中小企業の管理者の選び方、そして、機能のさせ方
地方ゼネコンであるN社は、2年前には建築業と土木業合わせて年商20億円でした。
その翌年が22億円、そして、今期は27億円で経常利益が2億円の予定です。
この2年間N社長は、会社を変革するために一つひとつ進めてきました。
N社長は、言いました。
「先生、年明けに二人の役員が定年退職します。その替わりに二人の社員を役員にします。」
コンサルティング当初から、何度もこの二人の役員について相談を受けてきました。ここ一年はその話題も無くなっていました。
いよいよ最後の段階です。この人の入替によりN社の変革は本物になります。
【管理者に必要な素養】
管理者の役目は「目標達成」と「仕組みの改善」という『未来づくり』
管理者の役目は多くは二つあります。一つは「目標達成」です。自部署の目標を達成するために方針や計画を立て推進します。必要があれば再度部下に指示を出します。
もう一つは「仕組みの改善」です。より効率良く業務が回るように、また、不具合が再発しないように仕組化を行います。それにより会社は継続的に成果を得ることができます。
管理者の業務には、やはりある程度の能力が必要になります。その業務の多くは「未来づくり」です。そのため自頭の良さはもちろんのこと、それに果敢に取り組もうという姿勢が必要になります。
管理者の人選基準はずばり『向上心』
よく「管理者の人選の基準は何ですか?」と質問を受けます。
私は、「それは向上心です。」と即答します。向上心とは、「目の前のことを向上しよう」とする欲であり、習慣であり、行動です。
管理者の業務の殆どが「未来づくり」であり、「これをやれば…」という答えが社内には無いものばかりです。そのため「絶えず動きながら考えられる」という素養が必要になります。また自分で勉強し、創意工夫をする習慣が必要になります。向上心こそが、最も重要な管理者の人選基準なのです。
【向上心を持たない人を管理者に選んではいけない。】
逆に選んではいけない基準がこの逆になります。すなわち「向上心」を持たない人です。
言われたことだけをやる人に向上心はありません。また、社長からの「こうしたらどうか」の指示に「出来ない理由ばかり」を返す者はそれを持ち合わせていません。これでは管理者の役目を担うのは到底無理なのです。
2年後3年後に会社が発展するか(儲かっているか)どうかは、今の「未来づくり」に寄ります。そのため、その役を担う管理者の確保ができるかどうか、がその明暗を分けることになります。会社の成功もその成長スピードも管理者の質と頭数で決まるのです。
【中小企業で管理者が機能しない理由】
しかし、多くの中小企業や年商5億円前後の企業では、管理者は機能していないのが実情です。または、管理者が全くおらず社長が孤軍奮闘している会社は少なくありません。
その理由は大きくは以下の3つになります。
理由その1:採用できない
どんな時代も優秀な人材は不足しているものです。そして、彼らのほうに「会社を選ぶ権利」があります。また彼らはすでに今の会社で重宝されており、中核を担っています。
そんな優秀な人材が「採用市場」に現れることは極めて稀なことなのです。そしてその人材が自社を選んでくれることは奇跡に近いことなのです。
理由その2:育成できない(本当の理由はその仕組みがない)
大手企業と違い、社内に管理者のモデルとなる人がいません。一般社員の上が社長であったりします。そのため大手企業のように若い社員に、「課長や部長という役割のイメージ」や「自分もいつかは管理者に成るのだ」という意識が自然と芽生えることはありません。
その結果、「管理者が育ちにくい(育たない)」土壌になっているのです。
理由その3:人選の基準が間違っている
そして、極めつけがこれです。管理者の能力が無い人を上げてしまっています。
その理由は「管理者の基準」が間違っているからです。
現場を切り盛りしてくれる人、すなわち「判断層」を部長や課長という「管理者」に任命しています。
会社が小規模であれば、社長―判断層―一般社員の三層で全く問題はありませんでした。
会社が大きくなる過程で、四層(社長―管理者―判断層―一般社員)に移行する必要がでてきます。その際に問題が露呈することになります。
いままで社内で「部長」と呼ばれていた人が、実は唯の「判断層」であることに気づくのです。その人は「目標達成」のための取組みや「仕組みの改善」をすることができません。それは当然です、今まで全くやらせてこなかったのです。
