信頼構築と企業価値向上をもたらすESG要素
自社の本業と関連の深いESG項目に注力することで、信頼構築・企業価値向上につながります。
信頼構築は、企業価値を高める上で有効かつ必要不可欠な要素です。先般、アビームコンサルティングが実施したESG(環境・社会・ガバナンス)項目に関する調査結果(https://www.abeam.com/jp/ja/news/2024/1118/)は、信頼を形作る具体的な要素について示唆を与えてくれる内容となっています。本コラムでは、この調査結果をもとに、信頼構築と企業価値の関係性を考察します。
■信頼と企業価値の密接なつながり
企業価値は、簡単にいえば「その企業が持つ経済的な価値の総和」を示すものです。具体的な計算方法はいくつかの考え方が存在しますが、代表的なもののひとつが「株主や債権者がその企業に期待する将来の収益やキャッシュフローの総和(の現在価値)」とするものです。この考え方に基づけば、企業価値は単なる過去の業績ではなく、将来にわたる価値創造のポテンシャルを示す指標といえます。
この、「将来にわたる価値創造のポテンシャル」は、単に事業そのものの利益の大きさや成長性によってのみ決まるものではありません。それ以外にも、「事業環境の変化や不確実性にどれだけ対応できるか」というリスク管理能力・リスク耐性や、「投資資本をどれだけ効率的に活用しているか」という資本効率なども、企業価値を左右する要素となってきます。
少し見方を変えると、企業価値の向上のために、企業やその経営陣に対する「信頼」が少なからず寄与するという言い方もできそうです。信頼できると顧客・社会・取引先等から思われる企業には、事業内容に期待が持てることはもちろん、不祥事のリスクが小さい、資本効率・労働効率がよくなるといった側面もあるからです。
実際に、この調査が対象としているESGについても、元々は「環境や社会に十分に配慮し、ガバナンスも効いている企業であれば、不測の事態で会社が傾く危険性は低いだろう」という、投資家目線でのリスク回避的な意図で拡大してきた経緯があります。ESG対応に力を入れることで、リスクの発生確率や影響が低減され、将来に向けた自社の信頼性が高まり、企業価値も増加していくことになります。なお、ESGに注力していることが、製品やサービスの購買につながり、業績が向上する、ということもありえますが、現在の日本ではこれはまだ限定的かもしれません。
■信頼を生み出すESG要素とは
より簡単にいえば、ESG要素は、その実践により自社の信頼を高め、その結果として企業価値向上をもたらす側面を持ちます。冒頭の調査では、企業価値向上につながる30個の要素が挙げられていますが、これは企業の信頼をもたらす代表的なESG要素である、ともいえそうです。
結果のサイトには考察も合わせて記載されていますが、特に筆者個人として興味深いのは、トップ10に注目してみたときに、循環型社会の実現や、従業員・人材に関する項目が上位を占めていることです。環境分野では、気候変動対策領域が世の中では大きく取り上げられている感があるため、循環・リサイクル領域の方が上位にきている点は意外に感じました。あまり他社が手掛けていない領域の方が評価につながりやすい、ということでしょうか。
また、従業員・人材関連がより重要視されている点は、労働者の希少化が進む中で、人の手当てがきちんとできている会社に信頼が集まるということを示しているように思います。また、比較的外部に公開されにくい自社の従業員に関する情報を、積極的に外部に公表していること自体も、自社の信頼を高めたり、優秀な人材を惹きつけることにつながっているのかもしれません。
■中小企業経営者が留意すべきポイント
とはいえ、特に中小企業では、こうしたESG要素、あるいは信頼構築につながる要素に対し、そのすべてに網羅的に取り組むのは現実的ではありません。SDGsのゴールについても同様です。あらゆる項目に手を出すのではなく、自社の特性に合った信頼構築の方向性を見極めることが重要です。
その際に留意すべきは、自社の本業と強みを基盤に注力ポイントを絞り込むことです。特に、自社が顧客や取引先から選ばれる理由、すなわち製品やサービスが「売れる理由」を明確化し、その補強につながる要素にまず優先的に取り組むべきです。
たとえば、健康イメージを強みとするサプリメントのメーカーが、持続可能な製法でつくられた天然由来原材料の活用を強化するとします。この場合、訴求の根幹となる健康イメージと環境にやさしいイメージの両方を得ることができるので、本業の強化とそれ以外の信頼構築を同時に行うことができます。
しかし、このメーカーがサプリとは異なる領域での社会貢献に力を入れる場合、それは本業の儲けにはつながらず、コストアップを招くことになるため、本業の継続性にはマイナスに働く可能性があります。直接的に利益を生み出さない要素への注力は、慎重であるべきでしょう。
ESG領域への注力は、企業が自社に対する信頼を築き、価値創造に対する期待向上とリスク低減を実現しながら、企業価値の向上と将来の収益増を実現するために有効といえます。先にご紹介した調査は、取り組むべき項目を検討する上で、重要な示唆をもたらすものといえます。
ただし、すべての項目に取り組むのではなく、自社の強みや本業に直結する分野にリソースを集中させることが、持続可能な成長を実現する鍵となります。戦略的なリソース投入と信頼構築で、将来事業をより強固にしながら、企業価値を高めていきましょう。
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