付加価値(粗利率)の低い事業をどう変革するのか?
K社長から事業内容をお聴きし、私は思いました。
「私にお手伝いできることはあるだろうか。」
それは、事前にホームページを拝見した際に抱いた思いと変わりません。
K社の事業は、金属資源のリサイクル業です。
顧客である工場から製造過程で生まれる屑やスクラップを回収し、洗浄・分別を行い、その金属を金属加工会社に販売します。
しっかりした事業であるものの、大きく飛躍する要素は無いように感じます。
そんな私の心を見透かしたようにK社長は言いました。
「先生、お願いします。」
企業の役目は、『付加価値』にあります。
何かしらの物を仕入れ、それに何かを施すことで価値を付けます。
または、人を雇い、何かのサービスを提供することで価値を高めます。
その『付加した価値』が企業の貢献の指標であり、企業の儲けの源泉になります。
価値というだけあってそれは概念です。
「その客がどのようにそれを感じるか」です。
その商品やそのコマーシャルを見た時に、次のように思うと価値が生まれることになります。
「自分に必要である」「これが欲しい」「あると助かるなぁ」
この欲求が強いほど、その価値が高くなります。
そして、「他社では作れない」、「他からは買えない」、「今しか手に入らない」という限定感が付くと、その価値は更に高まることになります。
本人が感じる「必要性」と「限定感」により、価値は高められていくのです。
その結果、それが高額であろうとも、その人は購入することを決めるのです。
そして、実際に利用してみて、その事前に抱いた期待が満たされた時に、その価値は確定することになります。
これが、企業の「付加価値を提供できている状態」となります。
その提供出来ているものが「高い」ほど、その事業は「高粗利率」を得ることになります。
付加価値の低い状態とは、この逆となります。
その商品やそのコマーシャルを見た時に、受取側は次のように思います。
「それほど欲しいと思わないなぁ」、「今のものでも十分だなぁ」
必要性を感じていないのです。手間とお金を掛け、そして、リスクを取って買うほどではないと判断されたのです。
また、「他でも手に入りそうだな」、「もっと条件がよい所がありそうだ」、「これは、いつでも手に入れることが出来る」。
すなわちコモディティ化(ありふれている)しているのです。そこに限定感はありません。
その結果、その会社は「広告の費用対効果の悪化」そして「販売不振」の状態に陥ります。
営業の現場では、値引きを強く求められたり、雑事も一緒に引き受けたり、そして、親密な人間関係をつくったりというような、その営業担当者の人間力に頼った対応が必要になるのです。
そこでは粗利率が小さくなり、より原価に近づいていくことになります。
仕入れた物に、数パーセントだけ載せた価格で販売をします。社員を日当に少し管理費を載せた価格で派遣します。その値決めは、ほぼ「モノ代」と「人工代」なのです。
その結果、非常に生産性(社員一人当たりの儲け)は低いものになります。その金額は600万円~800万円となり、頑張ってくれる社員に報いることもできなくなります。
何としても付加価値の高いサービス、すなわち必要性と限定感のあるサービスを提供する会社に成らなければなりません。
そうでなければ、まともな企業運営もできなくなるのです。
では、付加価値の低い会社は、どのように考え、どのようにそこを脱すればよいのでしょうか。
それは、大きく3つの段階(方針)あります。
その1.自社のサービスの価値をしっかり正しく伝える。
現況の商品やサービスを弄らずとも、広告やプロモーションにより価値を高めることはできます。キャッチコピーやその画像や動画などを工夫することで、魅力を高めます。
化粧品のテレビCM、書店に並べられた書籍の表紙、WEB広告からのランディングページ、これらはその表現により見た者が持つ価値を高めることをしています。
販促とは、自社のサービスの価値を100%で表現すること、または、それ以上を見込客に持たせる行為です。
その2.自社のサービスを価値だと感じてくれる人を相手にする。
今の顧客が自社のサービスに価値を感じてなくとも、他に行けばこのサービスを必要としている人は居るかもしれません。また、そこには業者が少なく、そのサービスが行き渡っていないかもしれません。他のエリア、他の業界、他の対象群を考えてみます。
その3.事業改革に手をつける。
コモディティ化し必要性も限定感も無くなったサービスを、今後も続けることは出来ません。それは企業として倒産に向かうことを意味します。
世の変化により生まれた課題に応えるサービス、また、競合他社より何かしらで優れたサービスを創り出す必要があります。
事業変革、実施的な新規事業の立ち上げに向かうことになります。
冒頭のK社のコンサルティングが始まりました。
