利益率15%改善!?クロスセル導入前後の収益比較

「売上はそこそこあるんですが、気づけば毎月の資金繰りに追われていて……。社員にも賞与を出したいし、設備投資もしたい。でも現実は、なかなかお金が残らないんです」―これは、先日当社の個別相談にいらした建設業の経営者の方の切実な声です。
実はこうした悩み、業種を問わず多くの中小企業に共通しています。売上が伸びても、なぜか利益がついてこない。焦って売上を追いかければ追いかけるほど、値引きや過剰サービスが増えてしまい、利益率はどんどん下がっていく。
「このままでは、売れているのに潰れるかもしれない」
そんな不安を抱えながら、目の前の売上にしがみついている会社は少なくありません。
では、どうすれば「売上」と「利益」を両立できるのでしょうか?
そのヒントとなるのが、今回のテーマである「クロスセル」です。
今ある商品、今いる顧客で、利益率を改善できる。しかも、無理な値上げも、新商品開発も必要ありません。
本コラムでは、ある中小企業がたった一つの工夫で利益率を15%も改善させた実例をもとに、売上依存から脱却する営業改革のヒントをご紹介します。
はじめに
「売上は悪くない。なのに、なぜかお金が残らない。」
そう嘆く中小企業の経営者は少なくありません。頑張って営業し、商品が売れているのに、月末になると資金繰りに頭を抱える——これは単なる経費の問題ではなく、ビジネスモデルそのものが収益を生まない構造になっている可能性があります。
その原因のひとつが「単品販売」に頼った営業体制です。商品を一つ売って終わり、追加提案なし、継続的な関係づくりもない——これではどれだけ商品力があっても、利益は思うように積み上がりません。
一方、一部の中小企業では、あるシンプルな仕組みを導入するだけで利益率を大きく改善しています。それが「クロスセル」です。クロスセルとは、既存の商品に加えて関連商品を提案し、顧客の購買単価を自然に引き上げる販売手法です。
特別な新商品を開発せずとも、今ある商品で利益を最大化できる。それがクロスセルの最大の魅力です。
本コラムでは、クロスセル導入によって利益率を15%も改善させた実例をもとに、単品販売の落とし穴、導入後の変化、失敗企業の共通点、そして現場で実践するための具体策までを体系的に解説します。
売上を追うだけの経営から一歩進み、「利益を残す仕組みづくり」へと転換するヒントが、ここにあります。ぜひ最後までご覧ください。
1. 利益率が上がらない…中小企業が陥る“単品販売”の落とし穴
「売れているのに、なぜか利益が残らない」――そんな悩みを抱えている中小企業は少なくありません。特に、売上が順調に伸びているにもかかわらず、資金繰りが苦しくなるケースには、ある共通した原因が潜んでいます。
それが、“単品販売”への依存です。商品やサービスを単発で提供し、そこに追加提案や継続的な関係づくりが伴っていないと、いくら売っても利益は残りにくくなります。
この章では、中小企業が気づかぬうちに陥ってしまう単品販売の構造的なリスクについて、具体的な経営現場の声を交えながら解説していきます。
1.1 「売れているのにお金が残らない」社長たちの共通の悩み
「売上はそこそこあるんです。でも、なぜか通帳の残高が増えないんですよ」
そう語るのは、社員数20名ほどの製造業を営む社長です。地域密着で20年以上続く企業で、毎月安定して受注があるにもかかわらず、月末になると資金繰りに追われています。
これは決して特別な話ではありません。実際、多くの中小企業が「売上があるのに利益が残らない」という状況に陥っています。しかも、その原因に気づかず、さらに売上を追い求めてしまう悪循環に陥っているのです。
なぜこうした現象が起こるのか。結論からいえば、利益を生み出す構造がないまま、売上だけを増やそうとしていることに問題があります。
たとえば、受注が来るたびに割引をしてしまったり、「とにかく仕事を取らなければ」と利益率の低い案件も断れなかったり。忙しい毎日をこなしているうちに、気づけば「働いても働いても儲からない」状態になってしまうのです。
このような経営者の多くが、共通して陥っているのが“単品販売”への依存です。
1.2 粗利率を見ずに“売上至上主義”になっていないか?
