第26号:高収益・高賃金社長が知る、「目標」と「予測」の違い

「シライ先生、変化の激しい今の時代、5年10年先を見通した経営目標を立てる意義って何ですかね?翌年の業績も予測しにくい中で、数値目標をこれから先も作る意味があるのかと思うことがあります」
製造販売業を営むA社長のご発言です。ここ数年は売上高が7~8億円を行ったり来たりしており、成長の踊り場を迎えています。経営計画を作る必要性や意義については理解しているものの、今の時代に固定的な数値目標を掲げることが良いのかどうか、思案なさってのご発言です。
実際、大企業でも中期経営計画を廃止したというような話を耳にします。IT、AIの進展とそれに伴う新たなビジネスモデルの登場、顧客の価値観の変化、既存商品サービスの陳腐化の速さなど、世の中の流れは速くなっていく一方です。その中で、3年も5年も先の目標を立てていても、「その通りいくかどうか?」の不確実性はますます高まっているのが実際のところでしょう。
実際に、目標や計画を立ててもその通りことが運ばず修正を余儀なくされることもあるでしょう。あるいは目標を立てても、これが会社の目標としていま一つ浸透していないと感じたり、時間の経過とともに目標自体を忘れてしまっている、ということもあったりします。
特に、ある程度業歴のある会社で売上も利益も微増や横ばいという「踊り場」にある会社や、受注型事業(発注元の状況で仕事量が変動する業態)の会社だと、毎年の目標が立てにくかったり、果たして長期的な目標を持つ必要があるものなのか、という疑問を持つ経営者も多いでしょう。
いずれにしても、目標値や計画を策定することの意義が曖昧であれば、これを会社全体に浸透させて、目標達成に向けて組織を動かしていくものにはならず、現状を大きく変えていくトリガーにはなりにくいはずです。
一方で、経営目標・経営計画を会社発展の最大の武器とし、社員一丸となって目標達成に向けて取り組み、収益力も賃金水準も自分たちの力で上げていっている会社があることも事実です。会社が作った目標を自分事として捉え、どうしたら自らの人時付加価値を上げていけるのか、もっと成果の出るやり方はないのかといったことを、経営目標をテコとして考える組織です。我々は、そのような組織を目指していくのです。
ここで重要なことは、社長自身の「経営目標の捉え方」にあります。それは、経営目標を文字通り「目標値」として考えているか、それとも「予測値」として考えているか、です。
経営目標、例えば売上高、粗利益、賃金水準、経常利益、キャッシュフロー・・・将来のこういった目標数値を考えていく際に、「目標値」を考えているのか「予測値」を考えているかによって、経営目標のあり方には雲泥の差が生まれます。当然、その目標を実現してくための経営計画の内容においても大きな差が現れます。
予測値とは、過去からの延長で考えた数字であり、環境に対して受動的で、ある意味成行きに任せてはじき出された数字目標になります。近年の傾向を見るとこんな感じで推移するだろう、あの取引先の動向を見るとこんな感じで着地していくだろう、人や設備の問題を鑑みるとこんな感じになるだろう・・・という考えのもとで作られるのが「予測値」です。
一方で目標値とは何か。これは過去を踏まえた上での前向きな数字であり、環境に対して自ら働きかける能動的姿勢のもと、自らの意志で立てたものになります。そこにあるのは過去の延長線上や環境変化に対する受け身の姿勢ではなく、自らの信念と会社の理念で作られた、文字通り「目標」です。
”経営目標を立てる・・”一言ではそう表しても、その中身が予測なのか本来の目標なのかを認識せずに目標設定していることは殊更多いのが実情です。もちろん、経営目標をどう立てようと自由ですし、自社をどうするのかはオーナー企業であれば100%社長が決めていい話ですから、「経営予測値」がダメで「経営目標値」なら良いと言っているわけではありません。
しかし、実際に目標を立てる時に「予測値を立てているのか」それとも「本来の目標値を立てているのか」を認識することは、高収益・高賃金企業を作っていく上で極めて重要です。理由は明快です。利益も賃金水準も同時に引き上げる原資を稼ぐには、既存の軸を元にするにしても会社を質的に大きく成長させていく必要があるからです。
もちろん、実際の目標決定プロセスには、意思と予測の両方が入り込んでいるのが本当のところです。全てを予測で立てることもなければ、意思だけで目標設定するということもないでしょう。もしすべてを予測で立てている計画であれば、それは単なる情報の束でしかありませんし、逆に未来予測を全くせずに自分の希望だけで作った目標値だとしたら、独りよがりの無謀な計画になる恐れがあります。
しかし、意思決定において両者のどちらの比重が大きいのか?ということは、目標設定においてしっかりと考えておくべきです。
ある程度業歴があり成長の踊り場を迎えている会社ほど、この計画値が「経営目標」ではなく「経営予測」になっていることが多かったりします。今の延長線上での改善、市場動向、取引先の動向・・そういったものによって会社がどうなっていくことが「見込まれるか」で作っている経営目標です。
言葉は悪いですが、もし目標がこのような予測と成行きで決められた性質のものであれば、組織の動きもまた成行き的になると言わざるを得ません。そこに、現場での人時付加価値を上げていく創意工夫は生まれにくく、商品サービスを高付加価値化していったり、新規顧客を積極的に取りに行ったり、豊かな会社作りに一緒になって走っていく熱は生じません。
目標の意味はここにあるのです。変化の激しい時代に経営目標が必要かどうか。間違いなく必要になります。不確実性が高いからこそ、我々は環境に対して自らの意志と力で働きかけ、顧客・会社・社員が豊かになっていく条件としての目標を立てなければなりません。
成行き予測で立てる「経営予測値」は、本質的に評論と同じであり、豊かな未来を掴むマイルストーンにはならないのです。怖いのは、経営者にその気がなくても知らず知らずのうちに「経営予測値」を目標としてしまうことです。創業当時は文字通り「目標」を立てて力強く邁進していたのが、事業が安定してきた後にいつの間にか「予測」になってしまい停滞してしまう・・・
もし、成長の踊り場から脱却していくならば、目標に対する認識を新たに、確たる意思を持って質的に高い目標を設定することです。意思を持った目標設定をすることにより、これを実現していく骨太な経営方針を生み出せます。これにより、社員は自分たちが豊かになっていくための条件を掴み、やがて1人また1人と目標の達成に向けて歩みだす者が現れ始めます。
あなたは、大きな目標を立てることに拘っていますか?経営予測ではなく経営目標の設定に取り組んでいますか?
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