信頼を核にした経営で、人間性と事業性を両立させる
経営者の誠実さや優しさといった、いわば”人間らしい感情”を軸にした経営でも、充分に対価を得ながら会社を成長させていくことができます。
今回のコラムでは、自身の価値観・倫理観と現実の経営とのギャップという経営者の悩みに焦点を当てます。人間性を重視した経営を追求することで、事業性の向上にもつなげられる時代が到来しています。
■経営者を悩ます”価値観と現実とのギャップ”
先日、お話を伺ったある経営者の方から次のようなことを言われました。
「なんだか世の中の経営論って、『いかに従業員を効率的に管理して、システムの歯車の一部として動かすか』みたいなのが多くて、本当はあんまりやりたくないんです。できれば、もっと活き活きと仕事に取り組んでもらって、ウチで働くことで、仕事中も含めて自分の人生を充実させてほしいんですよね…」
経営者という、その会社のなかでは最も上位の階層に属する人であれば、その会社のことは何でも自由に決められる、と一般的には思われがちです。しかし実際には、自身のポリシーや人生観とでもいうべきものと、現実の会社経営との違いに悩むケースは実は珍しくありません。
この傾向は特に、事業を他の人から引き継いだ場合に多く見られます。例えば、徹底的な管理を特徴としてきた会社を承継したが、先代と違って自分はそれほどコワモテでもないし、そもそも相手にも響きにくい、見透かされているような気がする。そして何より、従業員をモノのように扱うというのも自分の人生観と合わないし、もっと活気あふれるなかで仕事がしたい、といった具合です。
加えて、一般的な経営論では、従業員をいかに効率的に”使う”かに力点を置くものが少なくありません。極端にいえば、いかに厳しく管理し、自社の歯車になってもらうよう育成していくか、を突き詰めた、「管理追求型」ともいうべき理論も世の中には存在します。
このような効率・管理重視の経営論が全て否定されるべきもの、という風には思いません。会社として事業を行う以上、効率を高めていかなければ売上・利益は増えていきません。そしてその結果会社が倒産でもすれば、たちまち従業員は路頭に迷うことになります。この意味では、従業員を厳しく管理する管理追求型の経営にも一定の合理性・正義があるといえるでしょう。
とはいえ、冒頭に記載したように、そのような管理追求型の考え方がどうしても自身の価値観・人生観と合わない、と考える経営者も存在することもまた事実です。そして近年、こうしたタイプの経営者の考え方に沿った、いわば「人間性重視型」の経営が実現可能になってきています。
■「人間性重視型」の経営の可能性が増大
ここでいう「人間性重視型」の経営とは、経営の目的を利益の極大化のみに求めるのではなく、従業員や顧客を幸福にすること、そしてその先にある社会の発展に貢献することにも重きを置いた経営です。誠実さ・優しさを重視する、別の言い方をすれば非情に徹しきれないともいえる経営者の方に特に適した考え方だと思います。
このような経営が可能になってきた背景には、大きく次の3つの変化があります。
①労働人口の減少・転職市場の発達により、従業員側が会社を選びやすくなってきた
従業員が会社を選ぶ、という社会になれば、当然働きやすい会社が選ばれるようになっていきます。社内での行き過ぎた管理は、従業員にとってはプレッシャーになる場合がほとんどです。優秀な従業員を確保し、実力を発揮してもらおうと思うならば、管理に頼る程度を抑制し、自発的に働いてもらうことを目指すなどして、従業員にとっての魅力を高めようとするのが自然です。
②管理追求型の経営による”組織の歪み”が看過できない経営リスクになってきた
近年の企業の不祥事のなかには、外部目線で見たときに明らかに常識・倫理に外れている行動や、それを隠ぺいすることにより引き起こされるものが少なくありません。管理追求型の経営は、価値基準を社内の論理のみに依存する点でこうした傾向を助長させる側面があります。それが利益重視の姿勢の偏重ぐらいであればまだよいのですが、一定の地位のある特定の役職者の権威性の維持・保身などが重視されるようになってしまうと、顧客や社会に対し価値を生み出す姿勢は失われ、不正やハラスメントなどの温床となっていきます。近年はSNS等の発達によりそうした行いが表に出やすくなっていますし、社会の風潮としても許さないという傾向が強まっているため、企業にとっては大きなリスクとなっていきます。
③SDGsに代表される、企業に対する社会貢献への要請が強まってきた
大手企業を中心に、本業を通じて顧客だけでなく社会にも貢献する風潮が強まっています。また、大手のみならずサプライチェーン上の企業全体にこうした傾向は拡大してきており、自社の活動のなかで社会に悪影響を及ぼさない・より良い社会づくりに貢献できる価値を見出すことは必須の課題となってきています。