単品販売とは、一度の取引で一つの商品(またはサービス)を売るスタイルです。もちろん、すべての販売が悪いわけではありません。ただし、それだけに依存していると、売上の絶対量を増やさない限り、利益を伸ばすことが難しくなります。
多くの経営者は、「売上を増やせば何とかなる」と考えがちです。これは大企業であれば通用する戦略かもしれません。しかし、中小企業においては「売上よりも粗利率をどう高めるか」が経営の生命線です。
売上が1,000万円あっても粗利率が20%なら、粗利は200万円。そこから人件費や固定費が引かれれば、利益はほとんど残りません。一方で、売上が800万円でも粗利率が40%あれば、粗利は320万円となり、より健全な経営が可能になります。
しかし、現実には「とにかく数字を伸ばそう」として、利益の薄い案件を取る→人も時間も消耗する→お金が残らないという負のスパイラルに入ってしまう企業が多いのです。
売上を追うことが目的化し、結果として「安売り体質」に陥ってしまっているケースも少なくありません。
1.3 単品販売の限界と、値下げ競争に巻き込まれる構造的リスク
単品販売を続けることの最大のリスクは、価格競争から抜け出せなくなる点にあります。同業他社との違いを価格以外で表現できない場合、顧客は自然と「安い方」を選びます。そうなると、値下げせざるを得ない状況が生まれ、利益を削って売上を作る、苦しい経営が続いてしまうのです。
さらに、価格で勝負してしまうと、顧客の目は「値段」にしか向かなくなります。「またあの会社に頼もう」と思ってもらうには、価格以外の価値を感じてもらう必要があるのですが、単品販売ではそれが難しくなります。
ここで問題となるのが、顧客との関係が“点”になってしまうことです。商品を売って終わり、サービスを提供して終わり。このような取引は、信頼関係が深まらず、継続的な売上にもつながりにくくなります。
一方で、クロスセルやアップセルのような手法を取り入れていれば、「関連商品もあります」「次回はこちらがおすすめです」といった提案が可能になり、顧客との関係を“面”に広げていくことができます。
つまり、単品販売だけでは、経営が不安定で、利益が出にくい体質に陥るという構造的リスクをはらんでいるのです。
中小企業の経営において大切なのは、「たくさん売ること」ではなく「賢く売ること」です。現場が苦労して売っても、それが利益にならなければ意味がありません。今ある商品、今の顧客で、いかに効率よく利益を出していくか。
この視点に立つことこそが、次の章で紹介する「クロスセル導入による収益改善」への第一歩となるのです。
2. たった一工夫で利益率が15%改善!?クロスセル導入のインパクト
利益率を改善したい――これは多くの経営者が抱える共通の課題です。ところが、値上げも難しく、新商品の開発には時間もコストもかかる。そんな状況でも、たった一つの工夫で、利益率を劇的に改善させた中小企業があります。
その工夫こそが、「クロスセル」の導入です。既存の商品やサービスに、関連商品をセットで提案する。それだけで、売上だけでなく、粗利率や顧客満足度まで大きく変わってきます。
この章では、クロスセル導入による実際の成果と、そこから見えてきた“利益を残す営業”の真の姿を、具体例とともに紹介します。
2.1 客単価が劇的に変わる!クロスセル前後の数値比較
クロスセルとは、顧客が購入した商品に対して、関連する商品やサービスを一緒に提案する販売手法です。これは単なる“ついで売り”ではなく、顧客の満足度と利益率の双方を高める戦略として非常に効果的です。
たとえば、都内で10名規模の設備工事業を営むA社では、クロスセル導入前の客単価が約18万円でした。しかし、導入後わずか3ヶ月で客単価は23万円に上昇。月間受注件数は変わらず、利益率が約15%改善しました。
これは「今まで提供していなかったけれど、本来必要とされていたサービス」を提案することで実現した成果です。具体的には、
工事に付随する定期点検契約の提案
メンテナンス用品の販売
付属機器(センサー、保護部材など)の紹介
など、顧客の“次なるニーズ”を先回りして提案したことで、自然に受注額が増加しました。
注目すべきは、新規顧客の数を増やさなくても、売上も利益も上がったという点です。中小企業にとってこれは非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、広告費や営業人件費をかけずに、収益体質を変えることができるからです。
実際、A社では営業手法を大きく変えることなく、既存顧客への“+αの提案”を追加しただけで、利益構造そのものを改善させることができました。
2.2 リピート率・粗利率にも波及する“クロスセルの連鎖効果”
クロスセルの効果は、単に客単価を引き上げるだけではありません。顧客との関係性を深めることで、リピート率や紹介率まで高める副次的効果を生み出します。
たとえば、前述のA社では、クロスセルを通じて「この会社はちゃんと自分のことを考えてくれている」という印象を顧客に持たれるようになり、定期契約の継続率が80%を超えるようになったといいます。
