第16話 上司が変わる時に、部下の士気が低下する本当の理由
「園田さん、現場の管理職の人事異動をしたのですが、どうも後任者の評判が良くないんです・・・」
ー月例のコンサルティング会議での社長の言葉です。
さらに詳しくお聞きすると、仕事の進め方は変えていないのに、前任者が築き上げてきた、社員同士が率先して助け合う信頼関係が希薄になり、業務が停滞するようになって、”後任者は仕事が出来ない”という悪評が蔓延し始めているようなのです。
私から社長に、「前任者はどんな引き継ぎをしたのでしょうか?」とお聞きすると、「仕事の進め方は一通り説明していたようです。何より残念なのは、後任者は”人事・労務”には社内で一番明るい人材ですから、現場のマネジメントも難なくできると期待していたんですが・・・」とのことでした。
このやり取りからわかることは、仕事の進め方を精緻に整備したり、それを漏れなく引き継いだり、また能力のある人材を配置したりしただけでは、”率先して互いに助け合う職場”を持続する事は難しいという事です。
それでは、前任者から後任者に引き継ぐ時に、他に何をすべきだったのでしょうか。その答えは次の言葉にあります。
それは・・・”仏作って魂入れず”という言葉です。
同じ”仕事の進め方=仏”なのに、前任者の時は上手に機能して、仏を譲り受けた後任者になったら機能しなくなったのは、その仕事の進め方に込められた”魂”が、前任者と後任者との間で共有されず、仏から抜け落ちてしまったからなのです。
それでは、前任者が仕事の進め方に込めた”魂”とは何だったのでしょうか。後日ご本人にお聞きしたところ、それは、”部下の成長支援がマネジメント層の大切な役割である”という”使命感”だったようです。
例えば、前任者は部下に対して、月次工程表は手を抜かずに作成するように指示していました。それは、工程表作成という日常業務を通じて、次のようなメッセージを部下に伝えるためでした。
(部下に伝えたいメッセージ)
- 仕事は段取り八分だよ。
- 基礎知識(例:労働時間管理のための法的知識等)は若い内に吸収しろよ。
- 仕事ばかりじゃダメだ。自己啓発や家族との時間も大切にしろよ。
つまり前任者は、若い部下がマネジメント層になった時に、スムーズに組織運営ができるように、そして、会社と共に部下自身も成長できたと実感できるように、日頃から、仕事の進め方を指示する時に、”魂”を込めて、部下の成長を支援していたのです。
そして、この前任者の”魂”は、将来はマネジメント層として活躍したいという部下の目標としっかりと摺り合って、”自律的に課題解決をしていこう”という部下の高い志、率先してお互いに助け合う職場の文化、そして卓越したQCDに繋がっていたのです。
この前任者は、まさしく、”経営者の夢を共に実現するプラチナ社員”の育成を、地で実践していたのです。
しかしこの前任者は、最後の最後に大きな失敗をしてしまいました。仕事の進め方を精緻に整備し、部下の成長も支援してきたのに、後任者にだけは、仕事の進め方に込めた”魂”を伝承しなかったのです。まさか人事・労務のプロがしん酌しないはずはないと踏んだのです。
しかしながら、同じマネジメント層だからといって、組織マネジメントに対して同じ考え方、”魂”を持っているとは限りません。人事異動後に、前任者の”魂”を吹き込まれた士気の高い部下と、”魂”を共有していない後任の上司との間で、仕事の進め方に対する想いの相違が表面化し、お互いの不信感が芽生えてきたことは自然な成り行きだったのです。
そしてこの不信感は、上司や経営層への敵対心へと変わり、最終的には、”もう指示された通りにしか仕事をしない”、”後のことは知らない”、”失敗は前(後)工程の責任だから知らない”という、自己中心的な職場風土を生み、業務が停滞・混乱するまでに、組織が疲弊していったのです。
仏作って魂入れず・・・仕事の進め方を整備し、それに”魂”を吹き込むことも大切です。そして、その”魂”を自分一人のものとせず、組織の中で、皆に伝承していくことがもっと肝要なのです。
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