仮定の質問には答えられない? プロジェクト管理の闇
「仮定の質問には答えられない…」。コロナ流行の折、ある有力政治家がマスコミに囲まれた時に発した言葉です。この言葉にどれだけの人が失望したことでしょうか?先が見えない暗闇の中で、「仮にこういうことが起きたら、国はどう対処してくれるのか不安」という国民心理を、見事に裏切ってしまった大失言だと思います。一方、原発事故の時にさかんに報道で使われていた言葉「想定外の事態」にも、類似する失望感を感じます。これらの「仮定」とか「想定」という単語は、デジタル化をはじめとするプロジェクトでは、上手に管理していかなければならない魔物です。
ある機械工場を経営している社長が、こんな経験をしました。社長曰く・・・
生産計画作成作業をシステム化しようと思った
これなら投資可能だと感じたソフトを見つけることができた
導入プロジェクトを進める中で、ある日ITベンダーの営業が追加見積りを持ってきた
プロジェクトの中でどんどん要求が膨らんだので、追加開発が必要になった、と言っている
その金額があまりにも大きいので驚いた
ソフトの代金と追加見積りの合計は、当初を大きく超えており経営の重荷になってしまった
こんな話は、あちこちで聞きますし、あまりにも負担が大きいためプロジェクトを中止してしまったケースも見聞きします。プロジェクトの典型的な失敗ですね。これらの事故を未然に防ぐ手法のひとつが「リスクマネジメント計画」です。
リスクマネジメント計画とは、ある特定のプロジェクトに対して…
・発生しうるリスクを全て洗い出し
・それが発生する兆候をどうやって検出するか手法を想定し
・兆候を検出した時と発生してしまった時に、どのような対策を講じるかあらかじめ企画し
・同時に、リスクが発生しないようにする為のアクションを計画する
といった、一連の検討を指します。
ここで、我々日本人が特に注意しなければならないことがあります。それが「頑張る」という日本人独特の思想です。「みんなで力を合わせて頑張って目標を達成しましょう」という、実に美談に繋がりやすい文学的な表現は、幼いころから日本人の身に染みついています。これはもはや文化と言えるものなのでしょう。「成せばなる」という根拠のない表現が背景にあるのではないかと思っていますが、こんなにあやふやで不確かなことはありません。しかもこれを言われると、日本人は不思議と納得してしまいますよね。こんなことを気にしながら一日を過ごしてみると、「頑張ります」という言葉を聞かない日は無いほど、日本人のマインドにしみこんでいる根性なのだと思います。
それがデジタル化に持ち込まれると大問題です。ITベンダーが持ってきたプロジェクト計画について「設計作業が長引いてしまったらどうするのか?」と尋ねると、実は大体の場合「そうならないように頑張ります」という回答が返ってきます。あきれてしまいますね。これでは「そうならないように祈っています」と言っているのと同じで、全くもって計画を守るための義務を果そうとしているとは思えません。「500万円でシステム導入する計画だったが、想定外のことが発生し、頑張ったのだが1,000万円になってしまった」という冗談にもならない事態は、大抵の中小企業には許容できません。プロジェクトにおいて「頑張る」などといった表現などあってはならないのです。
こんなことが発生しないよう、私はリスクマネジメントの考え方をプロジェクトに導入するように口を酸っぱくして推奨しているのですが、なかなか広まりません。なので、少なくともこのコラムをお読みになられた方は、是非以下の行動をとって頂きたいと思います。
ITベンダーを決定する前に、とにかくリスクマネジメント計画を提出させ、その説明の中で「頑張る」、「努力する」といった文学的な表現が使われないことを確認してください。もしそんな言葉が一カ所でも出てきた場合は、ITベンダーを変更するか、プロジェクトマネージャーを変えてもらうか、最低でもリスクマネジメント計画を立て直すように強く要望する、といった対処をして頂きたいと思います。
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