また、クロスセルによって提供価値が増すことで、値下げの要望が減るというメリットもあります。「セットで頼んだら便利だし納得できる価格だ」と感じてもらえるため、価格勝負ではなく価値勝負の土俵に立てるのです。
さらに、受注金額が増えることで、粗利率そのものも改善されます。原価はある程度一定であるため、売上が増えるほど利益が積み上がりやすい構造が作れるのです。
このようにクロスセルは、経営の各所に好影響を与える“収益の連鎖”を引き起こします。最初は一つの提案から始めた施策が、やがて経営全体の強化につながる。これこそが、単品販売にはないクロスセルの真の価値といえるでしょう。
2.3 「売り込まない営業」で顧客満足度まで上がった理由
「売上を上げるために営業が頑張る」——この考え方は間違ってはいませんが、多くの中小企業では“売り込む営業”が嫌われる原因になっています。とくにクロスセルを始めると、「押し売りになるのでは」と社員が不安を口にすることもあります。
しかし、実際にはその逆で、「売られた」と感じさせない提案こそが顧客満足を高めるのです。
たとえば、B社という健康食品を扱う会社では、顧客が購入した主力サプリメントに対して「相性の良い別の栄養素が含まれたサプリ」を“身体の吸収効率の観点”から提案しました。その結果、「親身に考えてくれている」と好評を得て、クロスセルされた商品が主力商品よりも高リピート率を記録するまでになりました。
ここでのポイントは、顧客の目的や悩みを起点に提案することで、“自然な営業”になるということです。これは、クロスセルが「売上のためにやるもの」ではなく、「顧客の価値を高める手段」であることを示しています。
実際、クロスセルの導入後にクレームが減ったという事例も多くあります。顧客は“売られた感”に敏感です。しかし、信頼できる相手から「あなたにとって本当に必要なもの」として提案されれば、それは歓迎されるのです。
このような営業スタイルを現場に根づかせることで、提案が“義務”ではなく“顧客の役に立つこと”だと認識されるようになります。結果として、社員の営業に対する意識改革にもつながり、組織全体の営業品質が底上げされるのです。
クロスセルは「売る商品を増やす」手法ではありません。顧客にとっての価値を最大化し、それが結果的に利益を押し上げる戦略です。
たった一工夫で、数字も現場も変わる。次章では、クロスセル導入がうまくいかない企業の共通点を見ていきましょう。
3. クロスセルが失敗する会社の3つの共通点
クロスセルは確かに効果的な販売手法です。しかし、導入すれば必ず成功するわけではありません。実際、多くの中小企業が「クロスセルに挑戦してみたものの、うまくいかなかった」という壁に直面しています。
その背景には、共通する“失敗のパターン”が存在します。ここでは、クロスセルがうまくいかない会社に見られる3つの典型的な落とし穴を紹介します。
3.1 【その1】商品の価値が社員に伝わっていない
クロスセルが機能するためには、現場の社員が「なぜこれを提案するのか」を理解していなければなりません。しかし実際には、商品やサービスの特徴をきちんと把握していない社員が、ただ“言われたから提案する”というケースが少なくありません。
たとえばある食品会社では、主力商品に加えて「相性の良い調味料」のクロスセルを始めましたが、現場の販売スタッフがその価値を理解しておらず、うまく提案できませんでした。
「おいしいからおすすめです」と曖昧に伝えるだけでは、顧客の心は動きません。どのような特徴があり、どのような人にとって、どんな場面で役立つのか。提案する側が“本気で理解”していない商品は売れないのです。
また、商品の魅力が本部や開発部だけに留まっており、現場にまで落ちていないという構造的な問題もあります。現場に商品知識がなければ、せっかくのクロスセルも単なる販促の押しつけになってしまいます。
だからこそ重要なのは、現場の声に寄り添った“伝え方”の設計と、社員自身が商品の価値を体感する場の提供です。提案するスタッフが納得し、誇りを持てるようになって初めて、顧客にもその価値が伝わります。
3.2 【その2】導線や仕組みがなく、場当たり的に終わっている
クロスセルを始めたものの、「結局やりっぱなしになってしまった」「続かなかった」という声は非常に多く聞かれます。その最大の原因が、提案の導線や仕組みが整っていないことです。
たとえば、小売店でクロスセル商品を紹介するPOPを一時的に設置したものの、誰も補充しない、商品の在庫もない、店員も案内しない——結果、顧客の関心を引くどころか逆効果となってしまったケースがあります。
このように、現場任せで運用されるクロスセルは、高い確率で失敗します。言い換えれば、“仕組みとして回る状態”にまで落とし込めていないと、やっているつもりでも成果が出ないのです。
本当に効果を出すためには、以下のような流れを社内で設計しておく必要があります。
どのタイミングで提案するのか(受注後?来店時?会計時?)
