手段にハマる社長と手段を活かす社長の違い
「もう慣れました。うちのM社長は勉強熱心なんですよ。現場は悲鳴を上げていますが…。」
営業部門の責任者、T本部長は、申し訳なさそうに小島に話しかけます。
「そうなんですね。もし、よろしければ背景を教えていただけませんか。」
社長が決断し、導入が決定したコンサルティング。その初日の出来事です。どのような方がいて、どのような雰囲気なのか。今日から新たな活動がスタートするキックオフの場です。期待半分、緊張半分ではありますが、小島はとても楽しみにしています。召集を受けた推進メンバーの気持ちは、表情やしぐさを見ると一目でわかります。期待しているのか、迷惑だと感じているのか。
勉強熱心な社長の会社は、社員のため息が聞こえてくる傾向があります。<また、はじまった>という思いが滲み出ているのです。この場合、導入初期に見られる特徴として、推進メンバーは横目で見ながら平静を装います。他の社員の出方を伺っているのです。そして、お互いに様子見をするわけですから、なかなか本気になれません。行動もほどほどです。
M社長の会社も、この傾向が見られました。後から聞いた話では、実は現社長になってから既に4社ほど研修会社やコンサルティング会社の支援を受け、何らかの活動をしていたのです。いずれも「営業本部を変革する!」という社長の大号令の元、プロジェクトが始まりました。しかし、どれも途中で頓挫してしまったそうです。そして、1年後には、従来のやり方に戻っている。これを繰り返していたようです。これを聞くと、社員が様子見してしまうことにも、素直にうなづけます。
世の中にはさまざまな考え方や手法が存在します。営業パーソンの教育研修や、仕組みづくりのコンサルティングも、一つの手段です。そして、手段のワナにハマる経営者は、どれだけ勉強しても成果につなげられません。その一方で、手段のコツを使いこなす経営者は、わずかな勉強でも成果につなげられます。
小さな差が、結果を大きく変えます。手段を成果につなげるためには、いったいどうしたらよいのでしょうか? どのようなコツがあるのでしょうか?
今回は、経営者が留意すべき手段を活かすコツをお伝えします。
■1.手段のワナにハマる経営者
M社長は、とても勉強熱心な方です。アンテナの感度が高く、常に新たな学びをしています。そして、自社の経営に役立てようとしています。しかし、それが裏目に出てしまったのです。
過去に導入した4つの手法は、いったいどのような観点に注力していたのでしょうか?
・1つ目の研修・コンサルティングの重点
<取り組み姿勢の問題。成長意欲と貢献意欲を高めよう!>
→ 地獄の合宿、CSR活動など。意識改革、精神性を高めることに注力しました。
・2つ目の研修・コンサルティングの重点
<御用聞き営業の限界。顧客の問題を解決する力を高めよう!>
→ 問題解決手法、ロジカルシンキングなど。原因分析と対策を立案することに注力しました。
・3つ目の研修・コンサルティングの重点
<提案力が弱すぎる。提案する力を高めよう!>
→ 企画書づくり、プレゼンテーション、コミュニケーションなど。伝える力、発揮能力を強化することに注力しました。
・4つ目の研修・コンサルティングの重点
<目標達成力が弱すぎる。業績に直結すべき。ゴールから逆算する力を高めよう!>
→ SFA(※1)の導入、行動指標の活用、コーチングなど。未来志向で行動を管理することに注力しました。
その都度、思想に一致した研修会社やコンサルティング会社を見つけ、自社に導入してきました。それぞれの手法には、メリットとデメリットがあります。しかし、メリットを享受することなく、デメリットばかりが生じていたようです。
いったいどんなワナにハマっていたのでしょうか?
