社長自身の価値観・人生観を体現する経営
経営者自身の価値観にあったポリシーを具体化し、独自の経営スタイルを確立することで、会社の成長と経営者としての自己実現の両方を実現することができます。
「それは間違いなく、人を大切にする路線を踏襲していくべきですね。他社に合わせて御社の良いところを捨てる必要はまったくないと思います」
これは先日、サービス業を手掛けているN社の役員の方と議論をしているときに申し上げたご提言です。
この役員の方は、来年度の初めから、現社長より経営を承継される予定です。そして同じタイミングでの中期経営計画の導入準備を進められており、そのご支援を当社が担っています。
子供たちの健康を直接支える事業を手掛けている会社であることに加え、この役員の方ご自身も、社会や周囲の人々に貢献したいという気持ちを強くお持ちであり、当社としても特に強く応援したくなるお客様です。
冒頭のセリフは、「人を大切にし、社内の雰囲気も良いN社が、今後もそのような路線でよいのか」という議論をするなかで生まれたものでした。競合他社のいくつかがいわばブラックな会社であり、コストを抑えながら事業を拡大させようとしている現状があるそうですが、だからといって既に一定の事業基盤のあるN社が、わざわざ自社の良い部分を捨ててまでそれに合わせる必要性はないだろうと、確信に近い想いがありました。
そして何より、人や社会に対する真摯さ・誠実さを大切にしたい経営者が、自身の価値観に合わないやり方を取ろうとしても、事業を前に進めるためのエネルギーや求心力が生まれてこないとも考えました。
今回は、経営計画をはじめとする「経営の仕組み」を取り入れる際に合わせて留意すべき、経営者自身の価値観・人生観についてみていきましょう。
■属人的な経営と組織・仕組みによる経営
一般論として、経営者が変わる場合、特に経営を新たに引き継ぐ側に経営者としての経験が少ないケースにおいては、それを補う仕組みを導入するのが効果的といえます。
事業をゼロから立ち上げる際には、並々ならぬエネルギーやカリスマ性といったものが必要であり、それは経営者(創業者)の属人的な素養に頼る部分が少なくありません。しかし、会社が一定以上の規模になると、やがて創業者が1人であらゆる領域に目配せをすることは難しくなっていきます。仕組みによる経営を導入し、「他人である役員・従業員に動いてもらうことで、物事を前に進めていけるようにする」必要があるのです。特に、経営や事業の経験が少ない方が事業を承継する場合に、この必要性は大きくなります。
中期経営計画をはじめとする「経営の仕組み」を整備する過程では、計画実行後のビジョンやそこに至る戦略、収支計画など、様々な要素を検討していくことになります。
例えば中期経営計画では、会社として今後実施すべき施策を具体化して関係者と共有することで、実行にあたっての統率力・推進力を向上させたり、PDCAを回せるようにします。経験の浅い経営者が、既に一定の規模に達している組織の力をより引き出すためのツールとしては、非常に有用なものだと思います。この分野においては様々な手法が既に存在しており、A4 1枚にまとめるとか、手帳型にするとか、様々な工夫がなされていますし、当社でも過去の事例を通じて改良してきたフォーマットを使用しています。
■経営者のポリシーを経営の核に据える
このような「経営の仕組み」を導入する際、経営の方向性を可視化することに加え、当社が特に重視していることがもう1点あります。それは、このような「経営の仕組み化」を通じて、経営における社長ご自身の優先事項を明確にすることです。経営ポリシー、経営哲学とでもいうべきもので、つまりは経営において何を大切にしていきたいのか、ということです。
ここでいう経営において大切にしたいもの、すなわち経営のコアともいうべきものは、経営者自身の人生観・価値観に深く根ざしたものであるべきです。なぜなら、経営者自身が何としても実現したいと思うものこそが、苦境においても事業を前に進める原動力となるのであり、会社が苦境に陥っても、まさしくコアとしてそれを乗り切る活力を与えてくれるからです。
しかし現実には、会社のコアとなる考え方と経営者の想いが異なる、ということは珍しくありません。特に事業承継した経営者の場合、元々は自分の会社ではなかったのですから、この傾向はより顕著になるのも無理はありません。
