第15話 ”全社一丸”が社員の経営不信を助長する本当の理由
「園田さん、色々やらなきゃいけないことはわかっているんです。全部、最優先課題なんです。でも、モグラ叩きのように次から次に問題が出てくるんです。どうすればいいでしょうか?」
ー顧問先の経営者会議における社長の言葉です。
私から、「問題の本質は、”現場の管理体制”に特定できそうです。現場を一任できる人材を育成するまでの間は、経営者のAさんを現場管理担当役員として配置したらいかがでしょう・・・」と提案しました。
これを聞いていたAさんからは、「とんでもありません!多くの業務を任せられたままでは、現場の管理まで、とても手が回りませんよ。そのことは社長も知っているはずです・・・」と、半ば諦めとも、悲鳴とも取れる発言がありました。
それを受けて、「それでは、Aさんの担当業務の整理から着手しましょう・・・」という社長の言葉を期待したのですが、ご本人からは「いくつかの解決策が見えてきました。どれもしっかりやっていくしかないですね・・・」という言葉が返ってきました。”どこから手をつけていいかわからない”という局面に至ってもなお、”全てが最優先”なのです。
このやり取りからわかることは、組織マネジメントに悩んでいる社長は、”優先順位を決め(られ)ない”場合が多いということです。それでは、なぜ、社長は、”優先順位を決めない”のでしょうか?その答えは、次の言葉にあります。
それは・・・「全社一丸」という言葉です。ここでは「卓越したチームワーク」と言うより、「総花的」「横並び」という意味で使っています。
社長は、様々な課題を把握できる立場にあるからこそ、課題を抱える社員・組織の期待に、できるだけ多く応えようとします。また、優先順位を決めることにより、特定の組織だけがクローズアップされる(またはクローズアップされない)結果、「何で私たちだけが・・・」と抵抗に遭うことも往々にしてあります。
そこで社長自身の中で、”あちらを立てればこちらが立たず”という”二律背反”を回避したいという意識が働きます。そして最終的に優先順位を決めずに、全組織が横並びの複数の解決策を採用してしまいます。さらに、これらの解決策を、”全社一丸”という耳障りのいいキャッチフレーズで社内を鼓舞しながら、実行に移してしまうのです。
”全社一丸”という言葉は、優先順位を決めない社長の言い訳に過ぎないのです。
ところが、この二律背反は先送りされただけです。解決策を実行する段階で、社員が調整をする羽目になります。そして、大抵このような調整業務は、できる社員、信頼の置ける社員に集中します。人材が少ない中小零細企業であればなおさらです。できる社員が、積み重なる調整業務にがんじがらめになり、ついには、その人の能力を超えてしまって、いつになっても、どの解決策も成就しないという事態を招いてしまうのです。
”優先順位をつける、”今はやらないことを決める”という過程は、解決策を確実に実行して成果を享受するために、絶対的に必要なのです。
さて、最後に”優先順位を付けない経営”と”ブラック社員”との関係も見ておきましょう。
私は前職にあった時に、”全社一丸となるべき大切な時に、あの部署の社員はいつも会社に非協力的だ。何でもいいから解決策を提案させなければならない”という邪(よこしま)な想いだけで、横並びの解決策を強要していたことがあります。
また、”この問題を解決するには、あの部署が努力をすればいいのだ”という先入観だけで、科学的検証や解決までのシナリオが描けないまま、余計な仕事を特定の部署に押し付けていたこともありました。
経営者が真剣に優先順位を付けない、感情に任せた取り組みなど、すぐに社員に真意がばれてしまいます。その後、その部署の社員が、より一層、会社に非協力的になり、最終的には、経営者と社員の敵対を望むブラック社員の手に堕ちたことは、言うまでもありません。
”全て優先、全社一丸”。その社内文化をいつまで続けるつもりですか?
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