AI台頭時代におけるヘルスケア新規事業の可能性

こんにちは。ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。
先日、ある社長さんからこんなお話を伺いました。
「AIの台頭によって、人手が入らなくなってしまい、うちの業界が危機的状況になってきました。これまでの事業モデルが通用しなくなり、新たな方向性を模索している最中です」。
このような声は、実は多くの業界から聞こえてきております。そんな中で、需要が一段と増しているヘルスケア分野への新規参入は、危機感と同時に新たなビジネスチャンスの到来を感じさせます。
今回は、なぜ今ヘルスケア新規事業の需要が高まっているのか、その背景と今後の展望について考えていきたいと思います。
ヘルスケア新規事業需要の高まりとその背景
ヘルスケア分野における新規事業の需要が高まっている背景には、いくつかの社会的要因が存在します。まず第一に挙げられるのが、言うまでもなく少子高齢化の進行です。
日本の高齢化率は既に28%を超え、世界でも類を見ない超高齢社会となっています。これに伴い、医療費や介護費の増大など、様々な社会問題が顕在化しています。
特に深刻なのが労働力不足の問題です。しばしば新聞の見出しでも聞かれますが、医療現場において医師不足、看護師不足は慢性化しており、医療機関経営上の大きなリスクとなっています。
地方では医師の高齢化と後継者不足により、診療所や病院の閉鎖が相次いでいます。この人材不足は単なる量的な問題だけでなく、専門知識や技術の継承という質的な側面も含んでおり、ヘルスケア分野全体のサービス提供能力を脅かしています。
また、デジタル技術の急速な発展も大きな要因です。具体的には、AIによる画像診断支援システムは放射線科医の読影精度を向上させるだけでなく、医師不足地域でも高度な診断を可能にしています。例えば国内の一部の遠隔画像診断サービスでは、地方病院のCTやMRI画像を都市部の専門医が即時に読影することで、診断の地域格差解消に貢献しています。
またIoT技術を活用した遠隔モニタリングシステムは、ハイリスク患者や慢性疾患患者の在宅管理が進化しています。さらにビッグデータ解析は、疾病予測や予防医療の分野で革新をもたらしており、ある健康保険組合では加入者の健診データと医療費データを統合分析することで、効果的な保健指導プログラムの開発に成功しています。
さらに、新型コロナウイルスの流行を契機として、テレワークやオンライン診療など、非接触型のサービス提供モデルが急速に普及しました。これにより、海外、特に欧米諸国では予防医療やセルフケアへの関心が一層強まっています。
しかし日本においては、依然として「具合が悪くなったら病院に行く」という事後対応型の医療行動が主流であり、予防医療やセルフケアの概念は十分に浸透していないのが現状です。厚生労働省の調査によれば、日本人の特定健診(メタボ健診)の受診率は58.1%(2022年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況)にとどまり、その後の保健指導の実施率は26.5%と低迷しています。
この「予防より治療」という日本特有の医療文化は、ヘルスケアビジネスにとって課題であるのは確かですが、それでも年々1%程度ではありますが受診率がアップしているのも事実です。つまり、今後の啓発次第では新サービスと新市場の開発によるビジネスチャンスにもなります。
さらに注目すべきは、ヘルスケアとテクノロジーの融合による新サービスの誕生です。
例えば、AIを活用した健康管理・ウェルネス向けのアプリや遠隔医療サービス、バイタルデータを常時モニタリングするウェアラブルデバイスなど、これまでになかった形のヘルスケアソリューションが次々と登場しています。
実際に国内市場を見ると、従来の医療・ヘルスケア業界だけでなく、IT企業が医療情報システムを開発したり、小売業が健康管理アプリと連動したポイントプログラムを展開したり、保険会社が予防医療サービスを提供するなど、業界の垣根を越えた参入や協業が増えています。経済産業省の「健康経営」の推進も、企業における従業員の健康投資を促進する要因となっています。
新規事業成功のための戦略的アプローチ
このように需要が高まるヘルスケア新規事業ですが、成功のための重要なポイントをいくつか紹介します。
まず重要なのは、真のニーズを見極めることです。ヘルスケア分野では特に、表面的なトレンドや一時的な話題に惑わされやすい傾向があります。例えば、特定の健康器具やサプリメントが一時的に注目を浴びても、それが本当に顧客の根本的な課題を解決するものでなければ、長期的な事業として成立しません。
この課題が深刻なのは、ヘルスケア分野での新規参入者の多くが医療や健康の専門知識を十分に持たないまま参入し、表面的な市場調査だけで事業を開始してしまうケースが多いからです。厚生労働省の調査によれば、ヘルスケア関連の新規事業の多くが3年以内に撤退しており、その主な理由は「市場ニーズの見誤り」と「専門知識の不足」だと報告されています。
例えば、シニア向け健康管理アプリを開発するスタートアップの多くは、高齢者のデジタルリテラシーやUIの使いやすさを考慮せず、若年層向けの洗練されたデザインを適用してしまい、結果として使われないサービスになってしまうケースが国内外で報告されています。
次に、異業種との協業によるシナジー効果の創出が挙げられます。ヘルスケア業界は専門性が高く、規制も多いため、単独での新規参入はハードルが高い分野です。しかし、既存のヘルスケア事業者と異業種企業がそれぞれの強みを持ち寄ることで、革新的なソリューションが生まれる可能性があります。
この協業の難しさは、異なる企業文化や事業スピード、専門用語の違いなどから生じる意思疎通の障壁にあります。実際に複数の業界団体の調査でも、異業種連携プロジェクトのかなりの割合が「コミュニケーションの齟齬」を主な課題として挙げています。
さらに、データの活用とエビデンスの構築も重要です。ヘルスケア分野では、単なる「思い込み」や「イメージ」ではなく、科学的根拠に基づいたサービス開発が求められます。ユーザーから得られるデータを適切に分析し、サービスの効果を検証することで、信頼性の高いソリューションを提供することができます。
今後の展望と私たちの役割
ヘルスケア新規事業の需要はこれからも高まり続けると予測されます。特に注目されるのは、予防医療・健康増進領域、デジタルヘルス領域、そして高齢者支援・介護領域です。これらの分野では、従来の発想にとらわれない革新的なサービスや製品が求められています。
また、国際的な視点も重要です。日本が直面している少子高齢化や医療費増大などの課題は、他の先進国も追随して経験するものです。日本で成功したヘルスケアビジネスモデルは、将来的にグローバル展開できる可能性を秘めています。
おわりに
AIの台頭をはじめとする技術革新や社会構造の変化は、確かに既存のビジネスモデルに大きな脅威をもたらしています。しかし同時に、ヘルスケア領域においては、かつてない新たなビジネスチャンスも生み出しています。
重要なのは、この変化を恐れるのではなく、積極的に向き合い、自社の強みを活かした新たな価値創造に挑戦する姿勢です。人々の健康と幸福に貢献するヘルスケアビジネスは、社会的意義も大きく、持続的な成長が期待できる分野です。
私たちヘルスケアビジネス総合研究所は、これからも皆様の挑戦を全力でサポートしてまいります。新規事業の立ち上げや既存事業の転換をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。共に未来のヘルスケアビジネスを創造していきましょう。
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