その梯子は外される心配がないか
それなりの審議と信認を経て、必要なリソースと環境を準備し始まったプロジェクトであるのに、気がついてみたらいつの間にか当初の前提条件が無くなっている、違ったものになってきている、いわゆる梯子が外されたという経験はないでしょうか。
私は前線でプロジェクトマネージャ(PM)を張っていたときに、プロジェクトのキックオフ段階で約束し当てにしていた優秀な人材を途中で引き剥がされ、その穴埋めに苦労した経験があります。この例などは、梯子の補充を手当しやすいものではあるのですが、簡単には補充できないケースについては事前に十分に検討のうえリスクヘッジしなければなりません。
そういうこともあってプロジェクトや案件のスタート時には、この前提条件は最後まで維持できそうか、と気をつけて始める様になったわけですが、いくつかそのアンテナに引っ掛かる案件と遭遇したことがあります。
一つは海外案件です。グループの海外販社に赴任しているシステムエンジニア(SE)から、当時私が責任者の立場で推進していた自社製品を、とある国の重要施設に導入したいという引き合いが飛び込んできました。SEはやる気満々でリモートでのTV会議やメールでどんどんプッシュしてきます。その重要施設に導入できれば、その国における企業のプレゼンスを大いに発揮できる案件となるのは間違いありません。当該SEにとっても、赴任中にその様な案件を受注できれば、相応の評価を得られることでしょう。
継続的に顧客と折衝し、顧客から要求のある追加仕様に対応すれば、まとまった台数の製品を含むシステムの導入が可能の見込みです。こちら側にとっても売り上げの積み上げを行え嬉しい案件ではあります。
しかし、私には気になっていることがありました。そのSEはいつまでそこにいるのか?ということです。顧客先に一旦製品を導入したら、その製品に対する障害対応を含めたアフターサービスも付いてきます。障害発生の連絡を受けたら、どのぐらいの時間で駆けつけられるのか?そのための代替機は何台確保してどこに置いておくのか?そのためのサービス員は確保できるか?
いずれも国内であれば既存の仕組みと体制を使用できますが、海外の場合はそうはいきません。一から保守体制の構築が必要なのです。現地のSEは自分が対応すると云ってくれるのですが、これ程当てにならないものはありません。私は、対応できるリソースがないという理由でこの案件を見送りました。
案の定、当該SEは数ヶ月後に日本に帰国することになりました。代わりに赴任となった新しいSEはいましたが、海外販社が組織的に獲得をめざしていた案件ではなかったので、引き継いで活動するという意思は見えませんでした。
もし最初にSEから引き合いがあったとき、何も考えずに前のめりに対応していたら、おそらく当該SEの帰国後、私の組織から頻繁に現地の顧客先を訪問して打ち合わせを行うことになり、システム導入後の保守体制構築を含め、相当な消耗戦になってしまったでしょう。本案件に時間を割かれ、国内の他の案件の消化に影響が出ることは間違いなかったと思います。
実は、私が当該製品事業を推進している間、この様な海外案件を他に2つ経験しています。その一つは地球の裏側のスポット案件で遠すぎると判断、もう一つはまとまった数の引き合いがあったのですが相手国が特殊で案件がまとまるまで3年以上はかかる見込みによりこちら側に体力がないと判断しました。いずれも、安易に食べてしまっては梯子が崩壊する事態になっていたでしょう。
一方で、海外であっても現地で協業できるパートナーを見つけ、体制を構築して継続的に事業展開している成功ケースもあります。そのために、”梯子”が簡単に壊れないよう固定しました。
PMの皆さんも、SEの皆さんも、その案件は登っている途中で梯子を外されてしまうことのない案件か、外されてもリスクヘッジの効く案件か、スタート前にしっかり判断して進めることを肝に銘じていただきたいと思います。
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