医療情報の信頼性とネット検索の罠
「原先生、ある医療機器の市場規模についてGoogle検索で調べているのですが、なかなか思った通りのデータに辿り着きません!」
これは弊社のあるクライアントさんが事業計画書を作成しているときに直面した課題です。
皆さんは、ビジネスの意思決定や市場調査のために、どのような情報源を利用していますか?多くの方が、まずはGoogle検索を使うのではないでしょうか。しかし、特に医療やヘルスケア分野では、検索結果が必ずしも期待通りではないことがあります。その背景には、GoogleのEEAT(経験、専門性、権威性、信頼性)とYMYL(Your Money or Your Life)という概念が関係しています。少し聞き慣れない用語で恐縮ですが、医療分野の目利き力に直結する概念ですし、ビジネスの信頼性に関わる重要なポイントですので、ぜひ最後までお読み頂ければ幸いです。
Googleが作った品質管理の施策とは
ここで、EEATとYMYLについて詳しく見ていきましょう。EEATは、Experience(経験)、Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の頭文字を取ったものです。これは、ウェブコンテンツの品質を評価するためのGoogleの基準です。つまり、情報の発信者がその分野でどれだけの経験と専門知識を持ち、どの程度信頼できるかを判断する物差しなのです。
一方、YMYLは「Your Money or Your Life(あなたのお金や人生)」の略で、人々の生活、健康、財産、安全に直接影響を与える可能性のある情報を含むウェブページを指します。具体的には、医療・健康情報、金融アドバイス、法律関連の情報、ニュースや時事問題、そして重要な購買決定に関わる情報などが該当します。
GoogleはYMYL領域の情報に対して、特に厳格なEEATの基準を適用します。なぜなら、これらの情報が人々の生活に重大な影響を与える可能性があるからです。例えば、誤った医療情報は人々の健康を害する可能性があり、不正確な金融アドバイスは経済的損失をもたらす可能性があります。そのため、GoogleはYMYL領域のウェブページに対して、より高い信頼性と専門性を要求するのです。
これらの基準は、特に医療分野の情報に大きな影響を与えています。そもそも、これらの基準が導入された理由は、人々の健康や生活に直接影響を与える情報の質を向上させる必要があったからです。
具体的には、「風邪の治し方」を検索した場合を考えてみましょう。以前は個人ブログの民間療法が上位に表示されることもありましたが、現在は医師が監修した記事や公的機関の情報が優先されるようになりました。実際に、Mayo ClinicやWHOなどの信頼性の高い機関のウェブサイトが、多くの健康関連の検索で上位に表示されるようになっています。このように、EEATとYMYLは、ウェブ上の情報の信頼性を高めるためのGoogleの取り組みとして機能しているのです。
検索結果の変化
EEATとYMYLの導入により、医療関連の検索結果は大きく変化しました。この変化は、一般ユーザーにとっては有益ですが、ビジネスの観点からは新たな課題を生んでいます。その理由は、医療専門家が持つビジネス関連の貴重な洞察が検索結果に反映されにくくなっているためです。
医療専門家は医療情報には極めて高い専門性を持っていますが、GoogleのSEO対策には不慣れなことが多いです。そのため、彼らがビジネス的な観点で情報を発信しても、検索結果の上位に表示されにくい傾向があります。その結果、新規事業の立ち上げや市場分析に必要な、細かなセグメントの患者数や統計情報といった専門的なビジネスデータが見つかりにくくなっているのです。
例えば、「人工関節の市場動向」を検索してみましょう。すると、SEO対策された大手医療情報サイトや市場調査会社の一般的な情報は見つかりますが、実際の臨床現場での使用状況や、特定の年齢層や症状に対する需要といった、医療専門家だからこそ把握している詳細な情報は見つけにくくなっています。
これは、レストラン情報サイトでは一般的なメニューや価格は分かるものの、シェフが持つ食材の旬や地域の食文化といった深い知識にアクセスしにくい状況に似ています。
実際に、医療機器メーカーの経営者からは、「Google検索では新規事業の立案に必要な詳細な市場情報が見つからない」といった声が増えています。このように、EEATとYMYLにより、一般向けの医療情報の信頼性は向上しましたが、同時にビジネスに直結する専門的な情報の検索が困難になるという新たな課題が浮上しているのです。
専門家の声が届きにくい現状
EEATとYMYLの基準は、意図せずして現場の専門家の声を埋もれさせてしまう結果となっています。というのも、ウェブマーケティングのスキルが不足している専門家の情報が、SEO対策された記事に押されてしまうためです。
例えば、最新の手術技術を開発した外科医が自身のブログで情報を発信しても、大手医療情報サイトの一般的な記事の方が上位に表示されてしまうことがあります。これは、一流シェフの新メニューよりも、チェーン店の定番メニューが注目されるようなものです。
こうした状況を反映してか、医療系学会では、「重要な研究成果がインターネット上で適切に伝わっていない」という懸念の声が上がっています。このように、実務経験豊富な医療専門家の知見が、検索結果に反映されにくくなっているのが現状なのです。
情報の海原を泳ぐ:デジタル時代の賢い判断力
インターネットによって私たちは膨大な情報を簡単に無料で手に入れることができるようになりました。しかし、かえって本当に必要な情報や正確な情報を見つけ出すのが難しくなっているのも事実です。特に医療やヘルスケアの分野では、その傾向が顕著です。こうしたデジタルの荒波の中で、いかにして正しい方向を見出せばよいのでしょうか。
それでは情報収集力で勝負する新規事業専門家の立場から、うまい情報選別ができるようになる3つの基本方針をお示しします。
- クロスチェックの習慣化:オンライン情報を鵜呑みにせず、常に複数の情報源で確認する姿勢を持つ。
- 人的ネットワークの重視:デジタルツールに頼りすぎず、専門家や業界関係者との直接的な対話を大切にする。
- 批判的思考の強化:情報の出所や意図を常に疑問視し、自身の経験や知識と照らし合わせて評価する。
いかがでしたか?これらの基本方針はいずれも、昔から経営のやり方を学ぶときに何処かで耳にしたことがある話だったのではないかと思います。だからこそ、しっかりと意識して使ってやれば、より確実で盤石な意思決定ができるようになるでしょう。そしてそれこそが、この情報過多の時代を生き抜くための重要なスキルなのです。
インターネットの進化に合わせて、人間の情報収集スキルも進化させる
YMYLによって、検索結果には質の高い情報が増えたのは良いことです。しかし、高度なテクニックを使ったSEO対策を行っている記事が上位を占めてしまうため、ウェブマーケティングを知らない医療専門家が記事を書いても、表示されにくくなっています。したがって、ヘルスケア事業について調査する際には、Google検索結果だけでは大事な専門家の視点が抜けてしまうことを意識するべきです。
インターネットの進化とともに、情報収集の方法も進化させていく必要があります。今日ご紹介したEEATとYMYLの概念を理解しながら長所を活かし、短所を補完することで、より深いビジネスの理解につながるはずです。
そしてデジタルの利便性とリアルな専門知識を融合させ、バランスの取れた意思決定を行うことが、これからのヘルスケアビジネスには不可欠となります。それは、最新のGPSナビと熟練ドライバーの勘を併用して、最適なルートを見つけ出すようなものかもしれません。
このコラムでは医療・ヘルスケアビジネスに関係する情報やノウハウをお送りしています。
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