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企業は「ひとり情シス」を放置して良いのか?

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

「鈴木先生、いろいろやりたくても、もうできないんです」という悲痛な声を、ある会社のデジタル化担当者から聞いたことがあります。その会社の規模は200名程度。製造業で、事務職以外は基本的に工場で働いています。社歴も長く、大手顧客も付いていますので経営は比較的安定している優良企業です。ところが、デジタル化担当は、「SE」として入社した中堅社員が一人。いわゆる「ひとり情シス」でした。

彼は30歳代で転職してきた中途入社者でしたが、入社してもう10年近く経ち、完全に中堅社員の年齢です。ところが、彼とお酒を飲みながら話をしていたところ、冒頭の様な不満というか諦めの一言が出てきたので、じっくりと話しを聞いてみました。

彼の話を要約すると、以下の様なものです。

・入社した時は、「アナログ仕事ばかりの当社の業務を少しでもシステム化して欲しい」と社長に熱っぽく言われてやる気が出た

・入社してからは、あちこちつぎはぎだらけだったネットワークを整備し、今にも壊れそうな社内サーバーをクラウドへ引っ越しするなど、いろいろと整備することがたくさんあった

・そんな中でも、人事管理システムや顧客情報データベースなど、各部門からの要望を聞きつつ、それに最適なクラウドサービスを選定して導入してきた

・ところが、そんなことをしている間にも、老朽化したPCの入れ替えや、Windowsの入れ替えなどに追われ、気がついたらPCの管理の仕事が自分の工数の半分を超えていた

・さらに、PCの使い方にどうにも慣れることができない社長や年長の社員からは、何かあると呼び出される状態で、便利に使われるようになっていった

・サポートをすれば、そのような人からお礼は言ってもらえるが、お礼だけではモチベーションの維持ができない自分が気になり始めた

・それに、そのような仕事が一日の大半で、もはや新しいシステム化のことを考える余裕すらない

等々・・・。もはや疲れ切ったサラリーマンの悲哀を感じます。そのような社員は珍しいものではありませんが、彼の場合にはさらに特殊事情がありました。それは「ひとりぼっち」だったことです。仕事を分担しあえる/愚痴を言い合える同じ境遇の同僚もいませんし、それを相談して理解できる上司もいないのです。そんな中で私がお邪魔しましたので、ようやく話を聞いてくれる人を見つけた、ということなのでしょう。お酒が進むほど、「もうそろそろ転職しようかと思う」という話まで出てきて、聞いている私も困ってしまいました。

さて、さらに問題なのは、このような境遇の「ひとり情シス」の人にお会いする確率が非常に高い、ということです。統計的なデータを見つけることはできませんでしたが、私の感覚では100~200名以下の会社では、兼務者も含めてほとんどがひとり情シス状態ではないかと思います。複数の担当者をおくことができない中小規模の宿命ですので、これは致し方ありませんが、転職希望まで抱えてしまっている人が増える一方の状態では、デジタル化云々などと言っている余裕はありません。

それでも、根気よく永く務めてくれる社員は多いと思います。しかしその社員の辛抱だけに頼りきってしまって良いわけがありません。デジタル化の進め方やデジタル化組織のあり方について、全ての社長に把握頂ければ良いのですが、そのようなことは望むべくもありませんし、社長も忙しいので、一概に経営の責任だと言い切ることなどできません。ただ、少なくともひとり情シスを孤独な状態に放置するのではなく、いわゆるCIOの様なデジタル化担当役員をつけ、可能な限り経営に寄り添った形でデジタル化を進められるように体制を整えるのが、今中小企業の社長に求められることなのではないかと思うのです。

皆さんの周りにも、孤独に煩雑なIT仕事を黙々とこなしているひとり情シスはいませんか?そのような人を見かけたら、社長に意見を具申するのも皆さんの役目だと思います。

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