第18号:高収益・高賃金の元となる、高単価受注活動の考え方
「シライ先生、リフォームの方は堅調ですが、新築の方は・・・」注文住宅やリフォーム事業を手掛けるA社長からのご相談です。
「OB顧客からのリフォーム注文はそれなりに入ってきますが、新築の方は波が大きく一向に受注が安定しません。コロナ融資の返済もスタートしているので、これまでと同じやり方で固定支出を賄い切れるか・・同業他社の間でも、注文住宅は厳しくなっているという声が大きいので、いっそリフォームに絞り込んでしまうことも考えましたが・・・ただ、私としては新築にこそ弊社ならではの価値があると思っているので、何とか受注と受注価格を安定させたいのです」
聞けば、営業も現場監督も職人も人件費・外注費が高騰しており、受注の安定に加えて価格を上げていかないと、人を確保できないという状態になりつつあるとのこと。高収益・高賃金体質に事業を変えていく必要性が喫緊に迫っている状態です。
A社長は続けます。「販売活動は商談会、見学会、チラシ、HPなどで色々と手を打ってきたつもりです。ご覧の通り自社ショールームも有しています。ただ、コロナの影響なのか、集まりも振るわないし、相見積もりで価格で負けてしまうことが増えました」
私はお伺いします。「見込み客の管理表を拝見させて頂けますか?」
社長はお答えになります。「一応は作ってありますが・・」
A社のような高額の受注生産型企業にとって、安定的な集客の仕組みを手に入れることは経営の最重要課題と言っても過言ではありません。その理由を受注生産型企業と見込生産型企業の対比で説明します。
見込生産型事業とは、売りモノと価格が事前に決定されている事業のことです。文房具、衣類、自動車、オフィス機器など色々あります。サービス分野でも、手順と内容が決まっているもの(保守、一般的な飲食やホテルなど)は見込生産型と言えます。住宅産業では建売住宅も見込生産型事業です。
一方の受注生産型事業とは、売りモノと価格がお客様との交渉により決定される事業のことです。注文住宅、システム開発、部品製造加工などが該当します。
見込生産型で作られる商品(店頭に並ぶ商品やサービスメニュー、建売住宅)であれば、既に売るモノと価格が決まっています。企業側が価格を決めているわけです。そのため消費者は店頭などに並んだ商品を見て、使い方をイメージし、表示価格に見合うものかどうかを判断して購入を決める・・・というプロセスになります。出来上がったモノと価格を比較して、価格に見合うものだと思えばその値段で買っていきます。
一方、A社のような受注生産型企業ではどうか。見込生産型と違い、売るモノと価格は、顧客との交渉によって決まることになります。そしてその決定は会社ではなく顧客がすることになります。価格と仕様の決定権は顧客にあるということです。
価格と仕様の決定権は顧客にある―その事業性質上の宿命の中で適正価格で受注を増やしていくためには、流入してくる見込み客を増やしていくことが第一の課題となります。
理由は明快です。見込客が少なければ、見込み客側の交渉パワーが強くなり、安い価格でしか受け入れない顧客の言うことに甘んじなければならなくなるからです。逆に見込み客が豊富にあれば、自社が売りたい価格に納得してくれるお客様を選んで受注することができるようになります。自社の交渉パワーが強くなるのです。経済原理でいう需給バランスの原則そのものです。
受注生産型事業にとって高単価商売をしていくということは、受注活動の優劣と表裏一体なのです。見込生産型事業であれば、「商品さえ良ければ」販売活動が多少稚拙であっても高値で売れていくことはあります。しかし、受注生産型事業において高単価商売に転換していくことに限って言えば、受注活動がお粗末だと価格低下圧力が強まり、目標を達成しにくくなります。
では高収益・高賃金事業化していくための受注活動の仕組みとはどういうものか。重要なポイントは3つです。
・見込生産型事業のエッセンスを取り入れる
見込生産型事業には、多くの日用品や専門品といったモノとしての形が出来上がっているものが該当します。ティッシュや文具といった小物から、自動車のような大型なものまで色々あります。住宅産業においては建売住宅もその1つでしょう。そういった「モノとして出来上がっているもの」の受注活動エッセンスを取り入れていくのです。
