社員の創意工夫を引き出す秘訣:10年以上悩んだ社長が見つけた答えとは?
ある関西地方の企業をご支援した際に、出会った二人がいます。同期入社の二人は、サッカーと野球という違いはありますが、スポーツを愛し、練習に打ち込んで、学生時代には他の人がうらやむほどの実績を残したという共通点がありました。二人とも入社当時から役員に将来の幹部候補になり得る人材として注目されていたのです。
入社6年目で二人に転機が訪れます。二人とも係長に抜擢され、部下を持つことになりました。野球部出身のSさんには、同じく野球部出身の部下がつきました。二人はともに行動目標を設定し、ひたすら行動量の維持に努めました。第1四半期こそ予算未達となりましたが、その後は連戦連勝で通期の予算も達成し、Sさんは個人としても優秀な成果を出し、社長賞も受賞しました。その後もSさんのチームの快進撃は続きました。
一方、サッカー部出身のYさんは、部下を持ってから調子を崩してしまいます。部下はYさんの指示を聞かず、お客様を待たせても構わず定時で退社することが続きました。
Yさん自身は、2つの部門での経験を経て係長になりました。かつての上司たちからも大変評判が良く、何人もの元上司から推薦があったと聞いています。Yさんは様々な提案を上司に行い、上司が率いる組織の仕事の効率が改善したことを複数の上司から絶賛されていたのです。
期待されてYさんは係長になりましたが、部下が自由奔放な状態が続いていることで、他部門からYさんの指導不足を指摘する声が高まっていました。そんな矢先に、M社の社長からYさんの支援をしてほしいと打診がありました。Yさんの上司にあたる部長にはすでにコンサルティングを実施していたため、当初はお断りしましたが、Yさんの将来を見据え、できるだけ早急に改善が必要と判断しました。
社長は「『仕事は楽しい』ことを社員に伝えたい」と常日頃からおっしゃっていました。この社長の原点についてお伺いしたことがあります。
中学生の時、社長は叔母さんの会社でアルバイトをしており、1ヶ月ほど経った頃に壁の汚れに気づき、タオルでこすってきれいにしたことがあったそうです。帰りがけに叔母さんが「お前は大した子だよ。壁の汚れに気がついて、自分でキレイにしようとしたんだから。叔母さん嬉しかったよ」と声をかけてくれたそうです。
社長は「叔母さんは、自分に仕事の面白さを伝えようとしてくれたのだと思う。これが私が仕事って楽しいと思った最初の記憶なんです」と語っていました。この社長は創意工夫を社是として掲げて取り組んできました。
ところが、社長がいろいろ試しても、この創意工夫がなかなか生まれないことに嘆いていました。「10年以上言い続けて、アイディアは出るようになったけど、アイディアの質的な変化が起こらない」と不満を持っていたのです。
話を元に戻します。
社長もYさんのことを「創意工夫できる社員だ」とべた褒めしていました。ところが、そのYさんがマネジメントでつまずき、元気をなくしていたのです。
もともとYさんは、サッカー選手だったとは思えないほど温和で口数の少ない社員でした。Yさん自身、最初は考えるよりも実践するタイプでしたが、マネジメント技術を持つ上司との出会いから、アイディアを量産するようになったのです。私はYさんにマネジメント技術を伝え、この状況を乗り越えることにしました。
マネジメント技術を使うと、Yさんのように部下に厳しく接するのが苦手な人でも、部下の行動を正しい方向に変えていくことができます。素行が悪いからといって、部下の行動を大声で怒鳴る必要もありません。執拗に相手を責め立てて恐怖感を植え付け、行動を矯正する必要もないのです。
Yさんはすぐに実践を始め、マネジメント技術を使って部下の行動を変えることに成功しました。マネジメント技術を使うことで、社員にもう一つ大きな変化が生まれます。
それは、社員の思考力が改善することです。マネジメント技術を持つリーダーと社員が対話することで、社員が自ら課題解決できるようになるのです。ここで、創意工夫ができる土台が築かれます。マネジメント技術の応用技術を使うことで、創意工夫がさらに進みます。これは、大企業の研究職向けに行われていた発想力を鍛える技術を応用したもので、少し練習が必要ですが、練習を重ねると、誰もが自社の商品やサービスに関連したアイディアを次々に生み出すことができるようになります。
この応用技術を知らない人がアイディアを見ると、そのレベルの高さに驚いてしまうのです。
Yさん自身も、この応用技術を持つリーダーからマネジメントを受けた経験を通じて、アイディアマンに変身しました。中学生だった頃に社長が感じたように、Yさんも仕事で創意工夫を実践することで、楽しさを感じるようになっていたのです。
当初マネジメントでつまずいたYさんですが、自分自身でマネジメント技術を習得し、さらに応用技術を実践して、部下もまた創意工夫を実践できるように変えていきました。
それから5年ほどして、Yさんも同期のSさんも、会社の中核的な存在として営業部を率いる立場になりました。この会社の営業の仕組みは、まさに社長の創意工夫の賜物で、競合を圧倒する優れたものでした。競合他社もその手法を真似しようとするのですが、持続的な成果を上げられず、M社は一人勝ちの状態にありました。
しかし、コロナ禍で状況が一変します。対面の営業が一気に冷え込み、大打撃を受けることになりました。ここでYさんとSさんにもう一つの転機が訪れます。Sさんは既存のやり方を最大限に活用し、行動量で圧倒的な成果を出していましたが、既存のやり方が通用しなくなると、まったく成果が上がらなくなりました。
一方、Yさんは次々と新しい手法を考えては、試しを繰り返していきました。新規案件数を2ヶ月で元に戻すことに成功したのです。
社長は新規営業開発室、後に経営企画室を創設しました。室長は社長が務め、Yさんは副室長、となりました。そして現在Sさんは経営企画室の室長を務めています。Yさんは、M社の営業手法の新規開発のみならず、子会社の営業仕組みの改善にも携わり、3つの子会社に新たな営業システムを導入するなど、大活躍しています。
このように、マネジメント技術を使うことで、意図的に社員の思考力を改善することが可能です。御社の社員は、問題解決力が向上していると言えますか?御社のリーダーは、部下の問題解決力を高めることができていますか?
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