誰がどんな言葉で伝えるのか(トークスクリプト)
提案後、どうやって結果を把握するのか(記録や報告体制)
これらがないままでは、「忙しかったから今日はやめた」「時間がなくて伝えられなかった」といった理由で、すぐに実行が止まってしまいます。
クロスセルは、現場任せでは成果が続かない。だからこそ、経営側が仕組み化・見える化をし、現場が無理なく回せる流れを整備することが不可欠なのです。
3.3 【その3】「売る=悪」という誤解が現場に蔓延している
意外と見落とされがちですが、クロスセルが根付かない職場の特徴として多いのが、「売ること=悪いこと」という感情的な抵抗感です。
特に、職人気質が強い現場や、長年の“受け身営業”に慣れている社員が多い企業では、「提案すること自体が迷惑になるのでは」「無理に押しつけるのは失礼だ」と考える傾向が強くなります。
実際、とある住宅設備の会社では、優秀な職人が「営業なんて自分の仕事じゃない」「追加提案なんて押し売りだ」と言い張り、クロスセルを徹底拒否。その結果、利益が伸びずに事業全体の収益性が低下していきました。
しかし、顧客の立場からすれば、本当に役立つ商品・サービスであれば、提案されること自体はむしろありがたいものです。売ること=迷惑ではなく、「伝えないこと」の方が不親切という認識に切り替える必要があります。
そのためには、クロスセルの目的を「利益を上げるための手段」ではなく、「顧客の課題解決や価値提供」として位置づけることが重要です。現場の意識を変えるには、単なる研修ではなく、日常的な対話や顧客事例の共有などを通じて、価値提供の意味を実感してもらう取り組みが必要です。
クロスセルは「売る行為」ではなく「役立てる行為」だという価値観を社内に浸透させる。それが、抵抗感をなくし、自然に提案ができる組織をつくる第一歩となります。
クロスセルを導入しても成果が出ない企業には、必ずと言っていいほど、上記の3つの共通点が見られます。
「社員の理解不足」「仕組みの欠如」「価値観のズレ」——これらは放置すればするほど、提案が形骸化し、顧客からの信頼を損なうリスクにもつながります。
逆に言えば、これらを一つずつ改善していくことで、クロスセルは“売上アップの手段”から“会社を強くする仕組み”へと進化します。次章では、具体的にどう導入すれば、現場に自然と根づかせることができるのか。そのステップを解説していきます。
4. 誰でもできる!クロスセル導入ステップと現場での活用法
クロスセルは「特別なスキルを持つ営業マンだけが使える高度なテクニック」ではありません。正しく設計すれば、誰でも、今日からでも取り組むことができます。しかも、少しの工夫で、売上と利益の構造を大きく変えることが可能です。
この章では、中小企業の現場に無理なく根付かせるための「クロスセル導入の3ステップ」を具体的にご紹介します。難しいことは一切ありません。要点を押さえた設計と、現場目線の運用が成果を生むポイントです。
4.1 ステップ1|まずは“組み合わせ”のゴールデンパターンを決める
クロスセル導入の第一歩は、「何と何を組み合わせて提案するのか」を明確にすることです。ここが曖昧なままだと、現場が判断に迷い、提案が属人化します。
たとえば、A社では主力商品である「業務用空気清浄機」に対して、関連商品として「専用の定期交換フィルター」「除菌スプレー」「メンテナンスパック」の3点セットを推奨商品としてパッケージ化しました。その結果、現場の提案率が3倍になり、客単価も安定して向上しました。
このように、あらかじめ「この商品にはこれをセットで提案する」と決めておくことで、誰でも自然にクロスセルができる環境が整います。
理想的な組み合わせ(ゴールデンパターン)を社内で明文化するだけでも、営業現場の提案力は格段に高まります。
さらに、社内の営業スタッフやサービス担当者がそれぞれ経験した“売れた組み合わせ”を共有し合うことも非常に有効です。現場の知恵が会社全体の資産となり、仕組みとして残るようになります。
「何を提案するか」が明確であれば、誰が提案しても成果が出せる。これが、クロスセル成功の第一歩です。