早い話が、次の主な3つのワナのいずれかにハマっていたのです。
(1)問題の誤認識(目的を設定し、問題を正しく把握しているか)
(2)手段の誤選択(目的を達成するために、相応しい手段を選択しているか)
(3)実行部隊の理解(手段を実行する際に、実行者が目的を認識しているか)
問題を誤って認識していると話しになりません。また、すべての問題を解決するような、万能な問題解決手法はありません。問題の特性に一致した解決手法があるだけです。
同様に、すべての目的を達成するような、万能な手段もありません。目的に応じて適切な手段を選択しなければならないだけです。
この上で、実行部隊は、目的を意識するか、しないか、で力点が変わります。意識しなければ、表面的な活動となります。だから、創意工夫は生まれず、成果につながりません。
ココを見誤ると、メリットを享受することなく、デメリットばかりが出てしまいます。
M社長が、問題を正しく把握していたのか、相応しい手段を選択していたのか。今となっては分かりません。ただ、社員が目的を十分に認識していなかったという点は、どの手法を導入したときにも当てはまります。
目的を把握していなければ、成果につながり難い。あまりにも基本的なことです。ところが、この理解を深めることを怠っていました。さらに、勉強熱心な社長は学んだことをいろいろと試したくなります。
すると、本来の目的が忘れ去られます。何らかの手法を試すことが目的に昇格します。手法(=目的)がコロコロ変わり、一貫性がありません。そして、やりきれないため、成果もでません。この場合、社員はやるだけ無駄だと判断します。そして、お互いに様子見をします。社員の立場になれば、原因が見えてきます。
コロコロと変わる社長の大号令。社員目線で考えると、思考の流れは単純です。
- 新たな活動は、1年後には元のやり方に戻る(過去の傾向と対策から、元のやり方に戻ることが前提になっている)
- 元に戻るから本気になってやるのはバカらしい(本気で実行しても、はしごを外される)
- ただし、社長の大号令に逆らうことはできない(社長の前では賛同している顔をしたほうが良い)
手段のワナにハマった社長の会社は、社員が<何もしないほうが安心できる>という状態になっています。労多くして益少なし。やらないことが正解。誰も本気で行動しません。
御社は、「手段のワナにハマっていない」と言い切れますか? 今一度、客観的にチェックしてください。
※1:SFAとは、営業部隊の営業活動を効率化する支援システムのこと。セールス・フォース・オートメーションの略。クラウド上にデータを保管し、営業パーソンのパソコンやスマートフォンで営業情報を登録・確認・活用できるものが多い。
■2.手段のコツを活かす経営者
(1)問題の誤認識(目的を設定し、問題を正しく把握しているか)
(2)手段の誤選択(目的を達成するために、相応しい手段を選択しているか)
(3)実行部隊の理解(手段を実行する際に、実行者が目的を認識しているか)
この3つのワナを克服すれば、手段を活かすことができるのでしょうか?
実は、これだけでは不十分です。なぜなら、各手段のデメリットに対して嫌悪感があり、感覚的にやりたくないからです。この嫌悪感を払拭しなければ、社員は素直に実行しないのです。
・1つ目の研修・コンサルティングの嫌悪感
それは、精神論に対する嫌悪感です。特に、自己責任の意識が受け入れられません。客観的に見れば、自身にも環境にも他人にも、それぞれ原因があります。本来は、自身に原因である部分に向き合い、考え方や行動を見直そうという思想です。ところが、「全責任が自分自身にあることを強制されている」と社員は勘違いをします。
社員は聖人君子ではありません。神様でもありません。誠実さもあれば、エゴもあります。そのため、強制されたことは、一時的な効果しかでません。さらに、負荷をかけ無理に意識させると別の問題が発生します。精神病になるリスクが高くなるのです。
・2つ目の研修・コンサルティングの嫌悪感
それは、原因分析に対する嫌悪感です。原因分析は、過去に焦点を当てる手法です。この過去の解釈は変えれますが、事実は変わりません。
結局、自己責任の意識で考えることが求められますが、どれだけ考えても潜在的に自己否定はしたくないものです。すると、自己防衛に走ります。自身の現状を認めることに逃げ、環境や他人のせいにします。何も変わりません。
・3つ目の研修・コンサルティングの嫌悪感
それは、伝える力に対する嫌悪感です。現在の発揮能力が不足していることに焦点を当てます。また、「能力は一瞬では高まらない。努力しても高まる保障はない。」と思い込んでいます。
ところが、今まで自分なりのやり方で、何とか生きてきました。すると、潜在的には恒常性維持機能(ホメオスタシス)が働いているので、従来の発揮能力を死守しようとしてしまいます。
・4つ目の研修・コンサルティングの嫌悪感
それは、未来志向の行動管理に対する嫌悪感です。行動管理は、やるか、やらないかに焦点を当てます。戦略・戦術のミスには、触れられませんし、明るみになりません。戦闘レベルで追求される手法だからです。
結局「いいからやれよ!」と言われます。つまり、本人の意識の問題として取り扱われるのです。すると、モノとして扱われる感覚、やらされ感だけが残ります。そして、1つ目のコンサルティングと同じようなデメリットが生じます。
実は、どの手段も潜在的が抵抗してしまうのです。だから実行されません。
- 過去は変えられない。原因分析ではなく、自己防衛に走った方が安心する
- 現在も変えたくない。変化するリスクよりも、現状維持の方が安心する
- 未来も変えたくない。機械のように扱われるよりも、人間としての現状を維持した方が安心する
これが、嫌悪感の弊害です。
その一方で、手段のコツを活かす社長の会社は、異なります。逆に<活用したほうが安心できる>という状態をつくっています。例えば、失敗は無く、フィードバックがあるだけ。やったもの勝ちという状態。社員がこう感じたら、誰もが進んで取り組み始めます。
御社は、「社員が持つ嫌悪感」を無効化させていますか? この点も、今一度、客観的にチェックしてください。
■3.<活用したほうが安心できる状態>をどのようにつくるのか
冒頭で紹介した会社も、タイミングが違えば成果が出たかもしれません。また、研修を実施したり、コンサルティングで仕組みを導入したり、いずれかの手法で成果を出している会社もいます。
成果だす会社は、なぜ上手くいくのでしょうか?
