アジア市場を目指す中小企業が採るべき【陣形】 ~「魚鱗(ぎょりん)の陣」~
「一に準備、二に準備」。これはプロ野球の元監督である故野村克也氏の言葉です。「よい結果を生むためにはよいプロセスが必要であり、きちんとしたプロセスを踏むからこそよい結果が生まれる」ということを常に選手へ語りかけていたそうです。強豪ではないチームを何度も優勝に導いた手腕の基には、この精神が宿っていたのでしょう。これは現代に始まった心構えではありません。戦(いくさ)が絶えず起こっていた戦国時代にも多くの武将が「どのように戦の準備をするべきか?」について想いを馳せました。特に、戦の勝敗を左右する配置戦術である【陣形】には多くの研究がなされました。
布陣の形態である【陣形】は中国の兵書に記載された情報を基に戦国時代に改良が加えられました。特に有名な【陣形】の1つとして、鶴が翼を広げるような形になり、頭や中央の部分に大将が位置取る「鶴翼(かくよく)の陣」があります。これは前進してくる敵軍を両翼の2軍で包囲するのに適していました。兵力が敵よりも勝っている際に有効だとされています。現代のビジネス界に置き換えれば、経営資源が豊富な大企業が後発で挑戦してくる新規企業を迎え撃つ際に採用すべき【陣形】と言えるでしょう。
しかしながら、多くの中小企業にとってヒト・モノ・カネ等の「経営資源」は充分ではないのが実情です。では、中小企業が後発でアジア市場へ展開していくことは不可能なのでしょうか? 答えは「No」です。その解決策の1つが【陣形】として『魚鱗(ぎょりん)の陣』を活用することなのです。『魚鱗の陣』とは、三角形のピラミッドのような形に兵を配置し、底辺の中央に本陣を配置する【陣形】です。兵が集まって分散せず、防御をしながら少数の兵でも攻めることができるという特徴を持っています。
では、アジア市場を目指す中小企業が採るべき『魚鱗の陣』とは、具体的にどのようなものなのでしょうか? まずピラミッドのような三角形を想像してみてください。その三角形に3本の横線を引き、4つの層に分けます。底辺にある本陣の大将(社長)から最も近い層を「レイヤーA(本陣の層)」と名付けています。この「レイヤーA」の役目は、全社的に経営的側面からアジアビジネス展開を統制することです。具体的には、【①現地情報の可視化】【②入手した現地情報の経営判断へのFeedback】【③アジア担当組織の構築/強化】【④国内部隊との連携/調整】を行なう自社機能なのです。
次に、底辺から2段目の層は「レイヤーB(方針の層)」。この「レイヤーB」の役目は、アジアビジネスの戦略を明確に示すことです。具体的には、【①市場として狙う国/地域の選定】【②ターゲット顧客層の確定】【③ビジネススキームの構築】を行なう自社機能になります。
さらに、底辺から3段目の層は「レイヤーC(接触の層)」。この「レイヤーC」の役目は、自社戦略を基に現地の提携候補先へコンタクトしていくことです。具体的には【①効果的なNetwork資源の活用】【②現地企業へのPR・交渉】を行なう自社機能なのです。また、1点補足しますと、ここまで示したレイヤーAからCまでの3つの機能を1~2つの部隊で兼務することも可能です。経営資源が極めて限られている場合は、むしろそれが現実的です。
そして最後の最上段の層は「レイヤーD(終結の層)」。この「レイヤーD」の役目は、最終顧客(ユーザー)に対して止(とど)めの一撃を与えることです。すなわち、【①自社製品(商品・サービス)を販売し、売掛金を回収すること】なのです。また、この「レイヤーD」だけは自社機能ではなく、現地市場に精通している提携企業の機能であるべきというのが留意点です。地理的・文化的に遠く離れた市場での戦いには「地の利」が必須になります。したがって、殿(しんがり)でもある前線の「レイヤーD」の役目は提携企業の所属部隊に任せるのが得策なのです。日本の中小企業の多くは「自前主義」を是とする傾向がありますが、この「レイヤーD(終結の層)」の部分だけは現地企業に依存すべきです。まさに「郷に入っては郷に従え」ということなのです。
当事務所が提唱している「アジア市場を目指す中小企業が採るべき【陣形】としての『魚鱗(ぎょりん)の陣』」についての概要は理解していただけましたでしょうか? 一朝一夕に、この【陣形】を社内で整えることは不可能です。中期的視点で、貴社に合致した『魚鱗(ぎょりん)の陣』を一緒に創りあげませんか? よい結果を生むためには「一に準備、二に準備」が必要なのです。
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