デジタル化の抵抗勢力を考える
国のデジタル政策について、様々な異論が噴出することがあります。それらの大半は「遅ればせながら…」という枕詞がつくことが多いもので、諸外国がとうの昔に実現できていることを2周回遅れぐらいで実現しようとするものが多いのが現状です。異論が多いマイナンバー制度にしても、カードという物理的な存在の運用と、ナンバー制度がごちゃ混ぜの議論となり、
デジタルに弱い国民のサポート/各種セキュリティ/サービス拡充 等々
といった複数のテーマの議論が複雑に絡み合ってしまう、極端に言えばカオス状態です。これではなかなか進みません。
これらの中で、「弱者対策」についてはそもそもポリシーとしてデジタル化に反対する人たちの勢力が合流しがちです。ご自身はそれほどデジタル弱者ではないにも関わらず、弱者に寄り添う姿勢と考え方だけで、どうしてもデジタル化に反対してしまう。これ自体については、別に悪いわけでもなんでもありませんが、これが会社組織の中で発生してしまうと、組織として非常にやっかいですし、放置すればするほど、会社の競争力を低下させてしまう事態につながりかねません。
今まで数多くの会社の中で、何らかの形での「デジタル化抵抗勢力」を見てきました。彼らの言い分を簡単に分類すると以下のようになります。
今でも十分回っているので、わざわざ変える必要がない
私がやっていることは極めて簡単なので、そこにお金をかけて対策をする必要はない
仕事が複雑すぎるので、デジタル化するための標準化ができない
良好な人間関係の下で仕事を回しているので、ソフトウェアにそれができるとは思えない
・・・
これらは、私が実際に会社の社員から聞き取ったことがある、生の声です。これらの声はデジタル化への反対に直結するようには思えませんが、反対派の深層心理を突き詰めていく過程で出た言葉です。しかし、これらが「理論的で無い」とか「具体的で無い」といった理由だけで片付けてしまうと、会社のデジタル化は進みません。多くの場合、これらの人たちの協力を得られず、デジタル化のプロセスの中で一番のハードルである業務定着化の段階で頓挫するだけです。
最も大切なことは・・・
デジタル化反対勢力と目されている人たちも、強い問題意識を持っている肯定的な人材なのだ、ということを認める
ということです。前述の言葉をもう一段深掘りしてみると、以下のような深層心理が浮かび上がります。
今でも十分回っているので、わざわざ頑張って変える必要がない
->今まで何回も業務改革を唱えられてきたが、具体的に推進できた試しが無い。
私がやっていることは極めて簡単なので、そこにお金をかけて対策をする必要はない
->会社の経費節減を考えると、投資してまで対策が必要とは思えない。
仕事が複雑すぎるので、デジタル化するための標準化ができない
->業務構造が複雑で説明しきれない。自分以外の誰もやれないので自分が頑張り続ける。
良好な人間関係の下で仕事を回しているので、ソフトウェアにそれができるとは思えない
->業務が全然標準化できておらず、気難しい人の機嫌をとりながら進めるしか無い
いかがでしょうか?まだ具体的ではありませんが、組織・業務・経緯などに問題を抱えていることがこれらの発言に至っているということを物語っているのがご理解頂けると思います。これらを前提にすると、デジタル化抵抗勢力の存在や意見を無視してデジタル化を進めてはならない。無理をすると社員離反やモチベーション低下につながる可能性がある、ということがおわかりになると思います。
最近、「パッケージ型の基幹システムの導入のコツはトップダウンで進めることだ」という意見をよく聞きます。確かにトップの強い意志は必要です。しかし、現場の人たちの声を無視して無理矢理進めようとすれば、当然抵抗勢力が増えてしまい、うまくいくものも頓挫するというものです。前述の様な抵抗勢力の人たちは、人一倍組織の問題を考えているので、このような人たちの協力を得られるように環境を整えることこそ、デジタル化プロセスをスムーズに進めるコツであると言えます。
私の経験では、これらの人たちの意見を十分に聞く場を持つ、といういわば「ガス抜き」をするだけでは不十分です。不十分なままでは、彼らの協力を得たりベクトルを合わせるところまでは到達できません。彼らに積極的に参画してもらいつつ業務を可視化し、課題を整理し、会社の業績や課題と各業務がどのように結びついているかを紐解き、彼らの持っている問題点を具体化して対策を考えられるところまで引っ張り上げることが唯一の解決策です。社長としては、これらの活動ができるような枠組みを作り、自らリードしてゆく、という行動に出るべきなのです。
これらの活動は、当然簡単にはいかないことも多いものですが、苦労の先には「強力な経営改革チームの爆誕」が待っています。一見すると遠回りの様に見えますが、ここがデジタル化の一丁目一番地ですので、敬遠せずに取り組んでいただきたいものだと思っています。
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