第15号:高賃金・高収益社長の考え方を組織全体に連動させる法
「シライ先生、“やりなさいスタイル”と、“やってみたら?スタイル”のどちらがいいんでしょうかね」製造卸売業A社長のご発言です。私は真意を伺うべく耳を傾けます。
「先代はトップダウンで進めていくスタイルでした。そのおかげで当社はここまで成長してきましたが、一方で社員は受け身の姿勢が身に付いてしまい、自主的に仕事にあたる雰囲気がありません。私は、社員には自主性を大事にしてもらいたいと思っていて、当事者意識をもって仕事に当たってもらうためにも、社員に仕事を任せ、自発的なアイデアを出していける組織にしたいと考えています」
「ただ、残念ながら殆どの社員からはアイデアが出てこない。自分で考えてみてと伝えても、本当にちゃんと考えてる?と首をひねりたくなるような適当な改善案だったりすることが殆どで・・・ずっと受け身の姿勢できているのでいきなり変えろと言われても難しいことは分かるのですが」
製品企画に定評があり、ファブレス形態で事業を進めてきたことで収益力を高めてきたA社。ただ、企画にしても販売にしても一部の経営層だけが指揮を執り、多くの社員が受け身の姿勢でいる事に危機感を覚えている2代目A社長。
先代は強力なリーダーシップでトップダウンで進めてきましたが、その弊害に対して2代目社長としてはボトムアップ的なアプローチで進めていきたい、仕事を任せて主体的に取り組んでいける風土に改革していきたい、という考えをお持ちのようです。
私はA社長にお尋ねします。「社員に仕事を任せる時はどのような手順で任せていらっしゃるのですか?」社長はお答えになります。「ある業務に対して改善策を持ってきてください、とお願いしています」
「その後はどうなさるのですか?」「会議に持ってきてもらうようにはしています。ただ、やはりその時に持ってこない者もいれば、持ってきても凄く適当に書いているようなものばかりで、一体何を考えているのだろうと・・」
この「仕事を任せる」ということは、高賃金組織作りにおける大きなテーマであると同時につまずきやすいポイントになります。組織規模が5名程度までの会社や、それほど多くの賃金水準や利益水準を望まないのであれば大きな問題にはなりません。社長が目を光らせたり自ら業務を実施すれば、一先ず事業を回していくことが可能だからです。
しかし、もし高賃金・高収益組織を作り上げていきたいのであれば、仕事を任せるという“考え方”と“仕組み”の部分を正しく理解していないと、常に一部の上層部・ベテランだけが高い人時付加価値を上げ、他の社員は(大変言葉は失礼ですが)コストになってしまう、という状態になります。
現にA社では、人時付加価値を上げていくための改善案や施策案が誰からも出てこない状態であり、これは自ら付加価値を作っていく組織とはかけ離れた状態になっています。
特に、長年に渡って受け身の姿勢が身に付いている組織に対して、確かな仕組みを持たずに改革に望んだとしても、暖簾に腕押しの如くまるで響かないことも珍しくありません。そのうち暖簾を押すこちらの腕が疲れ切って、結局は元に戻ってしまう、何事も社長が腕を押さなければ進まなくなる、という状態になってしまいます。
A社のように任せることが上手くいかない理由ーそれはズバリ、任せる際に「方針」を示さずに全てを丸投げ・放任してしまうからです。
方針とは、重要業務に関する基準・目標・ねらい・注力すべきこと・守るべきこと・ガイドラインであり、高付加価値事業を作っていくための重要な考え方の総称です。
この方針がどれだけ組織に伝達され、経営層と社員の間で連動しているかによって、組織の力はまるで大きく変わります。
組織の行動が社長の思惑とズレている場合、その多くは「事業・業務に対する方針」というベースが組織に連鎖連動していないことが原因です。会社の方針が組織に連鎖連動していなければ、社員は“自分自身の”考え方に基づいて行動を決めざるを得なくなります。ベテランや優秀な社員であれば、社長の意図を理解したうえでアウトプットを出せるでしょう。しかし多くの人は、社長の視座で物事を考えるという経験がありません(能力がないのではなく経験がないのです)。