4.2 ステップ2|現場が使いやすいトークスクリプトを用意する
商品を組み合わせたからといって、自動的に売れるわけではありません。次に重要なのは「どうやって提案するか」を設計することです。そのために有効なのが、トークスクリプトの整備です。
現場の多くの声として、「何と言って勧めればいいかわからない」「押し売りに思われたら嫌だ」という不安があります。ここを解消するには、誰でも使えるトーク例・提案例をあらかじめ用意することが最も効果的です。
たとえば、以下のようなトークスクリプトが考えられます。
「多くのお客様がこちらと一緒にご購入されています」
「実はこの商品、〇〇という効果を補完してくれるんです」
「このタイミングでご利用いただくと、メンテナンスの手間が減ります」
こうした言い回しを使うことで、提案が“営業トーク”ではなく“顧客への思いやり”として伝わります。
また、社内研修やロールプレイングを通じて、実際に話す練習を取り入れるのも有効です。頭で理解するだけでなく、現場で自然に口に出せることが成果につながります。
そして、スクリプトは一度作って終わりではありません。お客様の反応に合わせて定期的に改善・更新していく運用が大切です。
4.3 ステップ3|提案結果を見える化し、PDCAで改善する
どれだけ組み合わせやトークを準備しても、それが実際に使われているか、成果が出ているかがわからなければ、取り組みは続きません。
そこで必要なのが、提案結果の見える化と改善サイクルの導入です。
たとえば、
誰が、どの商品を、何件提案したか
そのうち、どれだけが成約につながったか
顧客からの反応・コメントはどうだったか
といった情報をシンプルなフォームや日報で記録するだけで、現場の実行度が把握できるようになります。
また、集まったデータをもとに週次・月次でミーティングを行い、
うまくいった提案の共有
反応が悪かったケースの原因分析
トークスクリプトや組み合わせの見直し
といったPDCAを回していくことで、クロスセルの精度はどんどん高まります。
「やって終わり」ではなく、「やった結果を振り返る」ことで、組織として成長するのです。
また、この取り組みは社員のモチベーションにもつながります。「自分の提案が成果につながった」と実感できれば、現場の意欲は自然と高まっていきます。
クロスセル導入の成功は、複雑なツールやマーケティング理論ではなく、「誰でもできる仕組み」をいかにシンプルに整えるかにかかっています。
「組み合わせ」「伝え方」「振り返り」という3つの視点を持てば、どんな会社でも成果を出すことは可能です。
次章では、この仕組みを継続する上で最も重要な考え方——「売上よりも利益を残す営業」について掘り下げていきます。
5. 売上を「増やす」より、まずは「利益を残す」営業へ
中小企業にとって、売上は確かに重要な指標です。しかし、売上がどれだけ伸びても、利益が残らなければ経営は苦しくなるばかりです。ここで必要なのは、“売上至上主義”からの脱却です。
これからの時代、中小企業が目指すべきは「利益を残す営業」への転換です。そのための現実的かつ即効性のある手法が、まさにクロスセルです。
5.1 “高く売る”より“上手に売る”が中小企業の生存戦略
よく、「うちは値上げできないから利益が出ない」と嘆く経営者がいます。確かに、競合との価格競争が激しい市場では、安易な値上げは顧客離れを招くリスクもあるでしょう。
しかし、利益を出す方法は「価格を上げる」だけではありません。今ある商品・サービスの“組み合わせ”によって、客単価を自然に引き上げることも、立派な利益改善策です。
たとえば、ある美容室では、カットと同時に頭皮ケアを提案することで客単価が1.4倍に。しかも、値上げではないため顧客満足度は維持され、むしろ再来率が上がったという事例もあります。
このように、クロスセルは「高く売る」のではなく、“納得して買ってもらう”工夫によって収益を高める仕組みです。これは、特に価格競争に巻き込まれやすい業種にとって、大きな武器となります。
