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第17号:高収益・高賃金事業づくりは、賃金制度の導入から入ってはならない理由

SPECIAL

高収益・高賃金企業づくりコンサルタント

株式会社ポリフォニアコンサルティング

代表取締役 

中小企業ではハードルが高いとされる社員1人粗利3千万円、平均年収1千万円越えの本気で儲かる組織になるための土台作りを指導。会社の「価値」に注目し、価格ではなく、組織全体で価値を高め・守り・売っていく仕組み作りで注目を集めている。これまで150社以上の様々な業種の中小企業を支援する中で、中小企業の業績・資金繰り・人材確保などの経営問題の背景には、「一見相反する会社と社員の利益双方を引き上げていく経営の仕組み」が欠けていることを発見し、その仕組み作りのノウハウを体系化。

「シライ先生、やはり良い人材を確保するためには賃金制度を整えた方がいいのでしょうか。社員に頑張ってもらうためにも、頑張った人にはそれだけ給料を支給していく賃金制度が必要だと思っています。」

測量装置メーカーA社長のご発言です。人材採用しにくくなっている中、平均年齢が40歳を超えている現状に危機感を感じているA社長。魅力的な賃金制度を準備することで若手にも集まってもらいたい、頑張った人には賃金で報いる会社にしていきたいという思いを抱いています。

私は社長にお伺いします。「社員の評価基準はございますか?」

「特に定まった評価の制度はありませんが、年に2回考課査定を行っていて、役員が全員の評価点を付けています。その結果で賞与を決めています。ただ、あまり賞与額に差をつける運用をしていないものですから、ちゃんと頑張った人は多くもらえる制度にした方が社員もやる気になるのではないか、と思っています」

賃金制度の整備とまで言わずとも、社員に適正な賃金を支払うためにどうしたらいいか、という悩みを持つ社長は大勢いらっしゃいます。

そして多くの社長の中には「賃金を適正に支払ってやれば(頑張りに応じて賃金に差をつけてやれば)、社員がやる気になって業績も上がるだろう。それによって優秀な社員が残り、会社の業績も良くなる」というロジックと期待があります。

しかしこの考え方でいきなり賃金制度を運用しても、確実に失敗します。理由は明快です。賃金制度の役割は、賃金に対する「不満」を解消するだけであり、賃金制度で人が意欲的になることもなければ、制度の有無で精鋭社員が集まるという事もないからです。

こう申し上げると「いや、不満が解消するなら意欲的になって仕事に精を出すだろう」という声が聞こえてきます。しかし、不満が解消することと意欲的になることは構造的に全く別物なのです。

社内を見てください。不満はないが意欲なく仕事もできない人、仕事はよくやるが不満も大きい人が思い当たるはずです。愚痴や文句を言わないが自分からは積極的に動かない人もいれば、会社への文句は多いが仕事はしっかりやる人もいるように、不満の解消と意欲の増大は別次元の話なのです。

この人間心理を理解しておかないと、賃金制度によって人のやる気を引き出す、というあべこべの判断をしてしまうことになります。そして厄介なのは、賃金を上げてやればやる気になるだろうという期待をして、先行投資的に賃金を上げてしまうケースです。

賃金というのは、いとも簡単に「既得権益」になります。たしかに賃金が上がったその瞬間は意欲的になります。しかし、あらかた3か月も経てば賃金アップした時の喜びや意欲は忘れてしまう、というのが悲しき人間の性だったりします。ましてその賃上げ額が微々たるものであれば、なおのことその傾向は強まります。

これからの頑張りを期待して賃上げをしたのに、もらった側は時間の経過とともに既得権益化し、意欲もまた元に戻る・・・賃金の本質を理解していないとこういう悲惨な事態が起こるのです。

賃金制度単体で人の意欲を高めることはできないのです。したがって制度によって仕事のやり方を工夫することもありません。仕事の生産性が上がっていくこともありません。ゆえに事業が高収益化していくこともありません。

高収益・高賃金企業になっていくには、その実現を賃金制度でどうにかしようとする発想を捨てることです。

賃金制度とは、賃金の総原資をどんなロジックで社員に配分するかという範疇の制度であり、原資そのものを増やしていくことはできません。言ってみれば「社内」という閉じた環境の中で、限られた原資を分け合うルールを決めているのが賃金制度なのです。

