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第3号:高収益・高賃金化を実現していく社長の時間軸

SPECIAL

高収益・高賃金企業づくりコンサルタント

株式会社ポリフォニアコンサルティング

代表取締役 

中小企業ではハードルが高いとされる社員1人粗利3千万円、平均年収1千万円越えの本気で儲かる組織になるための土台作りを指導。会社の「価値」に注目し、価格ではなく、組織全体で価値を高め・守り・売っていく仕組み作りで注目を集めている。これまで150社以上の様々な業種の中小企業を支援する中で、中小企業の業績・資金繰り・人材確保などの経営問題の背景には、「一見相反する会社と社員の利益双方を引き上げていく経営の仕組み」が欠けていることを発見し、その仕組み作りのノウハウを体系化。

「シライさん、あと社員を3名確保できれば、月商2000万円は伸ばせるはずなんです。特に今の時期は忙しくて孫の手も借りたいくらい人が足りない。もう少し人がいれば売上を増やすことができるのですが・・。」

精密加工を淡々とこなす工場は、工場とは思えぬほどの静けさに包まれています。宝飾関係製造会社社長と私は、社員の邪魔にならないよう息を潜めながら工場内をぐるっと一周回り、工場を歩いて抜けた先にある会議室で話を始めます。聞けば、ちょうど今はピーク時真っ只中のようで、仕事の依頼はバンバン入ってくるのにそれを捌き切れておらず、売上ロスが発生しているとのこと。社長からしたらいかにも「勿体ない話」です。

私は気になる事を確認します。
 「今は立て込んでいる月かと思いますが、年間通じてこのようにパンクするのはどれくらいの期間なのですか?」
 社長は答えます。
 「そうですね、ピークは3か月です。あとは並がありますが、だいたいピークの1/3~2/3程度の仕事量になりますね。」

商売は常に変動しています。季節性が大きく年間での販管需要差が大きかったり、顧客の購買タイミングが重なってしまう商売もあります。また売上的には通年均等化している商売でも、販売促進企画や商品企画など定期的な事業強化のための内部活動に波があります。

折しも今がちょうどピークの時期ということもあり、多忙極まっていることや、毎日目に見えて売上が増幅していく場にいることの高揚感などもあるのでしょう。現場でも混乱が生じており、色々な”不満の声”が社長の耳に入っている頃合いです。今の社長にとっては人の確保が最大の課題であると考えるのも、状況を考えれば無理もありません。そして、ここで一気に稼ぐべく生産販売量を確保するために資源を投入したい=人を投入したい、というのが大方の経営者の考えだったりします。

しかしながら、こと高収益・高賃金を目指す会社としては、この考えを続ける限り達成は難しくなります。理由は明快です。繁忙期に合わせた資源量(人員数)は、閑散期に重荷となって収益力を低下させるからです。
 「もちろん、閑散期のことも一応考えてはいますよ。」社長はお話されます。社長も長く経営しています。閑散期の売上が増えれば利益も増えていくことは分かっています。しかし、実はここに大きな問題が隠れています。

それは「課題の優先順位付け」です。経営ではいくつもの課題を抱えているのが普通です。今回の場合、人材確保の課題と閑散期対応という2つの課題があるわけですが、「閑散期のことも”一応は”考えている」という言葉通り、社長の中では人材確保の課題の優先順位が高いようです。

しかし、繁忙期に人を増やしても、閑散期(実に9か月間)の売上に対して何ら手を打てていなければ、よほど繁忙期である3か月間に売上を伸ばさない限り、利益はせいぜい微増か、多くの場合減益するのが相場です。言うまでもなく、9か月間は売上が変わらないにもかかわらず固定経費である人件費が増えるからです。

少し考えれば当たり前なことを申し上げているのですが、このような優先順位の掛け違いが起こってしまう最大の理由は「社長の時間軸が”月単位”になっている」からです。
 思考の時間軸が月単位になっていると、全体を俯瞰してうえで重要なことを見極めるのが難しくなります。閑散期のことは頭にあっても、当月に目先で起きていることを大きな課題として錯覚してしまうのです。そして課題設定を間違えてしまい、肝心な閑散期の売上利益増加という手を後手に回し、固定経費の増加を招く人材確保に走る、ということが起きるのです。

社長の持つべき正しい時間軸は「年単位」になります。経済のサイクルは1年が基本ですから、最小単位は1年となります。そして高収益高賃金企業を目指す社長であれば、3~5年の時間軸で思考することを目指してください。

社長自身の思考が月単位か年単位のどちらよりかを簡単にチェックできる方法があります。それは、「普段数字について口にする時、月単位と年単位、どちらの数字を言うことが多いか?」です。
 思考が月単位の社長の多くは、売上や人件費の水準を話す時に月商ベースで話をします。一方、思考が年単位の社長は、それらを話す時に年商ベースで話をします。特に、「売上・利益をどれくらい増やしたいか?」を考える時に、この傾向が強く出ます。

年単位で思考すると、優先順位を間違えません。まず、年間で収益構造がどうなっているか?収益の流れはどうなっているのか?と大きく俯瞰したうえで、それを月単位に分解して考えるという発想になるため、先ほどの「閑散期対策」と「人材確保」という課題についてロジカルに優先順位付けをすることが出来ます。
 年単位思考だからこそ、新たな顧客開拓、新しい商品サービス作りといった「緊急ではないが腰を据えて取り組むべき重要なこと」をどう実現していくかを計画することができます。毎月の業績に一喜一憂することもありません。絶えず先を見据えて様々な対策オプションを仕込んでおくことができます。

月単位思考は、その思考内容が「管理」に向いているのです。月次の業績を管理する、人の動きを管理する、仕事の進捗を管理する、資金繰りを管理する、という発想で、これらは管理者業務の話なのです。

もちろん管理業務そのものを否定しているのではありません。管理業務を現場が正しく遂行できることは、戦略実行の意味で非常に重要です。しかし、こと「社長が考えなければならないこと」としては、もし社長が当月の管理のことばかり考えていたら、会社の未来のことを誰が考えるのでしょうか?1年間という経済サイクルの中で決算というカタチで評価される会社経営において、1年先の着地を見据えた意思決定を、社長以外の誰がするのでしょうか?

社長には月次試算表を1年分お持ち頂きました。そしてその内容をもとに、「これから先1年分の収益計画を立てること」に取り組んで頂きました。これまで毎月の数字を追っていた社長にとって、はじめて未来を具体化する取り組みです。数字の組み立て方は、コンサルティングの中で理解しています。しかしこれまでは「一応の」理解でした。実際に思考を切り替えなければならない状況になった今、社長は言います。

「あの時は正直、数字を作るなんて数合わせぐらいに思っていましたけど、こうやって作っていくと、これまでいかに優先順位を間違えていたかがよく分かりますね。」 

それ以降、多忙極まる繁忙期において、毎日必ずデスクに向かい、未来と向き合う時間を作っている社長。管理者から高収益経営者への変革が始まりました。

著:白井康嗣

 

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