社会貢献に対価を払う購買意識の現在地
製品やサービスの購入に際し、「社会への貢献」に見合った対価を支払う意識は未成熟だが、採用やエンゲージメントには効果が発揮され始めています。
「低CO2排出に注力した商品は、まだ引き合いがほとんどないんです」。
東京都が先日主催した、ある脱炭素関連のシンポジウムで、金属加工業の社長が自社の優れた取り組みを紹介した後に語ったこの言葉は、多くの中小企業経営者の悩み・ジレンマを象徴しているように思います。
政府は、2050年までのカーボンニュートラル実現を高らかに宣言し、大企業もこぞって脱炭素の推進を掲げています。しかし、その実現に貢献するための努力・コストに対し、消費者や企業が支払おうと思う対価は、十分なレベルには至っていないようです。
東京都で先駆的と認められるような優れた企業・取組み、かつ脱炭素のような顕在化された課題であってもそうなのですから、ビジネスで社会を良くしようとする動き、そしてそれをサポートする購買意識は、未だ本格的な形成には至っていないと言わざるを得ません。
■社会への貢献が当たり前に対価につながる世界はくるか?
これが「社会への貢献に対価を払う消費者意識の現在地」ということなのでしょう。社会課題の解決に貢献しようとする製品・サービスは、通常よりもコストがかかるのが一般的です。しかしその一方で、社会的に有益とされる製品・サービスであっても、欧州などとは異なり、日本ではまだ価格アップを受け入れてもらえるほどに評価されるわけではないのです。
よく、社会貢献への取組の効果として「ブランドイメージの向上」が挙げられるケースは多いですが、少なくとも利益の面においては、コストに見合った効果が得られることは稀だといっても過言ではないかもしれません。少なくとも、ブランドイメージ向上を事業性の根拠にすることには慎重になるべきです。
とはいえ、いつまでもコストの壁に跳ね返されていては、社会は良くなっていきません。SDGsに慣れ親しんだ世代の台頭もあり、徐々に消費者の意識も変わっていくとは思いますが、その実現にはまだ時間がかかります。現状では、社会課題の解決に貢献するという「信頼」と「対価」のギャップをどのように埋めるかが、企業や社会にとって大きな課題になります。
■人を惹きつける効果は顕在化してきている
一方で、社会的な貢献活動が直接的な売上に結びつかなくても、その恩恵は別の形で顕在化しつつあります。先述の社長は、脱炭素の取り組みを進めた結果、自社や自分自身への注目が集まり、会社への問い合わせや採用活動が明らかに増えたと述べていました。シンプルに取り組みに共感したということに加え、この企業の取り組みがメディアに取り上げられ、社長のインタビュー記事が検索の上位に表示されるようになった結果、企業の知名度が飛躍的に上がったそうです。
特に採用においては、取り組みに共感する人材が集まるようになり、応募者数が目に見えて増加したといいます。近年、若い世代を中心に、企業の社会貢献や倫理的な活動に共感することが、企業選びの重要な要素になっています。利他的な目標を掲げ、それにまい進する企業が、自社の門を叩く人材の質・量を引き寄せるという流れは、今後さらに強まっていくと考えられます。
特に、労働集約的な事業を手掛けており、人の採用の成否が事業規模を大きく左右する企業にとっては、この流れは見逃せないものと思います。採用難が続くなかでも、企業がその取り組みを通じて求職者に対して強いメッセージを発信することができれば、大きなアピールポイントになりえます。これは採用のみならず、社内の人材のエンゲージメントに関しても同様です。
■事業との連動が必要
とはいえ、こうした人材への訴求効果があるにしても、戦略的な事業展開を進めていかなければ、本当の意味での会社の発展にはつながりません。事業や採用、社会貢献活動がそれぞれバラバラに、場当たり的になってしまえば、どうしてもリソースの分散を招きます。たとえ社会的に称賛される取り組みであっても、それが企業のビジョンや事業戦略と一致していなければ、企業全体としての成長には結びつかないのです。
だとすれば、社会貢献のために、自社がいつ何をするのか、何にどれだけリソースを投入するのか、といったことも経営戦略の検討に織り込まれる必要があります。理想を言えば、事業を追求することが社会への貢献につながるように、創造・訴求価値の定義ができるとよいでしょう。そうすることで、社会貢献は単なるコストではなく、信頼を経済的な成果に転換するための強力な武器のひとつになっていきます。
社会に貢献する製品・サービスが、すぐに売上や利益に直結しない現実はまだ続くでしょう。しかし、信頼を基盤にした活動が採用力や企業イメージ向上に寄与し始めているのも事実のようです。
重要なのは、こうした取り組みを事業の成長とどう結びつけるかです。社会貢献を単なるコストで終わらせるのか、そこから生まれる信頼を企業の競争力や未来の成長のための資源として位置づけるのかで、経営の道筋は変わってきます。当社では、このような信頼を対価に変える手法のご提言を使命として、中小企業のご支援を続けていきます。
せっかく事業を行うのであれば、社会の発展もけん引できる事業にしていきましょう!
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