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システム導入プロジェクトでよく遭遇する「終わらない会議」

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

デジタル化の計画段階が完了し、導入するべきソフトウェアとITベンダーが決まったのちは、そこそこ長い期間にわたるプロジェクト活動が始まります。これは多くの場合、以下のような段階を進むものになります。

要求定義(パッケージの場合はパッケージと現在の業務の乖離を明確化する)

要件定義(システム化要求を技術的に機能概要にかみ砕く)

設計・開発(パッケージの場合は設定やカスタマイズ部分の開発)

テスト

稼働準備

稼働

この各段階のうち、要求定義や要件定義段階はユーザー企業とITベンダーとの間で何回も会議が行われることになります。(会議を先行させずに、まずは動くモノを作ってそれで議論する、という手法はあるのですが、私から見るとまだまだ少数派です)

さて、問題はこの会議が全く終わらないことが多い、という今日のお題でもある事象です。これは、IT化プロジェクトに特有のものでは無いのですが、通常の会議よりどうしても長くなったり回数が増えたりしてしまう傾向にあります。通常ITベンダーは、「この機能の確認にはこの時間をかけて…」といった時間・工数見積りをしています。それに基づいて費用見積りもしていますので、これが想定を超えて長くなったり回数が増えたりしてしまうことを避ける努力をします。しかし最悪の場合は、追加費用を求められることもあり、ユーザー企業側からすると「会議をしているだけなのに、どうして費用が増えるのか?」という納得のできない状態になることもしばしばです。

さて、そのような「終わらない会議」の中身を見てみましょう。私の経験では大体の場合、以下のような実りの無い議論を繰り返していることが多いものです。例えば…

Aさん「この機能って在庫を引き当てて確保しておくものでしょ?」

Bさん「それだけではなくて、発注済みの部品からも引き当てないと製造が計画できないよ」

Aさん「なら、発注済みの入荷予定まで考慮した在庫から引き当てればいいんじゃない?」

ITベンダー「未納品のものを引き当てる機能はありません」

Bさん「それに、発注しただけでは納期が確定できていないから、そこから引き当てたら最悪足りなくなるよ」

Aさん「それなら、納期回答を元に仮在庫に計上すればいいんじゃないの?」

ITベンダー「仮在庫という機能は無いので、カスタムで作りましょうか?」

Bさん「そんな機能を作るとして・・・でも仮在庫と実在庫の管理を両方やることになるのは無理だなぁ。やっぱりそこは自動で管理できないと困るよ。」

ITベンダー「それはどんな機能ですか?」

・・・・続く・・・・

いかがでしょうか?これは、理想とする業務プロセスを合意できていないまま、ただただ機能の議論をしてしまっているために発生する「不毛の議論」です。これではいつまでたっても議論が収束しませんし、ひたすら機能が増えていく一方になるので、さらに機能を議論しなければならないことが増えてしまいます。また、AさんとBさんで議論しているだけならまだ社員同士で決着もしやすいものですが、そこにITベンダーが加わると、話はややこしくなるばかりです。

本来、このような議論をする際には、ユーザー企業側はITベンダーが会議をある程度主導してくれることを期待しますし、ITベンダー側には「プロジェクトマネージャー(以下PMと略)」と言う肩書きの人が登場しますので、「この人がまとめてくれるのだろう」という期待が高まります。確かにこのような会議をきちんとリードし、コンパクトに決着させてくれる辣腕のPMも多いのですが、残念ながらそうではない「おとなしい人」がPMをやっていることもあります。このような場合、会議をリードするどころか、発言も必要最低限で、機能を要求されても「持ち帰り検討します」と宿題にしてしまうことも多いものです。結局、持ち帰った挙げ句、「追加開発になります」という回答となってしまうこともあり、そうなると議論しなければならないことが増えてしまいます。

こういった、「全然終わらない会議」、言い方を変えると「無限に増殖してゆく会議」が発生しやすいのが、要求や要件定義の段階なのです。これを防止するためのコツはいくつかありますが、重要なことは…

・ありたい業務プロセスを先に決める

・会議の場では現実現物を元に議論し、絵もデータも無い状態で議論をしない(何もないならその場で書く)

といった基本です。さらに、「これらに気を配るのは、ITベンダーではなく、ユーザー企業側であるべきだ」という点も注意が必要です。何も発言しないPMをあてがわれるケースもある、ということは、ITベンダーが任命したPMは、ユーザー企業とのプロジェクト管理をする役割ではなく、ITベンダー自社の開発作業を管理する役割であることが多いからです。

私は、「PMはユーザー企業のアクションまで含めて管理しないと、真にプロジェクト全体を管理しているということにはならない」という信念を持っていますし、PMがきちんとそのような役割と責任を果たすプロジェクトは大抵うまく行きますので、ITベンダー選定の際の条件にしているほど重視しています。それ故に、ITベンダーを決定する前のベンダー比較項目の中に、PMの役割やPMをどんな人がやってくれるのかをITベンダーに明確化してもらい、優劣を付ける様にしているのです。

デジタル化は、「ソフトとベンダーを決めれば、後は任せておけば良い」というものではありません。ユーザー企業の積極的な関与と推進がポイントになります。それを軽視してしまうと、「終わらない会議」がいくつも発生し、予算が膨らみ、結果的に投資対効果が悪化してしまう、という失敗に近づいてしまいます。是非この点に考慮し、ITベンダーとの役割分担に注意を払って頂きたいと思います。

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