手段が目的化していないか?
プロジェクトが目標とする成果は、計画段階で明確に定められており、そこに向かうためのルートやマイルストーンがあるはずなのに、実行過程でそれらから外れてしまい、結果的に目標地点と異なるところに到着してしまう、または途中で軌道修正を余儀なくされることがあります。あるいは、目標に一直線に進めば短期間に終わらせることができたのに、必要ないルートを通って長引かせてしまうということがあります。これらは、気付かないうちに”手段が目的化”してしまったことによるものだった可能性があります。
プロジェクトの計画は、ゴールに到達するためにやらなければならないことをアクティビティ、タスクといった作業に分解し、それらの作業間で何を中間成果物として受け渡しするかを含みます。当然、ひとつひとつの作業を許容範囲内で正確に仕上げないと、それらを組み合わせた結果到達するはずのゴールに狂いが生じてしまいます。
例えば、設計図を作成する作業であれば、後続の製作を正確に行えるだけの情報を漏れなく含まなければなりません。この作業に遅延が発生すると、遅延を挽回するということに焦点があたり、製作に必要な情報を網羅しきれずに設計図を作成してしまう様なことが起こり得ます。本来は製作に必要な設計を行うことがここでの目的であり、設計図の作成はそのための手段に過ぎないはずなのに、設計図を作成するということが目的になってしまうのです。
ここは、プロジェクトマネージャ(PM)、上司等の管理者が注意しければならないところですが、管理者自身も遅延を挽回することを優先させてしまうと、目も当てられません。管理者は、遅延の挽回で一時の偽りの安心感を得るよりも、本来の目的を見失わずに設計図の品質が保たれていることを確認しなければいけないのです。
もう一つの例として、設計図の精度を上げるためには、チェックやレビューを必要とします。作業者としての担当者自身のチェックだけではどうしても見落としが発生してしまうので、第三者のチェックやレビューでそれらを摘出し修正し、より精度を上げるというプロセスです。
本来、ここでのチェック、レビューは、後続の製作作業に実際に用いられる設計図そのものを対象とするべきなのですが、私が見てきた現場では、事もあろうかレビュー用に追加資料を指示する管理者がいたのです。レビューは、関係者が一堂に会して設計担当者が設計内容を説明し、見落としがあれば指摘を受け、レビュー後に設計図に反映して精度を上げるためのものですが、設計図以外に当該レビューだけに使われる資料の準備が求められたのです。これも、本来は設計図の完成度を上げることが目的であり、レビューはその手段に過ぎないはずなのに、それが目的化してしまった残念な例です。
過去の提言(No.14)で部下の邪魔をする上司について触れましたが、その典型的な管理者といえるでしょう。製作作業で実際に用いられる設計図を対象にレビューしなければ意味がありません。もし設計図のレビューに専門知識やスキルが必要で、それが不足しているために分かりやすい追加資料を求めるなら、その様な管理者はレビューアとして不適格なのです。その様な場合、管理者は自分の代わりにレビューを行える能力を持った人間をレビューアに指名し、レビューが適切に行われたかを確認すればよいのです。
近視眼的に物事を見ていると、どうしても目先の問題・課題に集中してしまい、その先にある本来の目的を失念してしまいがちです。これは、担当者だけでなく管理者にも起こります。現場では、本来の目的を見失ってしまうことがあるということを前提に、それを常に意識し軌道修正できる人材を必要とします。第三者的にすべてのプロジェクトを俯瞰してもらう立場で配置するということです。これが、私が進めている”プロジェクトメンター”の目的の一つであり、是非いろいろな企業で試していただきたい体制です。
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