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第13号:高賃金・高収益化していくために必要な、外部委託の考え方

SPECIAL

高収益・高賃金企業づくりコンサルタント

株式会社ポリフォニアコンサルティング

代表取締役 

中小企業ではハードルが高いとされる社員1人粗利3千万円、平均年収1千万円越えの本気で儲かる組織になるための土台作りを指導。会社の「価値」に注目し、価格ではなく、組織全体で価値を高め・守り・売っていく仕組み作りで注目を集めている。これまで150社以上の様々な業種の中小企業を支援する中で、中小企業の業績・資金繰り・人材確保などの経営問題の背景には、「一見相反する会社と社員の利益双方を引き上げていく経営の仕組み」が欠けていることを発見し、その仕組み作りのノウハウを体系化。

「シライ先生、何が間違っているのでしょうか?」コスメ販売A社長からのご相談です。「某ECモールでのセールは順調でした。それなのに手元のお金は全然増えないんです。もちろん理由は分かっています。ただ、これだけ売っても儲けに繋がらないなんて、根本的に何かを間違えているとしか思えません。もうこんなことが何年も続いています。」

A社長のお話を伺いながら私はお尋ねします。「試算表はお手元にありますか?」

社長はじめ社員の頑張りによって月次の売上は伸びています。それに比例して原価も増えています。販売量が増えていますから仕入原価も増える、これ自体は問題ありません。人件費はそれほど変動がありません。社員は正社員とパートで構成されていますから、出荷作業や店頭残業に対する増加分が増えただけです。

一方で、運送費、販売促進費、広告宣伝費、ECシステム手数料は大きく増えています。セール期間中にモールで仕掛けた販売促進関連費用が売上増加を上回る角度で急激に高騰しています。また仕入原価率も大きく上昇しています。セールによって売価が抑えられていることから、販売数量は稼ぎましたが1点当たりの粗利益が低下しています。

つまり売上は増やせたものの、原価率の高騰と販売促進関連の高騰によって増収減益で着地した、というのが儲けに繋がらなかった理由であり、A社長もそれを認識しておられます。A社長はその対策として「利幅の取れる商品を利幅の取れる仕入れ方法で調達したい」と考えたようです。

私は冒頭A社長の「根本的に何かが間違っている気がする、こんなことが何年も続いている」という言葉を思い出しながら、ことの重みを考慮し、一呼吸おいてからお話を始めます。A社はたしかに仕入れやセールのやり方の問題を抱えていますが、これは表面上の問題にすぎず、より本質的な問題を抱えています。それは、A社は顧客に付加している価値の小さい「付随作業の代行屋」になっている、ということです。

商売の考え方は非常にシンプルであり、お客様のお役に立つことでその対価を得られれば儲けも大きくなります。お客様の役に立つということは、お客様が抱えている願望成就に寄与したり、抱えている問題を解決してあげること、そしてそのお客様の数が増えれば増えるほど対価も大きくなります。算式に表せば「お客様の願望の大きさ×願望所有者数=対価の総和」となります。

さて、ここで考えるべき非常に重要なことがあります。対価の総和の「内訳」です。対価とは売上のことです。その売上の中身には色々な価値が詰まっています。例えばお客様がコスメに1万円支払ったとします。その1万円はお客様が得た価値の総和ですが、その価値には次のようなものが詰まっています。

・コンセプト価値:お客様の願望を叶えるという商品全体の設計価値、思想
 ・品質価値:効果や耐久性などの信頼価値
 ・利便価値:お客様がその商品を見つけやすくしたり、買い求めしやすくする価値

これらの価値それぞれに価格が付いていて、その値段の総和がお客様からいただく売上なのです。そして、各価値それぞれの価格は明確に数字として表されています。A社は小売業ですので商品を仕入れているわけですが、その仕入価格がコンセプト価値と品質価値の合算になります。そして、A社はこれを主戦場であるECモールで販売しているわけですが、そのECモールはお客様へ”モノを発見しやすく買いやすくする”利便価値を提供しています。

我々も普段からECモールを活用しますが、そこにアクセスすれば大量の商品が陳列棚の如く並べられ、いとも簡単に価格比較でき、ワンクリックで購入することができる、という利便性提供の仕組みをECモールは売っているわけです。

A社はこのECモールという、利便性提供を高度に仕組み化したシステムの中で競合より有利に立とうと、ECモールが仕組みとして用意したEC販売促進費やECシステム利用料を支払ってセールを仕掛け、お客様の買いやすさを増幅させてきたのです。つまり、利便価値の大きさはA社がECモールに支払った販売促進費やシステム利用料ということになります。

