信頼・人間性重視の会社経営を阻害する3つの誤解
顧客・社会・従業員からの信頼や、誠実さ・優しさといった人間性を重視する経営は、ともすれば単なる”綺麗事”と捉えられ、実現できないものと考えられがちですが、徹底的に追求することで経営の武器にすることができます。
今回のコラムでは、信頼・人間性を重視する経営を実現するにあたり、経営者が抱きがちで、かつ実際に実現の阻害要因にもなりうる代表的な誤解を3つご紹介します。
■誤解①:大切にしたい信頼・人間性の中身が、容易に理解される
よく、「ビジネスにおいて最も大切なのはお客様からの信頼である」とか、「当社は誠実であることを何より重視して・・・」といった言葉を耳にすることがあります。これらはいずれも賛同できる概念ではありますが、これだけではどこか実態が伴わないというか、中身がないようにも聞こえてしまいます。
しかし、現実にはこのような表面的な訴求のみに留まってしまっているケースも少なくありません。単に「信頼」とか「人間性」などの言葉を使うだけでは、具体的に何がどう大事なのかが伝わらないケースがほとんどです。こうした言葉は、一見共通の概念であるように見えて、実は人によって解釈が異なる場合が少なくありません。信頼・人間性を重視する経営を実現しようと思うならば、まずはそれを誰もがわかる言葉で具体的に表現することが大切です。
さらにいえば、単に万人が理解できるのみならず、それをきちんと定義し日々追求していくことが、会社の業績の向上にもつながっていくようにしなければなりません。自社が大切にする価値観を洗い出し、言語化して、会社の成長のために人々にとって共通の目標となるような形で表現することが重要なのです。
当社の場合はこの作業を「信頼のデザイン」と呼んでいますが、この部分を丁寧に行うことで、経営者が大切にしたい信頼や人間性が、社内外から受け入れられるようにするための最初の準備が整います。
■誤解②:信頼・人間性を声高に叫ぶと、社内からの大きな抵抗に合う
もっと信頼や人間性といった要素を重視していきたいと考えている経営者のなかには、それが社内からの大きな抵抗を引き起こしてしまうという方も時々いらっしゃいます。特に、これまでその会社を率いてこられた方ではなく、代替わりや外部からの招へいによって新たに経営者に就任した方に多いようです。
こうした方々は、これから長期にわたってその会社の経営をしていこうというなかで、ご自身の価値観・人生観に基づいて、もっと社会・顧客・従業員を大切にし、ご自身の経営の価値を高めていきたいという純粋な想いをお持ちです。ですが、それが従業員から単なる理想論であると捉えられてしまいそっぽを向かれてしまったり、古参の社員に受け入れられないことを過度に恐れたりすることもあります。
しかし、冷静に考えてみると、今後労働力不足が加速することが確実視されるなかで、こうした信頼・人間性を重要視しない会社の魅力が働き手にとって増していくということはないはずです。当然ながら、労働を提供するにあたっての対価や職場環境が確保されていることは大前提ではありますが、それに加えて、その会社で働くことの安心感や、将来の社会を創っていく・支えていくことの働き甲斐も、働き手を惹きつけるための必須要件となっていくでしょう。
ですから、信頼や人間性が単なる”綺麗事”に過ぎないと考える必要は全くなく、むしろこれからの時代の経営には必須要素となっていくと考え、情熱をもって前面に押し出していけばよいのです。もちろん、世の中の全ての人がそれを望むというわけではありませんが、信頼・人間性を重視する経営者が共に働く人を集め、採用した後も求心力を高めていこうと思うならば、同じ価値観を持つ人を意識したメッセージを常に発していくことが大切なのです。
今までのやり方・価値観をアップデートしていく、ということに対しては、多少なりとも疑問・抵抗を感じる従業員も中には存在するかもしれません。しかし、まっとうな事業であれば、その根底には元々何らかの大義が存在しているはずで、信頼・人間性はそれをさらに前に進める要素でしかありません。その大義、言い換えれば企業としての存在理由に改めて光を当て、その実現過程としての信頼・人間性の重要性を改めて強調することで、強力な正当性を得ることが可能です。経営においては、大きな企業であればあるほど、様々な思惑が混在することはやむを得ないことですが、創業の理念に紐づくこの正当性は、同じ価値観を持つ人々を味方につけられるという点で、むしろ経営者にとっての武器となるでしょう。
■誤解③:信頼・人間性を重視すると、その分事業性を犠牲にしないといけない
信頼や人間性を追求する経営には、一定のコストが必要になるのは確かです。なぜなら、顧客に対しては単なる製品・サービス以上の価値を付与することになりますし、従業員に対しても、仕事と金銭的な対価を提供する以上のことが求められるからです。
そのため問題となるのは、そのコスト以上の売上につなげられるか、という点です。かけたコスト以上の対価を得られるならば、信頼・人間性の重視に力点を置くことに障害はないでしょう。対従業員という面では、優秀な人材を獲得し、永く活躍してもらうためのコストであれば、効果にもつながりやすく、社内のコンセンサスも比較的得られやすいと言えます。
一方で、信頼や人間性によって顧客から追加の対価を得るには、適切な定義・蓄積・証明そして訴求が必要となるため、より戦略的かつ包括的なアプローチが必要になります。ですが、企業に対して社会への貢献を求める動きは強まっており、少しずつではありますが購買や対価の支払いに際し、製品やサービスそのものの機能や価格以外を重視する購買行動も広まってきています。この動きは今後も加速していくことが見込まれるために、追い風が吹いている状況ともいえるでしょう。
したがって、競合他社に先んじて信頼や人間性を重視する経営にシフトすることは、今後事業を通じて売上・利益を上げていくためには決して遠回りの道ではありません。前述の通り、戦略的な取組は必要になりますが、信頼・人間性と事業性とは相反するものではなく、むしろ相互に高め合っていくものともいえるでしょう。信頼・人間性はこれからの企業経営において資産となるべきものであり、片方しか成立しないというのは大きな誤解だといえます。
信頼・人間性を重視する経営は、一見、ただの「綺麗事」のように見えるかもしれません。しかし、経営の中でその「綺麗事」を徹底的に追求し、磨き上げ、経営資源として活用できるとすれば、それは自社の事業を、経営者・従業員・顧客を問わず多くの人の価値観を体現できる企業活動へと昇華させるものとなるはずです。
ぜひ、貴社でも信頼・人間性をより事業の中核に据える取り組みを進められることをお勧めします。
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