私はK社長に、まずは「既存の事業の提案書の作成」を提言しました。
K社長は、「はい」と答えたものの、自信がなさそうです。自社は唯の資源のリサイクル業であり、金属の屑やスクラップを集め、洗浄・分別して販売するだけの事業です。そんな自社に、何かがあるとは思えなかったのです。
2週間後、そのたたき台となる資料ができました。
K社長は言いました。
「先生、どれも当たり前のものばかりですが。」
私はそれをしっかり拝見しました。そして「行けるのではないか」と思いました。
自分たちが自社のサービスの価値を解っていない。
これは非常に多いケースです。それを常日頃やっているご本人達は「当たり前」だと思っています。しかし、それは実は十分に顧客に必要とされるものになっているのです。
この時のK社の顧客は大手中堅規模の工場です。私は、それが彼らの要望や課題に十分に応えるものになっていると予測をしました。
K社長は、提案書を完成させました。そして、恐る恐る新規の商談の場で使ってみたのです。すると、顧客にしっかりこちらの話を聴いてもらえます。
いままでであれば「他社と一緒でしょう」という態度を取られ、すぐに「価格」の話に移っていました。それが「サービス」に対する質問に変わったのです。
そのサービスは今までと変わるものはありません。それを相手に整理し、しっかり伝わるようにしたのです。初めて本当の自社のサービスの価値が、顧客にしっかり伝わった瞬間です。
K社長はその後も新規営業リストに対し、電話でアポイントをとり訪問を続けました。営業は自分一人であるため、その歩みは遅いものの、1か月または2か月に1件と確実に受注に繋げていきます。
この営業活動を続けながら、K社長は次を考えていました。
「先生、面白い商材を見つけたのですが。」
見せられたそれは、金属の表面加工の資材です。K社長の説明では、「日本においては1社独占の市場であり、価格が高値の状態にある。その代用品を中国から輸入することができ、価格は7割ほどに抑えられる。」とのことでした。
なんと、K社長は二つ目の「他の人に、価値を感じてくれる人に持っていくこと」を考えていたのです。
最初は「自社のサービスをそのまま海外に持っていけないだろうか」というところがスタートでした。少し調べてみると競合が多数いることが解りました。体力のない自社には到底勝てない市場だと判断しました。
柔軟な発想を持つK社長は、視点を逆にしました。
海外にあって日本に無いものを探し始めたのです。設備、工作機器、そして薬液など。日本が進んでいるという先入観を無くしました。その結果、見つけたのがその金属の表面加工の資材です。
日本の製造業は非常に厳しい状況にあります。資材の置き換えによるコストダウンの提言は、ウケるはずです。そして、その提案をしたいというアポイントの電話を無下にすることはできないはずです。
実際に営業をすると、契約が決まっていきます。注文書が入るとその発送を流すことで、売上げが立っていきます。その1回の取引額は小さいものの、継続的にお金が入ってきます。
人のいないK社にとっては、このような手間のかからない儲けは非常に有難いものです。
そして、これをフロント商品とし、本業である金属屑の回収の営業に繋げることが可能です。
本業である「金属のリサイクル業」も「資材の販売業」も、確実に顧客は増えており、売上げは増えてきています。
しかし、それで満足するK社長ではありません。K社長は、3つ目の事業変革を考えるに至っていました。
「先生、この伸びでは大きくなるのに時間が掛かり過ぎます。もっと大きな市場を取りに行こうと思います。」
今扱っている金属は非常にニッチなものであり、競合は多くはないのですが、市場も大きくないのです。ここで1件顧客を開拓したとしても、その伸びは知れているのです。
K社長は、より大きな市場である「メジャーな金属のリサイクル」に参入することを決めたのでした。
K社長は言われます。
「昔も考えたことがあったのですが、その時の自社には無理だと諦めました。しかし、今なら十分やれる気がしています。」
今のK社には、営業の仕組みがあります。
実際に、自社の力で大手企業を何社も開拓してきました。
また、内部の仕組化が進んでいます。
同じ工場でありながら、その生産能力を倍近くまで伸ばしてきました。そして、今、新工場建設の取得に動き出しています。
十分な利益も残せているのです。
K社長は、大きな市場でも十分戦える自信を持っています。
その市場のお客様にも、十分自社の提供する価値を解ってもらえると言う自信を持っています。その眼には、自信と信念が宿っています。
お客様が得られる価値を本気で考えることから全ては始まります。
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