こうした社会的な変化により、誠実さや優しさといった特性を持つ経営者には、活躍の場が広がってきているといっても過言ではありません。とはいえ、注意して頂きたいのは、単に人間性重視で、管理の側面を弱めて緩く経営すればよい、ということでは全くないということです。企業である以上、売上・利益や合理性の追求は必要になりますし、仕事である以上、働く側にも成果や規律が求められることは言うまでもありません。
それでは、管理追求型の経営との違いは何か、と言われれば、その会社や仕事の価値観の中心に、「間違いなく共通善と呼べる要素」、もっと分かり易く言えば「『人生をかけてこれをやりとげました・貢献しました』と胸を張って言える要素」があるかどうか。そしてそれを顧客・従業員を含めた周囲の人々が認識し、対価や成果の向上に繋げられているか、という点になるでしょう。
管理追求型の場合、崇高な企業理念を掲げていたとしても、実態としてはその会社の論理が中心になっていることが非常に多いです。そこに従業員や社会をより良くするという視点は失われ、業績を上げること、ノルマを上げること、上位の人に盲目的に従うことなどが優先事項となってしまうリスクがあります。
一方、人間性重視型の経営の場合、日々の価値判断の中心にあるのは、お客様がどう思うか、社会に貢献できるか、従業員が尊重されているか、といった要素です。本当の意味でこれらの要素が重視され、かつ対価につながる形で”適切に”訴求できているならば、ビジネスとしても持続的に売上・利益を挙げられる状態にすることができます。この、人に対する貢献と事業の発展の両立こそが、人間性重視の経営が目指すところです。
■”信頼”への着目が、人間性と事業性を両立させる解になる
この人間性重視の価値観と事業性との両立は、非常に緻密なかじ取りを迫られる難易度の高いものです。自社のビジネスの根本的な考え方そのものを見直すことが必要な場合もあるでしょう。しかし、先に挙げたような社会の変化を考えたときには、今後避けては通れない経営課題になっていくはずで、他社に先んじて実現できれば、大きな競争優位をもたらします。
実際に、経営論の領域でも、MVV(ミッション・バリュー・ビジョン)経営とか、サステナビリティ経営などに代表されるように、従業員や社会に目を向けたものが近年脚光を浴びるようになってきています。
ただ、このコラムでも何度も取り上げている通り、単に社会や従業員に目を向けるというだけでは、その取り組みは追加のコストとなるだけに留まってしまうことが多く、利益を圧迫することになるため、長く続く取り組みにはなりません。そこには、自社の強みを生かして競合他社との違いを作るという”戦略”の視点が必要不可欠なのです。
だとすれば、誠実さや優しさといった経営者のポリシーがあったとしても、それをただ前面に出すだけでは不十分であることは明らかであり、明確な意図をもってそれを自社の製品・サービスの差別化につながるレベルまで落とし込んでいく必要があります。
そのためにまず必要となるのは、自社、そして経営者自身が大切にしたい価値観を具体化することです。今回のコラムではあえて”誠実さ・優しさ”といった抽象的な表現をしましたが、それがビジネスに貢献する部分を正しく抽出し、目指すべき将来像から逆算する形でより明確な言葉にしていくことが必要です。そのような要素が社内で共有され、持続可能なビジネスの仕組みとして組み込まれ、社外でも受け入れられるようになってはじめて、製品・サービスの違いが生まれるのです。
この一連の流れをカタチにするには、それなりにエネルギーと時間を要します。ただ、これからの時代に、経営において重要な資源の1つである”ヒト”を惹きつけ、力を発揮してもらうためには、歯車として働く以上の価値を示す必要があるはずです。また、人間性を重視する経営者にとっては、そのような経営に力を入れていく方が、その人自身の自己実現にもつながっていくでしょう。
このような考え方のもと当社は、人や社会が大切にしている・本当に必要な価値を提供できる能力や姿勢を備えていることを「信頼がある」状態と捉え、事業を通じて実現・強化する手法をご提案しています。経営者によって、価値観・人生観は様々です。人間性を排除した経営ではなく、より誠実な、優しい経営を目指すという道もあってよいはずだと当社は一貫して考えており、そのような経営者の方々のために、信頼を対価に変える「トラスタライズ」という手法を追求しています。
言うまでもなく、経営者にとって会社経営は人生をかけた仕事になるのです。
ご自身が心の底から納得できる、こうありたいと思える形で突き進んでいきましょう!
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