年商10億円に向かうための準備 ~社員に考えさせる技を使う~
特殊工作機器メーカーK社、エンジニアであったK社長が立ち上げました。
創業から17年、年商5億、社員数30名の会社です。
ここ最近、社内では立て続けに問題が発生しています。
部門間の連絡漏れによるクレーム、単純な組付けミス、資材の過剰発注など。
K社長は、言われました。
「自分の過去の経験からすると考えられないものばかりです。」
私がその原因をお聴きすると「解りません」と答えました。
K社長は、目を見開いて言いました。
「私は自社を全員で考える、強い会社にしたいのです。」
年商数億円から年商10億円に進む時に獲得するべきものは、事業・仕組み・組織であると皆さんにはくどいほどお伝えをしてきました。
実は、それだけでは十分ではありません。
いえ正確に言えば、それらが有ったとしても、次のものがなければ全く成果を出せないのです。また、次のものがなければそれらが形成されることもありません。
それは『社長のリーダーシップ』です。
いえ、もう一度正確に表現します。
それは、『社長の次の規模に合ったリーダーシップ』です。
いままでの社長のそれは年商数億円、社員十数名の規模に合ったものでした。
顧客も社員もすべての業務も社長の目の届くところにありました。問題が起これば、そこに駆けつけて適宜指示を出せばよかったのです。
しかし、年商10億円、社員数十名の規模では、それでは到底太刀打ちできなくなります。顧客も社員もその業務も、その殆どが目の届かない状態になります。起きることすべてに対し社長が判断し指示を出すことはできません。
『管理者や社員の脳を動かすリーダーシップの獲得』が必要になるのです。
次のステージに進むためには、次の規模に見合ったリーダーシップが必要になるのです。
会社では毎日多くの問題が発生します。その問題解決のプロセスに、その会社の『強さ』が最も顕著に表れます。
次が正しい問題解決の流れになります。
ポイントは当然ですが、「社長でなく社員によってそれが回されている」ということです。
1.問題の発見:その多くは現場で働く管理者や社員の気づきから起こります。「これマズいのではないか」「これはこうしたほうが良いのではないか」。それが上長に報告されます。
2.原因の特定:起きている現象から、論理性と想像力を使い原因を推察します。必要であれば、データを揃えたり、関係者に聞き取りをしたりします。
3.対策の決定:その受け持ちの部署と担当者が、その対策の素案を作ります。会議の場で、それを元に議論を行います。皆の意見を聴き、緊急度や重要度、そして、他の施策との関係から、社長が最終的な意思決定を行います。
4.実行:その決定を会社として実現していきます。方針や予算、そこにあるリスクも検討され、行動計画が立てられます。その進捗は定期的に報告され管理されます。その結果、仕組みが出来、根本的な解決がされることになります。
これが会社としての正しい問題解決の流れとなります。これこそが組織の機能そのものだと言えます。強い会社では、これを当然のこととして、日々回されているのです。
逆に「弱い会社」ではこれが在りません。
社長と極一部の社員だけで、それが成されています。そして、偶にあったとしても継続的ではありません。そのため少し会社の規模が大きくなるとより多くの問題が起きることになります。その結果、混乱とモグラたたきを繰り返す状態に陥ります。
強い会社と弱い会社の差は何か?
それは大きくは2つあります。
一つは、「考え方の共有ができているかどうか」です。
考え方とは、目的・意味・意図を指します。「なぜこの業務があるのか」「どういう狙いがあるのか」「どうしてこの手順なのか」それらを、社員と共有しているかどうかです。
もう一つは「問題解決のプロセスが習慣としてあるかどうか」です。
問題解決のプロセスを会社として所有して、坦々と回せている会社は強いのです。問題がある度に、それを仕組化することでより強くなっていきます。
考え方の共有と問題解決のプロセスが無い会社、すなわち、弱い会社では、次のような状況になります。
1.問題の発見:作業をしている当事者は問題に気づけません(気づかないのではない)。彼らは、その意図やいままでの背景を知らないのです。当然、アイディアも出ません。
彼らは体を動かしているだけで脳を働かせていないのです。そのためモチベーションも低い状態になります。
弱い会社では、至る所で「考え方の共有」が軽視されています。マニュアルではなく作業手順書になっています。指示を与える際にその説明もありません。
2.原因の特定:その原因の特定が社員と話し合われることはありません。その本人達に意見を求められることも少ないのです
それは、社長や極一部の社員の知識や経験によって成されていきます。その分時間は短く済みますが、社員は考えることをしなくなります。
3.対策の決定:そして、社長により対策が決定されます。
その打合せの場には、素案も紙にまとめられたものもありません。口頭でそれがされるのです。社長の頭の中ではそれはロジックで整合性のある繋がりになっているかもしれません。しかし、実は社員は殆ど解っていないのです。理解も納得もしていない状態で作業に戻ることになります。
4.実行:実行計画が作られることはありません。そして、なんとその進捗が確認されることも少ないのです。少なくない指示が「ほったらかし」にされます。そして、思い出した時に「あれどうなった?」と訊かれます。
意味や意図が腹に落ちていないだけに、やる気も起きません。その実行も弱いのです。
その多くは、会社として定着せずに終わります。そして、数年後に同様の問題が再発することになります。
弱い会社の問題解決のプロセスはこういうものです。
仕組みとして積み上がっていかないのです。また、人も育たないのです。そして、社員が辞めていくことになるのです。
問題解決のプロセスとは、会社の一部では無く、会社の中核を成すものです。問題が起きた時、改善をする時、来期の計画を立てる時、すべてが同じなのです。それゆえに、会社の強さと弱さを分ける要因になるのです。それゆえに、何よりもその獲得が優先になります。
・考え方(目的・意味・意図)の共有
・問題解決のプロセス
この2つです。
私は、これを「社長のリーダーシップ」と言っています。確かに仕組みでの要素はあります。
しかし、それ以上に社長自身がこれを実行しているかどうかの影響が強いのです。
社長がこの重要性を理解し、実際にそれを実行に移せば、組織全体がそのようになっていきます。逆に社長がしなければ、それは永遠になされないことになるのです。
これを年商数億円、社員十数名から年商10億円、社員数十名に進むときに獲得しなければなりません。
しかし、それを変えることは容易なことではありません。いままでの規模では、今までの「自分が引っ張る」ことでしかことが進まなかったのです。その成功体験を捨てなければならないのです。そして会社の「習慣」を替えるのです。
そのために、今日から出来ることがあります。自身の態度は変えることはできます。
その変革は、社長の態度を変えることから始まるのです。
まずは、「貴方の考えを教えて」と社員に意見を求めることです。人は話すから考えるのです。
その際には、絶対に話し過ぎてはいけません。しゃべろうとする自分の口をぐっと噛みしめるのです。
また、「検討書(企画書)を作ってみて」と素案を出させることです。社員は素案を作る過程でしっかり考えることになります。
いままでのリーダーシップを捨て、次のステージに合ったリーダーシップを身に付ける時です。そのためには、今日からできることをやりましょう。
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