親子経営 繁盛と繁栄の秘策 息子がしてはならない7つのこと①
拙速の戒め
後継者が父親の後を継いで経営者になったとき、最も気をつけねばならないことからお話しします。このことが最も重要であると同時に最も多く現実に起こっていることで、現にたくさんの「お家騒動」といわれる企業不祥事の直接的な原因にもなっています。
後継者が新たに経営者となったとき、あれもしなければこれもしなければと心が逸るものです。長年父親の下で後継者として経験を積み満を持しての登板ともなれば一日でも早く経営者として腕を振るいたいと思うのが当然のことです。
また、父親が高齢になったため急きょ後継ぎとして経営者にならざるをえなかったとか、父親が亡くなったので仕方なく後を継ぐことになったなどの場合でも、一日でも早く経営者として会社をコントロールしなければと思うものです。
それらのときに気を付けなければならないのが「拙速」にそれまでの何かを変えようとしないということです。同じように「拙速」に何か新しいことを始めようとしないということです。
このコラムで何度もご登場頂いて誠に恐縮ではありますが、大塚家具の「お家騒動」の一因がまさにここにあります。父親である前会長にもいくつかの原因を作った責任がありますが、ここでは娘である現社長の責任についてお話しします。
父親側の事情と思惑は別にして父親から急きょ後継として社長に就いた娘さんがまずしたことは、父親がしてきたことの全否定からでした。父親が地方の家具店から現在の企業規模にするにあたり成長のビジネスモデルがありました。
大型店舗で高級家具を会員制で販売するというそれまでになかった独特のスタイルで売り上げをどんどん伸ばしてきました。しかしながら消費の低迷が多分に漏れず大塚家具にも影響を与えます。
それまでの成長路線が描けず売り上げが頭を打ちます。そのようなときの経営交代ですので、新たに経営者となった娘さんがあの手この手と手を打とうとすること自体は非難することはできません。
ただ惜しむらくは経営改革を行うにあたり、父親である前会長への心遣いが足りなかったのではと思われます。察するに相談をするとか助言を仰ぐとかが無かったのではと考えます。
確かに競合各社の動きや消費動向の変化などがあり、かつてのビジネスモデルでは会社を維持できないとの判断があってのことだと思うのですが、父親の心情の把握と配慮が欠けていたことは否めません。
論語から一節、「子曰わく、父在(いま)せば其(そ)の志を観、父没すれば其の行を観る。三年父の道を改むる無くんば、孝と謂うべし。」と。
私なりに解釈しますと、「父親が存命中は父親のやり方、考え方をじっくりと見させてもらい、父親が亡くなれば父親がしてきた事績をじっくり振り返る。三年間は父親がしてきたことは改めない。それが父親を敬うということになる。」と、なります。
当時は服喪三年と言いますから満二年ということになります。今の時代になおかつビジネスの世界でというとそんな悠長なことは言っておられません。しかし、「拙速」を戒めるということでは今の時代にも通じる話かと思います。
譲った父親の面子や誇りに配慮がなければ父親が感情を害することになります。また父親の下で仕事を共にしてきた古参社員の賛同がなければいたずらに反対勢力を自ら作ることにもなります。
2年とは言いませんが、半年か一年は新経営者としてじっくりと社内、社外環境を観察してから、父親の理解を得ながら社内改革や新規事業に着手すべきと考えます。そしてやり始めたなら果敢に実行するのみです。