正常化バイアスが企業を蝕む!変化の時代に求められる意識改革
こんにちは。ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。
先日、ある医療機器メーカーの社長から興味深い相談を受けました。「うちの会社の売上は今のところ安定しているんです。でも、最近の市場の変化を見ていると、このままでいいのかという不安が募ってきて。新規事業も検討はしているんですが、今の事業が順調なだけに、なかなか踏み切れないんです」。
実は、この数か月間で同じような相談を複数の経営者から受けています。「デジタルヘルスへの参入を検討したいが、既存事業との関係もあり、決断できない」といった声です。これらの相談に共通するのは、市場の変化を感じ取りながらも、現状維持への誘惑から抜け出せないというジレンマです。
このような状況で経営者の判断を鈍らせる大きな要因として、「正常性バイアス」という心理的傾向があります。今回は、このバイアスが企業経営にもたらす危険性と、それを克服するための具体的な方策について考えていきたいと思います。
正常性バイアスとは
正常性バイアスとは、危機的な状況に直面しても「今までどおり」が続くと思い込んでしまう心理的傾向です。このバイアスは、企業経営において特に危険な影響をもたらします。
例えば、デジタル化への対応を先送りにする、新規事業への投資を躊躇する、既存の商習慣に固執するなどの行動につながります。
具体的な事例を見てみましょう。かつて写真フィルム業界で世界的な地位を誇っていたコダック社は、デジタルカメラの台頭を目の当たりにしながらも、既存のビジネスモデルに固執し続けました。
同社は実はデジタルカメラの基礎特許を持っていたにもかかわらず、その価値を過小評価し、新技術への本格的な投資を躊躇したのです。結果として、市場の急激な変化に対応できず、2012年に経営破綻に追い込まれました。
日本企業にも同様の例が見られます。書店チェーンの多くは、オンライン書店の台頭を「実店舗での本との出会いは無くならない」と考え、デジタル戦略の構築を後回しにしました。その結果、市場シェアを大きく失うことになりました。
一方で、正常性バイアスを克服し、成功を収めた企業もあります。
例えば、富士フイルムは同じくフィルム業界でありながら、早期にヘルスケア分野への事業転換を決断しました。既存事業での技術やノウハウを新分野に応用することで、新たな成長の機会を創出することに成功したのです。
正常性バイアスの対応と活用
では、私たち企業経営者はどのように正常性バイアスを克服し、それをビジネスに活用すればよいのでしょうか。
まず第一に、リーダーとして周囲に対して方針を明確に示すということです。人間にとって変化が苦痛を伴うものですので、曖昧な所やどちらとも解釈できる表現をすると、楽な方に流れてしまいます。そのため、社内で目標を明言し、なおかつ数字で示すことが有用なのです。
次に、外部の視点を積極的に取り入れることです。社外取締役の登用や、コンサルティングの活用、他社との交流を通じて、自社の状況を客観的に評価する機会を増やすことが重要となります。特に、若手社員やスタートアップ企業との対話は、既存の価値観に縛られない新しい視点をもたらしてくれます。
最後は、"根拠"です。それはすなわち、データに基づく意思決定がカギとなります。「今までうまくいっていたから」「前例が無いから」という経験則ではなく、市場データや顧客の声に基づいて判断を下すことが重要です。特に、自社にとって都合の悪いデータこそ、真摯に向き合う必要があります。
最後に注意して頂きたいのは、劇的に情勢が変わる現代において、変化への対応は待ったなしだということです。
正常性バイアスに囚われ、変化を先送りにすることは、企業の存続そのものを危うくします。今日の延長線上に明日があるとは限りません。むしろ、今日とは全く異なる明日が待っているかもしれないのです。
変化は脅威であると同時に、大きなチャンスでもあります。既存の強みを活かしながら、新しい価値を創造していく。そのためには、まず私たち経営者自身が正常性バイアスという心理的な壁を乗り越える必要があるのです。
このコラムでは医療・ヘルスケアビジネスに関係する情報やノウハウをお送りしています。
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