結果として、売上は大きく伸びなくても、粗利はしっかり残る。それこそが、変化の激しい時代を生き抜く中小企業の営業戦略です。
5.2 クロスセルは営業の“再教育”にもなる一石二鳥の戦術
クロスセルは、利益改善の手段であると同時に、営業人材の育成にも効果を発揮する手法です。
実際、多くの中小企業では「営業マンが商品の説明はできるが、提案ができない」という課題を抱えています。単にスペックを伝えるだけで、顧客の課題やニーズに合わせた提案ができないのです。
しかしクロスセルを実践する過程では、自然と「このお客様には何が合うか」「どうすれば満足度が上がるか」という視点が養われていきます。“売る”から“提案する”へと、営業スタイルそのものが進化するのです。
さらに、社内での共有や振り返りを通じて、
顧客の声をヒアリングする力
相手に合わせて言葉を選ぶ力
商品の価値を再確認する力
といったスキルが高まり、営業の質が全社的に向上していきます。
クロスセルは単なる“売上アップのテクニック”ではなく、社員の成長を促す教育ツールでもある。この視点を持つことで、経営者の取り組み姿勢も大きく変わります。
5.3 今日からできる!まずは「おまけ提案」から始めてみよう
「いきなりクロスセルを始めろと言われても、現場が構えてしまう」
そんな声をよく耳にします。しかし、クロスセルの第一歩は、何も大がかりな仕組みから始める必要はありません。
たとえば、飲食店で「食後におすすめのデザートがありますが、いかがですか?」と一言添えるだけで、提案は立派なクロスセルになります。これはいわば、“おまけ感覚”の提案です。
このような提案は、顧客に押し売りと感じさせにくく、現場スタッフも気軽に取り組めます。まずはこうしたライトな提案からスタートし、現場に提案の文化を根づかせていくことが効果的です。
また、成功体験を積ませることも重要です。「〇〇さんがこの一言で提案に成功した」という事例を社内で共有すれば、他の社員にも波及します。
クロスセルは、“提案しないリスク”を回避する手段でもあるのです。黙っていてはお客様のニーズに応えられず、他社にチャンスを奪われることになります。
まずは一言。そこから始まる提案の習慣が、やがて会社の利益を大きく変えていきます。
売上を増やすために頑張る。それは悪いことではありません。ですが、本当に会社を強くするのは、利益がしっかり残る営業体制です。
そのためには、無理に売るのではなく、顧客の満足を高めながら利益も上げる、仕組みのある提案を作ることが必要です。クロスセルは、その第一歩として最適な手段です。
次にご紹介する「まとめ」では、今回のクロスセル導入の流れを振り返りながら、すぐに行動に移すためのチェックポイントを整理します。
まとめ
これまでの内容を読んで、「確かにウチも利益が残っていないな」と感じた経営者の方も多いのではないでしょうか。売上は上がっているのに、なぜか現金が増えない。その原因の多くは、単品販売に依存した営業と、構造的な利益不足にあります。
そこで今すぐ取り組んでいただきたいのが、クロスセルを会社全体の仕組みに組み込むことです。
これは単なる営業テクニックではありません。
利益を安定して残すための「経営戦略の一部」です。
しかも新たな商品開発も広告投資も不要。
今ある商品と今いるスタッフで、即実行できます。
やるべきことはシンプルです。
売れ筋商品の組み合わせパターンを明文化する
提案用のトークを標準化する
成果を見える化し、社員と共有する
これだけで、現場が動き出します。最初はぎこちなくても、提案の習慣が身につけば、客単価も粗利率も確実に上がります。
「利益は、社長の判断ひとつで変えられる」
この言葉を、ぜひあなたの経営の指針にしてください。
まずは、社員にこう伝えてみてください。
「この商品と一緒に、何か提案できるものはあるか?」
その一言が、会社の未来を変える第一歩になります。
さあ、次に動くのはあなたです。
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