をつくっていきましょう。
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