まず社員をファンにする。
先日、知り合いの経営者が電話をかけてきて曰く「新卒の人材が全くとれない。何か良い方法はないか」との相談がありました。従業員10名程度のBtoB企業のため、一般にはあまり社名も知られておらず、人材採用にはハンデが大きいとのこと。
昨今の人材不足はかなり深刻で、周囲を見回せば中小企業のほとんどが同じ課題を抱えています。特に学生や一般には名前が知られていない企業のご苦労は、聞いていて胸が苦しくなります。
そこでいろいろな新手法が登場しているのですが、中でも最近よく耳にするようになったのが「リファラル採用」です。
Googleなどのアメリカの企業を皮切りに日本国内でも浸透してきた採用方法ですが、名称こそ新しい雰囲気を醸し出しているものの、手段としては古き良き時代の「縁故入社」に近いもの。伝統的な縁故入社が、たとえば社長や重役の縁故を頼って入社するものであったのにたいして、今日の「リファラル採用」はいま現在の社員が、所属する会社に適した人材を友人・知人から選抜してエントリーを促すという点で異なる趣を持っています。
ある企業では、人材採用の基準として重視していることの一つに「一緒に働きたいと思う人材かどうか」を挙げていました。その人の持つスキルや経験よりも、現在いる社員と相性が良さそうか、あるいは相違点がある場合は、理解しようと努めるかといった点を重視するという考え方であり、私も大いに同感です。
この文脈で言えば、「リファラル採用」で紹介される友人・知人は、保有するスキルや経験に加え、現在の社員から「一緒に働いてもいい」と評価されている人材であり、前述の人材採用の基準の一つをクリアしていることになります。
もう一つここで注目したいのは、その社員もまた自分の所属する会社にたいして「自分の友人・知人を紹介してもいい」というポジティブな感情を抱いていることです。「今いる会社が好きか嫌いか」と問われたら「好き」と答える社員が大多数を占めるということが、「リファラル採用」を成立させる条件となります。つまり、リファラル採用を成功させるためには、今いる社員から好かれている会社であることが前提となるわけです。
このはなし、「友人・知人」を「お客様」に言い換えても同じような風景が見えてきます。もちろんお客様は社員の友人・知人ではないですし、会社が扱う商品・サービスを、お金を払って手に入れたいというお客様であれば、「一緒に働きたい」と思えるような相性の良さを求める必要もありません。
ただ、「お客様」の求めるものが多様化し、その多様性に応じた個別の対応によって顧客満足を上げようと考えるなら、もう一歩踏み込んでお客様の背景に近づいていく必要があります。そのときに会社や仲間が好きだというポジティブな感情があるかどうかは、そのわずかな行動の違いを生むかどうかに大きく影響を与えます。
人は「粗末な」扱いをされると、他に対しても「粗末な」対応をするというネガティブな行動のサイクルが回ります。逆に「丁寧に」扱われれば、他に対しても「丁寧な」対応をする気持ちが働きます。「好き」というポジティブな感情が周囲によい影響を与えることが明白であるからこそ、会社はまず社員をファンにすることを考えたいのです。
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