親子経営 繁盛と繁栄の秘策 エピローグ
経営交代はビッグチャンス
究極のところ親子経営の要諦はと問われたならスムーズな経営交代にありと答えます。後継者の育成などを含めた準備期間から後継者が経営者となって独り立ちするまでの経営交代の期間を如何に上手く乗り切るかが最も難しいところであり最も重要なポイントになります。
経営者である父親からすれば後継者と思う子供を経験と知識を積ませながら経営者に据え、傍から経営者として一人前になるのを見守っていくまでの期間であり、後継者である子供からすれば後継者として経営者になるための準備をし経営者となってから一日も早く自他ともに認められる経営者となるまでの期間が私が言う経営交代の期間です。
経営交代に要する期間はケースによりそれぞれです。短くて3年、長くて10年というところでしょうか。今回は私が理想とする経営交代の話しをします。私が言う理想的な親から子への経営交代は、社長が代わることで会社の業績がさらに良くなると、社内外から期待されるようなスタートを切ることに他なりません。
継がせようとする者と継ごうとする者、両者にフォーカスし、継がせようとする者には、心構えと覚悟を促します。継ごうとする者には、先代への感謝と尊敬の念を新たにし、謙虚に経営交代の準備をしてもらいます。
経営交代はまさに、陸上400メートルリレーそのものです。その勝敗は、バトンパスをどの地点でどんなスピードで次の走者に上手く渡すかにかかっています。バトンパスができるテークオーバーゾーンは20メートルと決まっています。
バトンパスをテークオーバーゾーン内で行うため、走者はスピードを落とさねばなりません。次走者はテークオーバーゾーン内でバトンパスを受けるため、懸命にスピードを上げねばなりません。このタイミングがすべてを決めます。
同じように、経営交代において最も大切なことは、継がせる者と、継ぐ者がタイミングを合わせることです。継がそうとする社長は現役ですから、もちろんトップスピードで走っています。
トップスピードで走っている社長から見れば、後継者の走る姿はなんとも頼りなく見えるものです。後継者はバトンを受け継ぐために、これから走り出そうとしていることを理解してやらねばなりません。現役の社長はトップスピードで走っているのですが、そのことを忘れてしまいがちです。そして後継者の走りがなんとも遅いものだと思うのです。
後継者が社長となりスタートを切った後、後継者がトップスピードに一日も早く乗れるよう育成し見守らねばなりません。後継者は新体制になったことで、さらなる社業の成長を描いたビジョンを広く示す必要があります。そのビジョンは、聞くもの誰もが魅力を感じるものでなければなりません。
先代経営者は、そんな頼もしい後継者を見守りながら、一抹の寂しさを噛みしめ、これからの自分の新たな人生を歩き始めることを考えます。以上があくまでも私が思い描く理想の親から子への経営交代です。
ここで論語より一節、「子曰わく、父母に事(つか)えては幾(ようや)くに諌む。志の従われざるを見ては、又敬して違わず、労)して怨みず。」
私なりの解釈をしますと、「両親になにか間違いがあればそれとなく話をしてみることだ。そうしてもしこちらの言うことを聞いてもらえないときにはさらに慎み深くして逆らわないことだ。またさらに話をして聞いてもらえなかったとしても決して怨んではいけない。」となりましょうか。
父親に対して息子が何か間違いを指摘する際は余程言葉を慎重に選んで言う必要があります。父親に限らず目上の人に諫言をすることはとてもデリケートな心使いが要るものです。誰しも目下の者から意見されることは面白いことではありません。
親子で共に仕事をするときは親子の関係性が良好であるに越したことはありません。親子の関係性は相対性のものですからどちらかでも変えようと思えば変わるものです。ここは頑固な父親よりも素直な息子の方から変えてみることです。
父親に対しなにか意見を言う際にはストレートにものを言うのでなくそれとなく分かってもらえるような言い方を考えてみることが大切です。息子の出方が変われば父親の反応も当然違ってくるものです。
親から子へスムーズな経営交代が為されるためにも親子の関係性が良好であるに越したことはありません。親子ともがそれぞれに相手に対し譲るところがあればこの上なくいい関係になるのは当たり前のことです。
親から子へのスムーズな経営交代の実現が親子経営をさらに強める起爆剤となります。企業にとっては経営交代が成長、発展のための大きなチャンスととらえ前向きに積極的に取り組んで欲しいものです。
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