会社が賃金として用意できる原資が小さければ、低賃金水準に甘んじるしかありません。これでは、労働市場という大きな環境のなかで、競合他社や他産業との人材獲得競争に負けてしまいます。内輪での社員間の給与差など一寸法師の背比べでしかなく、そこに豊かで意欲溢れる高賃金企業への道はありません。

高賃金企業になっていくために絶対的に必要なことは2つです。1つは、賃金総原資を大きくすること。そしてその原資を最小人員で稼ぎ出すこと。この2つです。1人当たり給与は賃金総原資÷人員数で決まります。分子を大きく、分母を出来るだけ小さくすることで賃金水準が上がります。そのための重要な戦略が次の3つです。

1.事業構造を高単価・高粗利型に変えること

総原資は粗利益から配分されます。その粗利水準を決めるのは、自社の独自性です。事業の独自性を抽出し、際立たせ、その独自領域において圧倒的な存在感を示し、自社独自の市場を作り出すことになります。

この独自性を固めコンセプト化し、それを製品・サービス・技術に具現化し、受注導線を設計していくことは、社長のなすべき重要業務になります。

小さな会社が大手のような何でも屋を謳えば、確実に価格競争にさらされます。価格競争に晒されれば確実に粗利益率が低下します。すなわち賃金原資が減少します。小さな会社は、大手では真似したくてもできない独自性溢れる尖った価値を作り、それをお客様に届けることに集中特化しなければ、粗利水準を飛躍させることはできません。

この事業コンセプトと受注導線の設計は、社員の仕事ではありません。社長の役割になります。高収益高賃金事業を目指すために最も重要なことは、この社長がなすべき実務をやり切ることになります。その事業コンセプトと受注導線の上で社員を動かすことで、社員は自らの仕事の生産性を高めることができます。

2.最小人員で、高粗利型事業を回すこと

事業コンセプトの中で、社員1人当たりが稼ぎ出す粗利益を大きくしていくフェーズです。そのために業務を価値の大きさで分解し、標準化し、価値の大きさに応じて人的資源を配分します。それぞれの業務が、お客様への提供価値にどうつながっているかを考えることです

ここでは業務の棚卸が重要になります。独自性の創出に直接繋がる業務と判断業務に正社員を集中させ、それ以外の価値の小さい業務や繰り返し業務を標準化・システム化・外注化することで、最小人員で回せる仕組みを構築します。

ろくに業務の棚卸もせず、「現場が忙しそうだから、回っていないから」という理由ですぐに人を増やすと、原資の配分先が増え、1人当たり給与額が上がらないということになります。人の数や能力に手を付ける前に、業務の価値をよく観ていくことの方が遥かに重要です。

重要なことは、
①粗利額水準を高めることで総額人件費と経常利益の原資を増やす
②総額人件費は増やすが粗利に占める総額人件費割合は下げる、これによって会社の利益を増やす
③最小人員への人件費配分で1人当たり賃金を上げる
です。これによって会社利益と社員賃金の両方を増加させることが出来ます。

3.最小人員で回せる仕組みの中で人を評価すること

高単価・高粗利を実現する業務の仕組みが整うことで、社員を適正に評価することが可能となります。業務の仕組みが整っていないのに人を適切に評価することはできません。業務の仕組みは評価における基準となります。

基準があるからこそ、具体的な業務について基準通りできているか、基準以上に出来ているか、仕組みそのものを改良しているか、という具体的な評価が可能となります。

基準が抽象的であいまいな状態で評価の仕組みを入れても、鉛筆なめなめで感覚的に決めた評価にしかならず、納得感を得ることはできません。

そして1~3の仕組みが揃っていて、はじめて「賃金制度」を有効なものとして機能させることができます。1~3の全ての結果を受けて、社員個々にどう原資を配分するかを決めた賃金制度が活きてくるのです。高賃金企業をつくっていくには、賃金制度を導入するまでの順序を間違ってはなりません。

「わが社もどこかで賃金制度の整備が必要ですが、優先順位はそこではないですね。内輪の制度を考えるより、お客様や競合といった組織の外側に目を向けることが重要ですね。評価制度も果たして機能しているか疑問に思っていましたが、たしかに業務と成果の基準がなければ評価なんてしようがないですよね。モヤモヤしていた原因がわかりました。」

A社の高賃金企業づくりは続きます。

著:白井康嗣

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