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第8号:高収益・高賃金社長が知るべき「徹底」という行為の正しいあり方

SPECIAL

高収益・高賃金企業づくりコンサルタント

株式会社ポリフォニアコンサルティング

代表取締役 

中小企業ではハードルが高いとされる社員1人粗利3千万円、平均年収1千万円越えの本気で儲かる組織になるための土台作りを指導。会社の「価値」に注目し、価格ではなく、組織全体で価値を高め・守り・売っていく仕組み作りで注目を集めている。これまで150社以上の様々な業種の中小企業を支援する中で、中小企業の業績・資金繰り・人材確保などの経営問題の背景には、「一見相反する会社と社員の利益双方を引き上げていく経営の仕組み」が欠けていることを発見し、その仕組み作りのノウハウを体系化。

「シライさん、やっぱりお客様の声を徹底的に吸い上げていかなければなりませんね。それでつい先日から、1日の対応履歴から行動履歴までお客様に関係する内容について徹底的に報告させようとしているのですが・・」

ある製造販売を営むA常務からのご相談です。徹底してお客様思考が根付いている社長に鍛え上げられた役員なだけあって、貪欲にお客様の動きを捉えようとしている姿には感銘を受けるところです。常務は続けます。

「ところが、”やはり”というか・・・報告を毎日上げてくる者もいれば全く上げてこない者もいて・・・”どんな些細なことでもいいんだ”と伝えても、一向に徹底されないんですよ。シライさんは”仕組みが重要”と仰いますけれど、弊社では”仕組み”以前に人の意識や意欲の部分が欠けているので、仕組み以前の問題なんです」

その後も何やら言いたげな常務でしたため、私は耳を傾けます。営業活動の手順が徹底されないこと、製造現場での生産管理が徹底されていないこと、それによって生産性が上がってこないことをひとしきりお話された常務。このような強烈な不満も、後継者を目される常務が一生懸命会社を良くしていこうと考え、行動していることの裏返しです。

A常務に限らずこのような不満を抱えている会社は多いです。そして必ずと言っていいほど、その原因を社員の意識や意欲に求めます。そして必ずと言っていいほど、外部のコンサルタント(と称する研修講師)の社員研修・コミュニケーション研修・パーパスや理念浸透に走るか、少数精鋭の名のもとに組織化を諦めて低い生産性に甘んじる(当然賃金水準も低い)、という結果に落ち着きます。

A常務が仰るように、たしかにA社には仕組み以前に欠けていることがあります。しかしそれは人の意識や意欲ではありません。意識や意欲は仕組みによってコントロールすべきものです。もし意識や意欲が仕組みの土台にあるのであれば、入社してくる社員の意識や意欲によって会社の実行力が大きく左右されることになります。

意識も意欲も高い社員を採用しようと思えば、少なくとも最低条件として競合他社よりも20%以上は高い給料を提示する必要があります。賃金を高く設定しなければ応募者間の競争が起きず、より有利な人材を選べないからです。意識や意欲を土台に考える経営は、非常に不安定で脆い経営になるのです。

では”仕組み”以前に欠けているものとは何か―それは「規律」です。規律とは「ある共通目的を持った組織に属している人間が等しく従うべき決まり」です。そして規律ある組織とは「決まりが守られる組織」と言い換えることができます。決まりが守られない組織では、どんな仕組みもまともに機能することはありません。ましてや仕組みの上に成り立つ社員教育、人事制度、経営理念などが機能するなどどだい不可能な話です。

仕組みとは、ある目的を達成するために最適化された要素と手順の組み合わせです。規律のない組織はその要素と手順を守ることができないのです。

「赤信号になったら止まれ」-それを守れない人々の集まりであれば事故が多発することは誰でも想像のつくことですが、こと事業組織においては規律の重要性が軽んじられすぎているのが実態です。どんなに成果の出る再現性ある仕組みだとしても、決められたことを守れない組織に仕組みを運用することはできないのです。

規律のない組織は全ての物事が「徹底」されず、途中で有耶無耶になって立ち消えになったり、新しいルールがいつまでも定着しなくて同じトラブルやミスが何度も繰り返されます。A常務がご相談中何度も「徹底されていない」という発言をされていたとおり、徹底されない組織に規律は生まれません。

残念ながら「徹底」という行為を取り違えておられる方も多いのが実情です。A常務の冒頭のご発言にもある「徹底的に報告させようと思っている」という言葉が示す通り、”徹底は社員がするもの”だと考えておられます。この考え方だと、結局は物事の裁量を不安定な意識や意欲に依存しているのと何ら変わらないのです。

そうではなく、本当に徹底しなければならないことは「経営者や上司側からのチェック」に他なりません。「我々がチェックを徹底する」という考え方に変えるのです。

社員は意思決定者の本気度を見て、それに真面目に取り組むかどうかを無意識に判定します。なぜなら、人間であればだれでも自分の利を最初に考えるからです。取り組まなくても自分にとって損失がない、取り組んでも自分にとって利が得られない、と考えれば「様子見」をしておこうと考えます。ここで依頼側がチェックを怠るということは「やらなくてもいい」というメッセージを与えていることと何ら変わらないのです。

「さすがにそんな社員ばかりではないでしょう」という声が聞こえてきます。しかし意欲や意識というのは仕組みと違い、日々大きく変化するのです。中には完全に心を安定させられる豪傑もいるでしょうが、そんな人は稀中の稀です。我々中小企業の社長でさえ、意欲や意識というのは日々変わっていて、社員の行いに不満を募らせることもあれば資金繰りで不安になることもあり、逆に大きな受注に歓喜してモノの見方が変わるということもあるでしょう。

社員は、指示命令における「威勢の良さ」や「脅し文句」で本気度を察するのではありません。「チェックのしつこさ」に対して経営者の本気度を感じるのです。高収益高賃金会社の指示命令は極めて論理的で冷静です。大らかさすら感じさせることがあります。その一方で、チェックに対する執念は非常に強いものを感じます。

チェック日時を指示依頼時に決める、その日時を秘書やカレンダーアプリで管理する、チェック時間になればいかなる状況でもチェックを入れる(秘書に確認依頼しておく、メールの配信予約を入れておく)・・・チェックの抜け漏れがないようにやり方を工夫し、チェック自体を仕組み化するのです。そして決まりが定着するまで、実行の成果が生まれるまで、何度でも繰り返しチェックを入れるのです。

A常務はお話しされます。「そういえば私が相談したことは全部、”こうやってほしい”と私が考えていることを”社員がやってくれていない”ことに対する不満ですね。意欲や意識とかそういう難しいことばかり考えていて、”やると決めた事はやってもらう”という組織行動として極めて当たり前なことがすっぽ抜けていたようです。」

私はA常務に進言します。「決まりが守れる組織は全ての土台になります。規律ある組織さえ手に入れれば、その上にいくらでも仕組みを乗せられます。A常務の考える戦略も業務の仕組みも素晴らしい内容です。その実行力と実行確実性は格段に上がります。今から3か月間、常務の手帳にチェックの方針を書き込んでおいて、デイリー業務に組み込んでみてください。」

A常務の、仕組みで回す組織の土台作りは続きます。

著:白井康嗣

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