人事制度で会社は本当に改革できるのか?
N社長は「人事制度をしっかりやっていきます。」と言われました。
そして、その理由を続けられます。
「役割や評価基準を明確にすることで、彼らは変ってくれるはずです。また、今のような場当たり的な運用も無くすことができます。」
私は、この面談でN社の根本的な問題を指摘させていただきました。
その上でN社長が出された答えです。
この日は「頑張ってくださいね。」とN社長を送り出しました。
あれから2年が経過しています。
N社長が再度面談に来られました。
「先生、何も変わりませんでした。」
この世の全てが、『設計と実行』で成り立っています。
いや『設計と実行』こそが、この世だと言っても過言ではありません。
この社会の法律を誰かが設計します。
そして、それを社会として実行していきます。
その時には、そのプロセスを計画します。いつまでに何を準備するのか、そして、いつから始めるのかを明確にします。
そして、それを実現するための仕組みを整備します。書類とそのやり取りの仕方、その保管方法、そして、その実行部署などを決めます。
その効果と状況を定期的に確認し、必要であれば見直しを行います。ここでも設計と実行、それに伴う計画づくりと仕組化が行われます。
そして、この過程で組織がつくられ、多くの人が役割をこなすことになります。
設計と実行、そのための計画と仕組みづくり。そして、組織と人。
こうして世の中のモノの全てが作られ、社会は変化をしていきます。
会社も同様です。この設計と実行のサイクルで変化することになります。
社長は設計をします。どのような事業にするのか、どのように集客するのか。すべてを設計します。そして、その実行に移ります。
その時には、計画を立てます。そして、仕組みを整備します。
その過程で組織を作り、その役割分担を進めます。
こうして社長が設計したことが、実行されていきます。
その設計と実行が良かった時に、儲けることができます。また、会社として成長発展することができます。
そして、時間が経つと状況を確認し、再度設計を行います。そして、実行します。その時にも計画づくりと仕組みの整備を行います。
会社も、設計と実行、そのための計画と仕組み、そして、組織と役割なのです。
組織に関しても『設計と実行』になります。
どのような組織にするのか、そのためにはどのような部署が必要で、各担当者はどうあるべきかを設計します。そして、計画づくりと仕組みの整備を進めます。
その一部としての『人事制度』になります。
人事制度は、「会社の目的・目標を実現するために組織および人を適正化するための仕組み(の一部)」だと言えます。この仕組みの働きにより、組織および各担当者を設計すなわち理想に近づけることができます。これは非常に理にかなった手法であり、実際に多くの会社で有益な結果をもたらしています。
その必要性は我々年商数億規模・社員十数名の会社でも例外ではありません。
・管理者や社員は何を求められているのか、何をすれば評価され給与が上がるのかが解っていない。
・会社としてその基準が決まっていない。そのため評価者の志向や好き嫌い、その時の気分に大きな影響を受ける。
・その評価基準や運用に一貫性がない。その時々にそれが変わる。
冒頭のN社も完全に上記の状態にありました。
また、社員から「どう頑張ればよいのかが解らない」という声を聞くようになっていました。
N社長は「人事制度を導入すれば、彼らがその役割を知り態度や行動を改めてくれるのではないか、もっと自発的に動くようになるのではないか」と考えました。
そして、「人事制度こそが変革の決定打となる」とその導入を決めたのでした。
あれから2年が経過しています。
向かいの席についたN社長に元気はありません。
「基本の出来ていない我社では、十分に人事制度を活かすことができませんでした。」
第1回目の評価面談では、その手ごたえを感じることができました。
N社長は、社員と話す際の後ろ盾を得たような感じがしました。
また、良い刺激を与えたようで職場に少し緊張感が生まれたようにも感じます。実際に少し態度を改めた社員もいました。
半年後、やる方も受ける方も2回目というだけあって少し慣れが出ます。緊張感も薄れています。
そして、その半年後の3回目には、完全に緊張感は無くなりました。
N社長が期待したほどの成果はなく、会社も変わることなく、今日に至っています。
管理者は、依然管理者としての役目を果たしていません。社員の意識もそのレベルも上がることはなく、毎日同じ作業を繰り返しています。
私は、2年前のその面談の際に、N社長に次のことをお伝えしました。
「構築するには順番が重要になります。
その順番は、大きいものから小さなものへです。
まずは大きいものを作る必要があります。」
建設業においては、まずは基礎をつくり、鉄骨やコンクリートで中心を作ります。
そして、配管や配管を施し、壁を起こします。そして、装飾を付けます。
この順番です。装飾を先にやることは有り得ないし、それは出来ないことです。
会社においても同様です。
まずは、会社としての中心をつくります。それが先にご説明した設計と実行のサイクルです。
設計を描き、その実現をする。そのために計画づくりと仕組化を進めます。
その実現のための組織であり、その過程で役割を固めていきます。
この一連こそが会社における「大きいもの」となります。
それが出来てから「小さいもの」を取り入れていきます。
人事制度はその一つになります。また、前回のコラムでご説明した飲み会もそれになります。
それらは、組織や各役割の機能を強化するものです。
建設と同様に、それらは、会社の中心があって初めて成り立つのです。
N社には、その中心となるものがありませんでした。
「会社としての設計と実行のサイクル」が無いのです。
また、計画があるわけでもありません。
また、業務が仕組化されているわけではありません。非常に属人性が高い状態です。
そこに「人事の設計と実行のサイクル」を入れてもダメなのです。
その状態で管理者が機能することはありません。
そもそも管理者の役目であるはずの、計画や仕組みという対象物が会社にはないのです。
また、仕組みが無い状態での仕組みの改善は無理なのです。
しかし、人事制度の管理者の役目のところには、「計画」や「仕組化」の文字があります。それは出来ようがないのです。
その結果、社員は益々どうすれば良いのかが解らなくなっていきます。
そして、それが社長への不信になります。
人事制度が、思い付きや個人の好き嫌いであったり、その運営が場当たり的であったりではいけません。御社にも人事制度は必要です。
しかし、順番が重要になります。
まずは、会社としてのサイクル、会社としての仕組みを得ることです。大きいもの、中心が必要なのです。
その上に人事制度です。そうであればそれは活きてきます。
仕組みで回っている会社が人事制度を導入するのは、効果があります。
属人性だらけで仕組みの無い会社が、人事制度という仕組みを入れても、効果は無いのです。
経営自体が場当たり的だから、人事も場当たり的になっているのです。
まずは、それを正す必要があります。
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