このような場合、例えば経営者自身は人生を通じ、「社会に貢献できる仕事をしたい」「従業員を幸せにしたい」と考えていたとしても、会社の未来像には反映されにくくなります。経営者に就任し、いざ自分流のやり方を取り入れようとしても、「果たしてそれでよいのか」、「自社の風土にはふさわしくない」、「今の財務状態ではそんなことできない」といった考えが捨てきれず、現状を踏襲するだけの無難なものになってしまうのです。
ですが、お客様への価値や社会への貢献といったものを大切にしたい経営者であれば、自身の価値観・人生観から目を背けず、後回しにせず、堂々と宣言しながら仕組みの中心に据えるべきです。それを有言実行しようとする姿勢から生まれる期待感、信頼が、周囲の協力を引き出し、事業を加速・成長させていきます。経営者としての経験が少なかろうが、不思議と手を貸してくれる存在は現れるものです。
逆に、周囲の人々よりも会社や自分自身の利益を追求する場合はどうでしょうか。これはこれでやり方次第ではうまくいくのかもしれませんが、行き過ぎた管理や過剰な効率重視の姿勢は、これからの時代においては大きな歪みをもたらし、経営のリスクとなっていきます。
もちろん、周りの人々を軽視するような発言を表立ってする経営者はほとんどいませんが、社内の実態は雰囲気に如実に表れますし、近年ではSNSや転職サイトで内部の実情も少し調べればすぐわかるようになってきています。
社会への貢献や周囲の人の幸福を追求するという姿勢は、一見綺麗ごとのように見えるかもしれません。しかし、2010年代以降の企業に対する社会要求の高まりなどをみても、これを愚直に実施できる経営者・会社こそがこれからの時代はより評価されるはずです。将来の自社の絵姿やそこに至るための経営のあり方を決める際、経営者が自身の経営ポリシーを明確にし、それを宣言することが、事業の成功確率を高めるひとつの解になると当社は考えています。
■ビジネスの力で社会をより良くする
現代社会において、企業が社会に与える影響は非常に大きいといえます。大企業ともなれば、その売上高がそれなりの経済規模の国の国家予算を上回ることも珍しくありません。ですから、人々の生活や環境を良くする意欲と能力を持つ企業が、正当な対価を得ながら発展できるようになれば、ビジネスの力で次世代により良い社会を引き継ぐことにつながっていくはずです。
そして、そのような社会を変革する旗手となるような企業は、社内に対して締め上げを行うような企業、端的に言えばブラック企業やそれに近いグレーな企業から生まれるはずはありません。身内を大切にしない会社が顧客や社会を大切にするマインドを持てるはずがない、というのもありますが、そもそもそのような会社は投資や労働力の確保が制限されるといった面で、社会から存続することを許されなくなっていくはずだからです。
一口に経営者といっても1人の人間ですから、考え方は千差万別です。それと同様に、経営に対する考え方も、それぞれ異なっていてよいはずです。
ですから、今回述べたような、社会や人に対する経営者の想いを経営の核に据えるやり方が、常に正しいとはまったく思いません。あくまでも、周囲からの”信頼”を大切にし、次世代をより良くするために想いをもって事業を展開されている会社・経営者にとっては、ご自身の価値観・人生観を体現する会社・経営を実現させるのがよいということです。
いま貴社に存在する、あるいはこれから作ろうとされているその経営計画は、あなたが人生をかけて実現したい仕事・大切にしたい考えを反映し、発展させていく内容になっているでしょうか。フォーマットを埋めるだけでなく、是非一度、ご自身の価値観や人生観にも考えを巡らせてみてください。それが、これから長きにわたって続いていく経営という役割を担う、あなた自身の自己実現にもつながるはずです。
当社では、そのような経営者の皆様に対し、「信頼」という切り口で事業の仕組みや将来計画のあり方をアップデートするためのご支援を行っています。ご興味・ご賛同を頂ける方々と、セミナーや個別面談にてお目にかかれるのを楽しみにしています。
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