会社の考え方、会社の方針というものが分からなければ、ごく普通の社員であれば「身動きの取りようがない」のです。その中で主体的に動くことを求められても、考え方のベースが分からなければどう動けばいいのか、どんな方向に改善していけばいいかが分からないのです。その社員に能力がないのでもなく、やる気がないのでもありません。会社の方針が適切なカタチで示されていないが故に、その能力が発揮できず蓋をされている状態になっているのです。非常に勿体ないことです。
こう申し上げると「いや、仕事に対する考え方はいつも伝えている」と仰る方がいます。しかし「伝えている」ことと「伝わっている」ことの間には大きな隔たりがあります。まして会社のトップである社長の考え方を、様々な価値観を持った社員の立場へ正確に伝えることは簡単なことではありません。
ではどう伝えていくか。方針は必ず「文書」で示すのです。文書をもって伝えることで、方針を重要な決定事項として認知させ、これを正しく伝え、方針に基づいた思考・行動が取れているかをチェックすることが可能となります。
時々、「決定事項は口頭で伝えています」という方がいらっしゃいますが、口頭で伝えた決定事項は残念ながら発話者である社長がその場から離れた途端、いとも簡単に忘れられます。社員も目先のこなさなければならない業務があるからです。
また伝わっていたとしても、多くの場合その意図が曲解されて伝わっています。社長としては丁寧に伝えたつもりでも、その真意や重要性は理解されていません。社長と社員では、立場も経験も視野もまるで違うからです。事業に全責任を負っている社長と、分業された業務の一部を担っている社員の間で、そう簡単に阿吽の呼吸は成立しないのです。
そしてさらに重要なことがあります。成文化されていない意思決定事項は、その実施に対する「チェック」が甘くなるということです。チェックをするのは仕事を依頼している社長や上司になります。
しかし非常に厳しいことを申し上げれば、自らの方針を文書で示していないがために、その社長や上司自身があやふやな方針のまま曖昧な依頼をしていたり、チェックすることを忘れてしまう、ということが起こるのです。
ですから社長は何よりもまず、高賃金・高収益事業を作っていくための基本的な方向性を定めた基本方針や、各重要業務や重要プロジェクトに関する方針を、考えに考え抜いて打ち立てる必要があります。
そして、その方針をもって社員に業務改善や施策立案を依頼するのです。業務領域に関する考え方を文書で伝達したうえで、具体的な実現アイデアの創出や活動を社員に任せるのです。
この仕組みにより社員は「思考の土台」を手にすることができ、大きな安心感を得ることができます。方向性とゴールが明確になることで、より意欲的になります。
これまで「動けなかった」「どう考えればいいか分からなかった」社員の中から、水を得た魚のように前向きに動き出すものが現れ始めます。
一方で、方針を示す段階はまだ「伝達」が出来ている状態であり、一方通行の状態です。重要なことは、社長の高付加価値思考と社員の思考行動を「連動」させることになります。思考を連動させていくには、方針の理解度をチェックする必要があります。この「チェック」を確実にするために、社員には「実施計画書」を作成させるのです。
方針に基づいたアイデアや施策、その実施に向けた段取りやスケジュールを社員に立てさせ、社長はこれをチェックすることで、社員にどれだけ方針が連鎖連動しているかが分かります。
もし社員が方針を理解していないようなら指導を入れ、方針に基づいた計画を作ってくればそれをを承認し実行に移してもらうのです。計画が承認されることで、社員はより意欲的に安心して実施に移していくことが可能になります。その力を存分に発揮させることができます。
社員が主体的に動く組織というのは、社長の考え方をベースとして具体的な策を実施計画として提案してくる組織です。そのための仕組みが、「方針伝達と実施計画チェック」という、双方向の認識擦り合わせサイクルになります。
「なるほど、だからシライ先生は、はじめに方針作りを私に課題として提示したのですね。方針の意味が分かってきた気がします。任せるを放任にしないためにも、私が高賃金高収益事業を実現していく条件をよくよく考えて明確にしなければならないですね。私自身が方針を決めることから逃げてはいけませんね」
あなたは自身の経営方針、重要業務における方針を、社員に文書化して伝えていますか?社員に実施計画を書かせていますか?
著:白井康嗣
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