このような理由で、多くの中小企業や年商数億企業では、管理者が不在の状態です。その結果、その会社の成長は非常に遅いものになっています。そして、社長は現場を離れられない状態に陥っているのです。
【中小企業が管理者を機能させるためにまず取り組むこと】
では、どのようにすれば管理者が現れ、機能するようになるのでしょうか。
それは、やはりこの三つになります。
まずは強い事業とその仕組み。そして、PDCAを回す組織
まずは強い事業にすることです。顧客からも求職者からも魅力的な事業モデルがあり、そして、その事業からは十分な給与が払える利益が得られている状態にするのです。
そして、その事業を仕組みで回せる状態にします。仕組みが整備されると、社員の中に考える者、意見を言う者が現れます。また社員の退職が減ってきます。
最後に組織を完成させます。会社全体でPDCAを回せる状態にするのです。各部署で目標達成と仕組みづくりが進められるようにします。
まずは、事業、仕組み、組織を獲得し、会社としての中核を獲得することです。
求人方法の見直し、管理者研修、人事制度はまだ早い
「人がいない」と嘆いていても仕方がありません。
このステージの会社は、どの会社も「優秀な人が採れない、居たくない会社」なのです。
なんとしても「優秀な人が採れる会社」に変えることです。「優秀な人が居たいと思う会社」にすることです。
間違っても「求人方法を見直してみよう」、「管理者研修に行かせよう」、そして、「人事評価制度を導入しよう」などに走ってはいけません。基盤が無いうちのそれらの取組みは非常に費用対効果の低いものになります。
このステージでは、本当に必要なものを獲得する、本当に強い会社にする、そこに全力投球するのです。
変革の要所:社員を巻き込んで仕組みづくりを進める
冒頭の地方ゼネコンN社は、この2年間変革に取り組んできました。
事業を見直し、仕組みを整備しました。そして、PDCAを回しました。
その結果、建築業と土木業を合わせて年商20億円が、2年後には27億円で経常利益2億円になりました。
そして、この過程で、やる気のある者を発掘し登用してきました。
土木部に提案書の意見を求めると、色々アイディアを出してくれる社員がいます。建築部の仕組化の会議で素案を作ってくれた社員がいました。ホームページの改定の際、自分で本を買って勉強し提案をしてくれた社員もいました。
N社長は、そんなやる気と能力がある社員と共に改革を進めていったのです。
社員を巻き込み仕組みづくりを進める、これが要所となります。そして、これが唯一つの改革のプロセスになります。社員を巻き込んで事業・仕組み・組織を作っていきます。
するとその中で、必ずやる気と能力があり、こちらに協力的な者が現れます。彼らは、この過程で、仕組みの作り方やPDCAサイクルの回し方を学び育つことになります。
そして、その社員達がその後の会社の中心となるのです。
変革の過程に巻き込むから管理者が育ち機能するようになる
その一方で、昔からの管理者であり役員である2名は、変わることはありませんでした。
一人の者は変わらず、自ら案件を持って現場を切り盛りしています。もう一人は、この改革にやや抵抗感を示し非協力的でした。
N社長は、その二人が居ては会社の変化が鈍ると判断し、残ることを勧めることなく「定年退職」としたのです。(この二人はそれを伝えた時に、非常に驚いた表情をしたとのことです。)
そして、やる気と能力があり協力的な社員の中から、2名の者を役員に抜擢しました。
彼らは、二人とも40代であり、技術者としての仕事をしっかりこなしていました。そして、この改革の中、その本来持っている向上心を発揮するようになったのです。
N社長は反省の言葉を口に出されました。
「彼らが優秀であることは解っていました。私が古い役員に対し決断しきれなかったこと、そして、仕組みづくりが解らなかったことが原因です。」
本当に必要なことに取り組む、かつ、その変革の過程に巻き込むからこそ管理者が育ち機能するようになるのです。
(中小企業の管理者の選び方、そして、機能のさせ方のまとめ)
・管理者の役目は、目標達成と仕組みの改善という「未来づくり」
・管理者の人選基準は「向上心」、それを持つ者を選ぶこと。
・まず社長が取り組むことは、強い事業とその仕組み。そして、PDCAを回す組織。
・仕組みづくりに、やる気と能力のある社員を巻き込むこと。それにより、社員により仕組みが回され、管理者も育ち機能するようになる。
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