大切なことなので繰り返します。社員が持つ嫌悪感を無効化させているからです。つまり <活用したほうが安心できる> こういう状態をつくっているからです。
それでは、この状態をつくるには、どのような留意点があるのでしょうか?
あなたが、もしこの答えを答えられなければ、偶然成果が出ただけかもしれません。再現性はありますか。また、短期的に成果が出ても、中長期的に副作用は出ませんか。同じ手段に執着し、弊害が出るケースがほとんどです。
再現性高く、<活用したほうが安心できる状態>をつくりだすにはどうしたらよいのか。本コラムでは、本質的な留意点のみお伝えします。(ここが一番重要です)
この本質的な留意点とは、経営者と社員、それぞれの時間軸を滑らかにつなげることです。
経営者自身が過去・現在・未来という時間軸を、滑らかにつなげて認識していること。そして、社員一人ひとりも、時間軸を滑らかにつなげて認識していることが重要です。
話が飛躍しているので、少々分かり難いかもしれません。
繰り返しますね。社長と社員。それぞれが時間軸を滑らかにつなげて認識していること。これがポイントです。
このとき、社長の思考・直感は、現在から過去・未来を自由に行き来できます。我が社の変化のプロセスを、手に取るように把握できるます。そして、変化のボトルネックを見極め、目的に応じた手段を選択します。つまり、何を導入すべきか、真の原因を見抜き、的確に判断することができるのです。
そして、社員の思考・直感も、現在から過去・未来を自由に行き来できるようになります。そして、変化するリスクは、現状維持のリスクよりも圧倒的に安全であることに気づきます。すると各手段の嫌悪感が緩和し、自然と行動しようと感じるようになります。
その一方で、経営者が過去・現在・未来といういずれかの視点に偏っているとき、もしくはぞれぞれの視点が分断されているとき、誤った手法を導入してしまいます。また、社員は現状に注力しています。時間軸が断絶され、変化のプロセスをイメージできません。すると、デメリットばかり生じるようになります。
経営者として、ぶれない軸を持つ。つながりを認識する。部分より全体を優先する。
時間軸という観点で、全体最適で手段を生かす。これが、留意点でありコツです。場合によっては、社長の方針がコロコロ方針が変わって困る、社長は時と場合で言うことが違う、朝令暮改だ、と社員に言われるかもしれません。しかし、より一段高いところから見れば社長は一本の筋を通している。これが徐々に社員に伝わります。
できる経営者の時間軸。手段のコツを生かす経営者は、時間軸を滑らかにつなげています。すると<活用したほうが安心できる状態>になります。
もし、御社の取り組みが過去のみ・現在のみ・未来のみと、特定の時間軸に注力していたり、時間軸が分断されていたりすれば、ぜひ過去⇔現在⇔未来と時間軸をつなげる工夫をしてみてください。
※追伸
弊社は、過去⇔現在⇔未来の時間軸を滑らかにつなげる具体的なノウハウとして、【業績3年先行管理の仕組みづくり】を公開しております。全社員が進化・成長しながら稼ぎ、社会貢献する仕組みづくりです。興味がある経営者様は、ぜひセミナーにご参加ください。
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