離職率を利益に変える 組織づくりの本質

社員の離職が多くて困っているという話を、最近あちらこちらで耳にします。「採用コストは年々上がっているのに、定着率は下がっている」と悩んでいる方にお会いします。確かに、採用に関わる費用、教育にかけた費用を考えると、その回収ができないうちに退職されてしまうのは頭の痛い問題です。
厚生労働省が、転職入職者が前職を辞めた理由を調査の結果を発表しています。この結果で特に注目したい点を以下の表にしています(厚生労働省:令和5年雇用動向調査結果の概況より抜粋)。調査対象者が、19歳~65歳以上となっています。そのため、年代によって数値に変化がありますが、傾向を見るために以下を作成しています。
退職理由 |
男性 |
女性 |
職場の人間関係が好ましくなかった |
9.1% |
13.0% |
労働時間、休日等の労働条件が悪かった |
8.1% |
11.1% |
給料等が少なかった |
8.2% |
7.1% |
この表を見ると、労働条件(労働時間・休日・給与)に関わる不満で退職する社員は、20%前後に近いことが分かります。一方で、「職場の人間関係が好ましくなかった」という回答も20%を超えています。
ある経営者は、「たぶん、給料が安いから辞める」と社員が辞めていく理由を話していました。弊社では、社員の退職理由を把握することをお勧めしています。それは、退職者が本音を語るか否かは別として、理由を把握することにより、対処できることが増えるからです。
人が辞めるということは、単なる人員の入れ替えではなく、企業がこれまで投じてきた採用・教育のコストが回収されないまま失われることを意味します。さらに、組織内に蓄積されたノウハウの損失や、残った社員の士気低下、採用市場における企業イメージの悪化など、目に見えにくい“損失”が連鎖的に生じていきます。
上述したように、離職の背景には、報酬や条件といった表面的なものだけではなく、「職場の人間関係が悪い」ことが明らかになっています。例えば、何を求められているのか分からない」、「失敗が許されない雰囲気がある」、「自分の意見が聞いてもらえない」といった状況は、社員にとって強いストレスとなります。
逆に言えば、社員が「安心して意見を言える」、「困ったときに頼れる」、「存在を認めてもらっている」と感じられるような環境は、離職の大きな抑止力になるのではないでしょうか。
人が辞めないこと自体が企業にとって大きな“利益”となります。社員の定着は、業務の質の安定や顧客対応力の向上、チーム内の生産性向上につながり、ひいては売上や利益率にも好影響を与えます。離職率が下がることで採用や教育にかかるコストも削減され、資源をより戦略的な領域に集中させることができるようになります。
このように、人材の定着は“コスト削減”の視点だけでなく、“競争力強化”の要でもあります。企業にとっては、短期的な施策以上に、長期的な信頼構築こそが安定的な成長戦略の中核となります。
人が辞めない組織をつくるとは、社員を「引き留める」ことではありません。「ここにいてもいい」「この会社の一員でいたい」と自然に思ってもらえる環境を育てること。そのためには、制度や待遇の整備に加えて、経営陣の“向き合う姿勢”が不可欠です。
経営は数字に傾注してしまいますが、数字と人の両方をバランスよく見ていくことが必要です。数字の背後にある“人の声”に耳を澄ませてみてください。それが、変化の激しい時代においても持続可能な組織をつくるための確かな一歩になるのです。
あなたの会社、これまでに何人退職していますか?
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第50号:社員の辞表から何を学べますか?
https://miroque.co.jp/e-future/4468/
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