もちろん、注文住宅から建売住宅に事業転換しろと言いたいのではありません。売り方のエッセンスを取り込むのです。モノとして出来上がっていることの利点は、その価値が姿形として伝えやすいことです。売りモノをモノという形で事前に持たない受注生産型事業であっても、その価値の大きさや素晴らしさを、目に見える形として伝えていく仕組みを持つという発想は、受注しやすさを高めていくという意味において極めて重要です。
・受注導線を設計する
受注導線とは、まだ自社を知らない顧客が自社を知るフェーズから、自社の見込み客となる過程を経て成約していくまでの一連の流れのことです。受注活動における大きな誤りの1つが、「他所から聞いた上手くいく施策をやればお客様が増える」という発想です。
HPを改修したい、ECサイトをやりたい、流行りのSNSツールを活用したい、動画を活用したい、優秀な営業マンを確保したい・・・それらのアイデア自体は大切なものですし、手法やツールは積極的に取り入れるべきです。しかし受注活動における主眼はそこではありません。そういった手法を、導線設計上のどこでどう作動させるか、ということに着目することが重要になります。
自社にとって商談の場とはどういう所か、その商談の場に見込み客が流れてくるフローは確立されているか、見込みプールを獲得するための情報拡散網は広範に隙間なく張り巡らされているか、それらの運用とチューニング方法は標準化されているか、導線を貫くメッセージの主義主張は一貫しているか・・・
こういった全体的な視点から受注導線を設計することは社長の重要業務の1つになります。営業は営業のことを、販促は販促のことを考えることはできますが、全体の連動を設計するのは社長にしか務まらない仕事です。
・見込み客をプールする仕組み作り
受注生産型事業に限らず高価格商品サービスを展開する場合、お客様の意思決定にかかる時間は長くなります。予算、決裁権者、タイミング、導入プロセスなど考えることが多いからです。自社の存在を知ってくれた人がいきなり自社の顧客になる、などということはありません。むしろ、高単価事業を進めるにあたっては、安直にそのような人をお客様にしてしまうことを戒めなければなりません。
なぜなら、自社の提供する価値を正しく理解することないままに見積もりを依頼してくる人の多くは、自分の主観で自分の理想を描いている状態(それが専門事業者から見て正しいものであるかは別として)であり、「その理想をできるだけ安く実現してくれる業者」を探しているからです。
高単価で受注をしていくには、自社の商品サービスに独自の価値があることをお客様に理解して頂かなければなりません。理解して頂くためには、お客様に自社の独自性を繰り返しお届けする仕組みが必要になります。
当然です、自社の独自性が伝わらなければ「その他大勢」の供給業者群に顧客の頭の中でプロットされてしまい、相見積もり先としてしか認識されなくなるからです。そうならないためには、見込みのお客様を溜め込んでおくリストの作成と活用が絶対に必要となります。
見込み客リストに対して定期的に情報や提案を届け、共感度を高めた見込み客が一定確率で商談に流れる仕組みがあってこそ、商談機会が増え、受注価格も安定するのです。漏斗から一定間隔で水がしたたり落ちるように、一定確率で見込プールから商談機会が生まれていく仕組みを作るのです。
受注活動において、見込み客リストは宝の山です。単なる管理表と思っている社長も多いですがとんでもない話です。「見込み客リスト?一応は作っています。」程度の認識で済ませてしまうのは、あまりに勿体なさすぎます。
正しい姿勢、正しいやり方で獲得した見込み客リストは、会社の貴重な資産です。受注活動において、良質かつ豊富な見込みリストを持つということは、まさしく高単価事業を作っていくための表裏一体の取り組みなのです。
私は、A社長にこの受注活動の全体像を丁寧にお伝えし、課題を提示します。A社長は言われます。「受注機会が不安定だから受注価格も下がる・・なるほど、たしかに当社はいつも“一本釣り営業”でした。たまたま引き合いが来たお客さんに、商談術でどうにかしようとしか考えていませんでしたね」
A社長の受注導線設計は続きます。
著:白井康嗣
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