欧州(EU)が示した本気の環境対策 ― ルールを緩めてでも進めたいグリーン政策
最近の研究会で、ヨーロッパ(EU)の環境政策が新しい段階に入ったという話を聞きました。環境問題に本気で取り組む姿勢が、これまで以上にはっきりしてきたということです。
EUでは2021年から「タクソノミー」というルールを導入しています。これは、企業の環境に対する貢献度を評価し、優れた活動に投資マネーを集めるための仕組みです。たとえば、温暖化を防ぐ対策や自然を守る活動にお金を流すことで、環境問題への取り組みを「負担」ではなく「ビジネスチャンス」に変えるのが目的です。
タクソノミーでは6つの分野が重要視されています:
- 気候変動の防止(緩和)
- 気候変動への対応(適応)
- 水や海の保護
- 生き物の多様性の維持
- 汚染の防止
- サーキュラーエコノミー(資源の再利用を目指す仕組み)
ただし、現実には気候変動に関する2分野が中心で、それ以外の4つの分野はあまり進んでいません。だから「結局は温暖化対策だけでは?」という見方もあるのです。
そこでEUは、より多くの産業や企業を対象に加えたり、新しいルールをつくろうと努力してきました。社会的な要素(働き方や人権など)を含める議論もありました。
しかし最近、状況が変わってきました。中国が環境ビジネスで強くなりすぎたことや、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけで安全保障の問題が注目されるようになったこと、アメリカの政治が環境よりも経済を重視する方向に動いたことなどから、EUは「より現実的な政策を取るようにしよう」と考えるようになりました。
そこで今年2月、「オムニバス提案」という新しい政策が出されました。これは企業に課されていた情報開示のルールを見直し、批判のあった手続きの複雑さを排除して、よりシンプルにしようとするものです。具体的には次のような内容です:
- 数値目標(KPI)の一部を義務ではなく任意に
- 報告すべき情報の量を減らす
- 対象となる企業の数を大幅に減らす(約5万社 → 大手企業のみ約7千社)
一見すると「緩くなった」と思えるかもしれませんが、これはむしろ「本当に重要な企業に集中して取り組もう」という方針転換です。
たとえばこの新ルールが出る直前に、鉄鋼・セメント・化学など「排出量の多い産業」に向けた新しい政策も出ており、金融機関がそうした産業の環境改善をどうサポートできるかが具体的に書かれています。つまり、ルールをゆるくする一方で、的を絞って本格的な脱炭素化を進めようとしているのです。
これは、日本でも以前から言われていたことと似ています。「まずはCO2を多く出している大企業を減らさなければ、本気とは言えない」という意見です。今、EUはその方向に大きく舵を切ったというわけです。
この変化が今後どう進んでいくのか、特に今年11月の気候変動に関する国連の会議(COP30)が開かれるブラジルで、EUがどのような成果を報告するのかが注目されているのです。
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