やる気溢れる社員の首に鈴をつけなければならない時
「日本には400万社を超える数の企業があって、そのほとんどが中小企業なんですよね…。日本が元気になるには、我々中小企業が元気で成長し続けなければなりませんよね…。」
先日、ある講演会でご一緒した隣りの席の社長様との話題です。確かにおっしゃる通り、中小企業の成長は我々日本の元気!…と、そう願いたいところです。この社長様の会社は、この10年売上は微増ながらも右肩上がり、社員の入れ替わりも少なく非常に安定した経営をされているそうですが、「元気に成長」という言葉とは少し遠い印象を抱きました。そのワケは?
社長の右腕であるこの会社の営業部長は、実に何でもこなすスーパーマンだそうです。現場の管理から顧客対応、新規開拓までほぼ一人でやってしまうそうで、社長が不在でも安心して会社を任せることができる存在なのだそうです。その方のおかげで会社は安泰、社長様もご安心ですね、と申し上げると、
「いや~実はそうでも無い部分もありまして」と。
聞けばこの部長、仕事熱心で責任感が強いのは良いのですが、部下の仕事も全部自分で片付けてしまい、顧客管理も全て自分の頭の中のコンピューターにインプットされているために、他の社員では対応ができない、しかも、社内にはマニュアルも無ければ情報を共有する仕組みも無く、この部長が居なくなったらどうなるのだろうか?と一部の社員からは不安の声も上がっているのだとか。
本来であれば、彼には管理の仕事に専念し、そろそろ後継の育成に注力して欲しいところなのでしょうが、現場が大好きなこの部長から実務を取り上げることは誰にもできないそうです。しかも、一番厄介なのはこの部長、とてもやる気があり、明るい人柄で社員から慕われ、部下のことを思いやるがゆえに仕事を全部片付けてしまう…という、「全く悪気が無い」ところです。
そんな彼に社長もキツく言うことができず、体制を変えれば売上が落ちてしまうかもしれないという不安も手伝って、まあまあそのうちにと今までやって来てしまったのだそうですが、周りを見ると20代、30代の社員の育成に力を入れている会社も多く、60前の彼が未だに現役のトップ営業マンであることに流石に焦りを感じ始めたのだそうです。
人の育成を考えるべきか?
売上を優先させるのか?
経営者にとっては非常に頭の痛い問題ですよね。大手企業に比べると人材の確保が特に難しい中小企業では、どこの会社も多かれ少なかれこのような問題を抱えています。この会社は売上が伸びて経営も安定している分まだ幸せな方なのかもしれません。しかし社長も部長も一生現役というワケにはいきません。いつかは思い切って世代交代をしなければならないのです。経営が安定している時期であれば尚更、思い切ってリスクを取るべきなのです。
「60代の営業部長が全国飛び回っているような会社、私が取引先ならお断りしますね」
そう言うと、少しムッとした表情をされましたが、その後、「やっぱりね」とニッコリ。いつその覚悟を決めようかと悩んでいらっしゃったそうですがどうやら踏ん切りがついたご様子でした。
自分がいなければ会社は回らない・・・
自分でないとこの顧客は対応できない・・・
自分がやるのが一番早いんだから・・・
優秀な幹部であればあるほど、このように仕事を独り占めしてしまいがちですが、会社の永く安定した成長と、未来への挑戦を考えた時、今の組織、今の仕組みで本当に顧客を守ることができるのか?真剣に考えなければなりません。なぜなら、取引先企業が「永く成長し、発展し続けたい」と考えているのであれば、自ずと「未来への可能性を感じる企業」を選ぶからです。
経営者の皆さま、やる気があるからと会社を社員任せにしていませんか?組織をつくるのも、未来への人材を育成するのも、社長の仕事なんですよ。
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