【文明】と【文化】のはざま ~海外市場向けの商品・サービス開発とは?~
司馬遼太郎氏は著書「アメリカ素描」の中で、【文明】は「誰もが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの」。それに対して【文化】は「むしろ不合理なものであり、特定の集団(例えば、或る民族)においてのみ通用する特殊なもの」であると述べています。
その観点を考慮すると、近年ますます増加する訪日外国人は非日常的な「日本らしさ【文化】」を求めて日本に来ているのでしょう。自国で全く同じ経験ができるのであれば、時間をかけて日本まで来る必要もないからです。一方で、訪日外国人が日本滞在に対して不満を感じていることも確かです。以前よりは改善されつつあるものの、訪日外国人からは「WIFI環境が悪い」・「英語でのコミュニケーション手段が不十分」・「公共の場での標識やサインが不親切」・「現金しか使えない飲食店が多い」などの感想がSNSの投稿で目立っていました。これらの感想で述べられていた項目は、観光先進国では「あって当然のインフラ環境」であり、訪日外国人の再訪意識を阻害する要因となり得ます。2024年の1~6月の訪日外国人数が1700万人を超え、過去最高となった理由の1つには、このようなインフラ環境の改善があるに違いありません。
最近、「海外市場向けの製品・サービスを、どのように開発していけばよいか?」という相談が、当事務所に多く持ち込まれます。当然のことながら、ターゲット市場の特性や競合品の現状について一緒に調査していくのですが、ここで課題となるのは「日本国内向けの既存製品(商品・サービス)から何を削ぎ落し、何を加味するのか?」ということです。多くの場合、調査したターゲット市場の既存ニーズに過度に合致させようとするあまり、「自社らしさ(日本らしさ≒【文化】)」を忘れた製品開発に陥ってしまいがちです。市場に既にあるものと殆ど変わらない製品であれば、価格的に高めになりがちな日本製品をわざわざ試してみたいと思わないのは明白なことです。
また逆に、「自社らしさ(日本らしさ=【文化】)」に固執するあまり、ターゲット市場を中心とした海外市場では「あって当たり前の機能や仕様(≒【文明】)」が全く反映されていない製品開発もたびたび見受けられます。物珍しさから、1回は購入してくれるかもしれませんが、継続的に利用してくれる顧客を開拓していくことは不可能と言わざるを得ません。
このように、海外市場向けの商品・サービス開発においても司馬遼太郎氏の考察は活かされます。不合理で、特定の集団においてのみ通用する特殊なものである【文化(日本)的観点】を大事にしながらも、誰もが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なものである【文明的観点】も決して忘れてはいけないのです。「日本国内向けの既存製品(商品・サービス)から何を削ぎ落し、何を加味するのか?」という配分は極めて難しいのですが、そのプロセスを一緒に「視える化/言語化」するご支援をしています。
2024年も既に半分以上が過ぎ去った「8月」。過去の慣習から何となく開発し、海外市場向けに販売している貴社の商品やサービスを、この機会に改めて見直してみませんか?
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