アカデミアとの接し方
「ニシダ先生、産学連携を検討したいと思って研究者の方に話を聞いても、なかなか話が合わないのですが・・。」先日、とある企業関係者からこのようなご相談を頂く機会がありました。
当社は支援メニューの一つとして「産学連携による技術開発」をお勧めしているので、このような質問がごく普通に寄せられます。大学や高専における研究者、いわゆるアカデミアの方々とビジネス関係者との関係性については、意思疎通が必ずしも円滑に進む例ばかりではないということがなかなか広く認識されていない状況だと思います。
一つの理由に、アカデミアと企業では寄って立つ存立意義が全く異なるという点が挙げられます。片や教育と研究をその責務とし、こなた収益の最大化を目指す立場なので、目指すところや価値の置き方がそもそも異なっている、ということです。
しかしながら近年、特に研究開発については「社会実装」の重要性が喧伝され、アカデミアにとっては企業の期待への目配りも求められるようになった、はずの流れがあることは事実です。ただここで注意しなくてはならないのは、伝統的な価値観としての教育と研究への取り組みが、特に評価の面で劣後させられたわけではない、という点です。
仮にいま、予算的にも恵まれた伝統的な研究者がいるとして、その先生にとっては企業との連携協力など、何らのモチベーションになるものではない、ということです。そういう空間に生きている先生方の中で、社会実装に関する企業との協力になにがしかの意義を見出してくれる先生は、少しずつ増えてきている状況ではありますが、まだまだそうでない先生方も多く存在する、ということです。
ではその点をどのように見極めれば良いのかについて、今日は短期的な処方と長期的な取り組みの二点をお伝えしたいと思います。
まず短期的な処方についてですが、端的に言ってこれは本人に直接尋ねてみるのが早道だということです。その際に、社会実装への関心と併せて、「何のために」それを推進しようと思うのか、を確かめるようにすることで、ある程度心の周波数をチェックすることができます。つまり、国や学校、あるいは上司から言われたからだとか、方針の上位に位置づけられたからだとか、自分の役職上重要だといった理由が上がるようであれば、はっきり言って頼りにならない相手である可能性が高いと思われます。他方でそれが自らの理念と合致する、あるいは具体的な社会的インパクトとして評価されるべきものである、といった理念の世界で語れるものを持っている先生は、自らの決意と覚悟で対応してくれる可能性が高いため、ぜひ協力相手として取り込まれることをお勧めします。
次に長期的な取り組みについてですが、理念を共有できる先生方との「巣」みたいな場所を確保頂くことをお勧めします。最近のコトバではプラットフォームなどとも表現されることがありますが、何もなくても拠り所に行けば、何かあるかもしれないという性格の場所を提供しておくという取り組みです。そうすることで、理念の世界で通じた先生がまた他の先生を連れてきてくれたりするという、自然発生的な拡張効果が見込めるのです。それは会議室だったり、あるいは便利な喫茶店だったりするかもしれません。
たむろできる場所、という表現が最も近いのですが、ホストたる企業側にとっても新しい発見が得られる場所というような性格のものになるはずです。やるべきことは、単にとぐろを巻いてあれこれ話をすること、に尽きるのですが、そうして過ごす時間や何気ない話題を通じてお互いの考え方を理解することが、実は信頼関係の構築にものすごく役に立つということを、今日は改めてご認識いただきたいと思うのです。
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