さらに、お客様宅に商品を直送するーお客様の立場からすると”商品を遠くまで取りに行く必要がなく時間と手間を削減できる”という利便価値を付けているのは、物流倉庫や物流網を有する物流会社であり、その物流会社の付加した価値は、A社が支払っている運送費です。

ここまでの説明でお気づきになったと思います。A社自体は、どんな価値をいくらでお客様に提供しているのか?・・・そうです、冒頭で書いたように、価値の本丸とは言えない付随業務作業-梱包、入金管理、広告出稿手続き作業などに対する対価しか頂けていないのです。

そしてその対価も明確に数字として計算できます。売上から仕入価格、ECモールへの販促費関係全部、そして運用会社への運送料を差し引いた金額が、A社の付加した価値の値段になります。これを、自社が自ら付加した価値という意味で「付加価値」といいます。

残念ながら、これによって計算されたA社の付加価値は、売上のわずか5%に満たないのです。A社その付加価値額からECに携わる人の人件費や諸経費を支払わなければなりません。もはや仕入れ商品や仕入れ方法、社員の努力といったことでどうにかなる話ではないのです。社員の賃金水準を上げることはおろか、最終利益を残すことさえ厳しくなることは目に見えています。

「では小売業は価値が低い会社なのか」という声が聞こえてきます。決してそんなことはありません。商品を自ら生み出さない小売業でも、お客様の願望をしっかり把握し、自社の独自性を活かした店舗運営や企画運営、さらには収益サービスの開発を通じて多くのファンを集め、高賃金・高収益を実現している会社は全国にあります。重要なことは、「外部の販売システム、外部の価値生産者にビジネスモデルを依拠している事業構造は危うい」という認識を、我々中小企業は強く持つべきであるということです。これは小売業に限った話ではなく、全ての中小事業に当てはまる現実です。

ECモールは利便価値を極限まで追求し、さながら自宅に居ながら大手ディスカウント店で買い物ができるという「販売の仕組み」を消費者に売っており、その利便価値を事業者から徴収するというビジネスモデルを確立しています。事業者はECモールでしか提供できない利便価値の利用料を、販促費やシステム利用料という名目で支払っているのです。

そしてECモールのビジネスモデル上、商品選択において価格比較になることは必至です。なぜならECモールは極限の”買いやすさ・選びやすさ”を提供しているわけですから「安く速く」を提供することがECモールの価値にならざるを得ないからです。間違ってもあなたの商品だけ特別扱いするということはありません。

A社はECモールでの販売促進費を自社でコントロールしていると考えていましたが、これは構造的にはECモールの販売システム利用料であり、その販促成果はECモールにとっての販促成果-すなわち、ECモールの主要顧客である消費者に対して価値を提供することによる売上・利益増加-が一義的に考えられているのです。

このように考えることは別にEC業者が特別なのではなく、商売であれば実に当たり前で真っ当な考え方です。A社の儲けを優先した料金設定はされていないのです。当然、A社ならではの独自性を伝える機能もありません。

もちろんビジネスは外部との連携で成り立ちますから、他社システムを使うこと自体は否定しません。ECモールを使うな、と言いたいわけではありません。申し上げたいことは、ECモールに限らず他社システムの使い方や、他社システムに担わせる価値と大きさについては十分考える必要があるということです。

特に「販売」に関することと「企画開発」に関することは会社の収益性に直結することであり、安直に全てを外部に出すことは戒めなければなりません。どちらも顧客への提供価値の本丸に当たる部分であり、本丸を外部に依拠するということは、自社の存在意義そのものがグラついてしまうことになるからです。

外部に販売機能や企画開発機能を出す場合は、その外部事業者のビジネスモデルをよく研究してください。つまり、その外部事業者は「誰に対してどんな価値を、どのような特色でもって提供することを是としているのか」を深く確認しにいくということです。

我々が目論んでいる中小企業の高賃金・高収益化というコンセプトにおいては、この検討によってその実現度が変わってきてしまう重要なポイントです。なぜなら、自社の付加価値こそが給与と利益の源泉であり、付加価値の源泉を外部に投げるということは必然的に内部で生み出す付加価値は小さくならざるを得ないからです。その小さな付加価値のために人手を使っているとしたら、高賃金高収益化には遠く届かないでしょう。

それから6か月、A社の業績も上向き出しました。コンサルティングの過程で3つの仕組み導入を進めてきましたが、そのうちの1つである”自社販売導線の連鎖設計”が機能し始めました。もともとA社長は長年コスメ業界で活躍してきた敏腕ビジネスマン。社員もよく頑張っており、社長の打ち出した新方針に協力しながら着実に高賃金高収益化への道を進めています。

あなたは自社の付加価値が何か、その経済的価値がいくらかを考えていますか?重要な付加価値の源泉を外部に丸投げしていませんか?

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