オリンピックと人材育成
先ごろ閉幕したパリ五輪では連日日本勢のメダルラッシュが伝えられていました。これまでに海外で開催された大会では最多のメダル数を獲得したとのことですが、人口減少や国力の衰退が言われている日本で、どうしてそのように活躍する選手が生まれているのでしょうか。
一つには、新しい競技への取り組みが進んでいる点が挙げられると思います。スポーツクライミングやスケートボードなど、いわゆるアーバンスポーツ系の新競技で若者の活躍が目立ちましたね。
これらのスポーツはいずれも体格差によるハンディが生じにくいことに加えて、まだ歴史が浅く、強くなるための方法論なども確立されていないという共通点があるように思われます。確かにこれまでも、体格差のハンディを否定した格闘技系の種目では日本人選手の活躍が目立ちました。
でも今大会で目を引いたのは、サッカーやバレーボール、バスケットボールなど、いずれも予選で敗退してしまった団体系の球技で、確かに予選敗退ではあったものの、いずれも強豪国にあと一歩と迫る質の高い試合を見せてくれたことです。
どれだけ難しい試合に臨んでも高いモチベーションを維持し、勝つためのプランをしっかりと実践し、強みを表に出した戦いぶりは、まさに企業における望ましい人材育成の姿をほうふつとさせるものだったのではないでしょうか。今回はそこに潜むヒントについて考えてみたいと思います。
代表チームに参加するような選手たちは、だれもが選ばれたことへの責任や周囲への感謝を口にします。そして私たちは、期待に応えるために全力を尽くす姿をテレビを通じて目撃することになるのですが、おそらく始まりはもっと単純だったはずです。
多くの場合はやっていて楽しいから、試合をすれば勝てるから、やればやるほど好きになる、といった好循環がベースにあったものと思われます。むろん、困難を克服した場面もあったことでしょう。支援者からの助けが力になったという場合も数多いと思いますが、基本的な部分で「競技が好きなこと」は絶対条件であるように思われます。その中で個人の「好き」を大切にすることを重んじたのがアーバンスポーツ系の選手やご家族だった、ということなのかもしれません。
この点は、企業であっても同じなのではないでしょうか。周囲との人間関係や仕事そのものを、どれだけ好きと感じられるか。そこを満足せずして高次の責任感や、それに伴うモチベーションは求めようがないことを、企業経営者であれば誰もが認識していたはずだと思います。
やっていて、手ごたえを感じ、感謝され、周りと良い関係を築き上げることができたなら、たいていの人はその仕事を好きになるはずです。そこからがスタートなのですが、その質を高めることでオリンピックにも通じるような高いレベルの人材を確保できるようになるのです。なぜなら同じ日本人だから。
オリンピックであれだけ日本が頑張れるなら、そう考えた経営者の方々も少なくないと思います。昭和の根性論が支えた滅私奉公的な団体競技のそれとは違い、アーバンスポーツであっても団体競技であっても、個人の「好き」が基礎にあり、それを周りがサポートする中で高い責任感とモチベーションを獲得してゆく、そんな人材育成モデルを再構築するための、今回のオリンピックが良い機会になることを強く祈念する次第です。
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