なぜ社員は問題を隠すのか? ~会社が大きくなると起きる現象~
販促支援業を展開するK社長は、1年半前から当社にコンサルティングに来ています。
席に着くなり口を開かれました。
「先生、社員が大きな問題を起こしました。」
少し強い口調になっています。
私は、K社長の次の言葉を待ちます。
「問題が起きたことは仕方がないことです。私は、問題を隠されたことを怒っているのです。」
K社は、急激に増える売上と共に、分業を進めてきました。
予測より早く、その弊害が出てきたようです。
どの会社も、その大きくする過程で『分業』を進めていきます。
そこに例外はありません。
組織にとって『分業』とは、それほど多くのメリットがあるのです。
しかし、その一方で弊害もあります。
やはりメリットばかりではありません。
その一つが「社長に本当の情報が届かなくなる」というものです。
今までの「社長と社員の2層組織」では、社長は非常に現場に近いところにいました。
事務所では、社員同士が話していることが嫌でも聞こえてきます。
また、お客様と直接関わることも多く、お客様が喜んでいるのか、それとも不満をもっているのかも知ることができます。
そこに、「判断層が出来、3層組織」になります。
更に進むと「管理者層が出来、4層組織」になります。
この段階になると、いよいよ「社長に本当の情報が届かない」状態になります。
そして、「社員が問題を隠す」という事件が起きます。
これは分業を進める限り、起こるべくして起こることなのです。
この時に、間違っても人に向ってはいけません。
社員がそのような行動に走るのは、自然なことなのです。
ミスが起きた時、社員は「怒られたくない」と反射的に思います。これは、人間が動物である当然のリスク回避の反応です。
それに対し、社長は「それを早く知りたい」と思います。起きてしまったことです、早く対処したほうが被害は少なくすみます。また、その仕組みを再整備することで、今後の再発を防ぐことができます。
社員は「隠したい」、社長は「知りたい」のです。
顧客からサービスについての問い合わせがありました。
社員は自社のメニューを確認したうえで「申し訳ございません、それは当社では対応しかねます。」と答えました。
それに対し、社長は、それを知りたいと思います。顧客の要望は、自社のサービスを見直すチャンスになります。また、世の中や顧客の変化を知ることが出来ます。事業をいち早く変えるため、それ以上に会社が生き残るためには、その情報は絶対に必要なのです。
社員は「無い」と答え、社長は「チャンス」と捉えます。
このどちらの社員の対応も、「社員」としては正しいものなのです。
現場の社員の役目は「守ること」です。また「決まったことをその通りにやること」です。
『分業』という視点で見た時、社員と社長の利害は一致しないのです。
それどころか、相反することになるのです。
これが分業による弊害です。
組織が『分業』を取り入れた時点で、それは『定め』になるのです。
売上が伸び分業を進めると同時に、その対策を施していくことが必要になります。
やはり、その対策を『仕組み』に折り込むのです。
これを社員に対し、「ミスは隠さないように」、「顧客の要望はすべて報告するように」と言っても仕方がないことです。効果はゼロではありませんが、それでは再現性が保てません。
社員のその意識は徐々に薄れていきます。また、社員は入れ替わっていきます。
そして、数年後に「隠される」事件は再発することになります。
仕組みが無ければ、社員の人数が増えるほどに、社長の耳に入るものは減っていきます。
多くの情報は、「隠す」という意図はなかったにしろ、社長の耳には入らないのです。
以下がそのための主な仕組みです。(紙面の都合上、箇条書きになることをお許しください)
理念:より大きな共通の目的を示す。その目的で判断できるようにする。
ルール:やるべきこと、やってはいけないことを明文化する。
数字:現場の異常を数値で察知できるようにする。
顧客の声:アンケートや定期訪問など、顧客の声が直接聞こえるようにする。
現場の声:末端の社員が現場で起きることを打ち上げられるようにする。
これらを仕組みとして施していきます。
冒頭のK社長は、言いました。
「昔の私なら、社員をりつけていたと思います。今回は、ぐっとこらえることが出来ました(笑)」
K社長は「すべての問題は仕組みの不備が引き起こす、その対策も仕組み」ということを理解するに至っていたのです。また、社員を怒れば、ますます隠すようになることは解っています。
K社長は、手元のテキストの向きを変え、私に見せてくれます。
「半年前に先生に教わったことです。その時には、全くピンと来ませんでした。今この必要性が骨身に染みます。」
そこには、分業で起きる弊害とそれに対する仕組みが書かれています。
会社が大きくなると、組織ゆえの症状がでてきます。
社長からすると良く解らない社員が増えていきます。
殆どの顧客は全く面識がありません。
その時に、それらの仕組みが無いと、無茶苦茶恐ろしい状態になります。
自社で何がされているのか、自社が良い状態なのか悪い状態なのか、全く知りようがないのです。
当然ですが、すべての問題は「社長の居ない場所」、「社長の見えない場所」で起きます。
会社内は、そんな場所ばかりになります。
しかし、仕組みでそれを減らすことはできます。また、自分の替わりに見てくれ、必要性を判断して報告してくれる人を増やすことは出来ます。
貴方の会社には、まだ少し先の話かもしれません。
それとも、すでにその兆候が見えている段階かもしれません。
「社長に真の情報が届けられない」、「部門間で責任を押し付け合い、協力しない」、「各部門の権利主張が強い」、「新しい取組みに抵抗感を示す」。
これらが分業の弊害です。
これらは組織病と言われ、社員十数名でもその症状がでます。
そして、倒産にまで追い込まれた会社も少なくありません。
この先のために、こういうことがあることを頭の片隅に置いておいてください。
組織病は起きる、社員は問題を隠す、それを前提として仕組みをつくるのです。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。