考える社員の作り方。考える社員を育てる会社になる一歩。
「先生、出来ました。」
S社長が取り出したのは経営計画書です。
私はお聴きました。
「どうでしたか?」
S社長は目を輝かせて言われます。
「これまで何も考えてこなかったことが解りました。」
経営計画書の作成に向かい3カ月。
S社長の中では、やはり大きな変化が起きたようです。それは、経営計画書に真剣に向きあった者だけが得られるものです。
私は、経営計画書を机に戻し言いました。
「これからの一年で、S社長は更に進化することになりますよ。」
人材育成に、絶対に必要なことがあります。
これ抜きにして人が育つことは有り得ません。
それは、『考えること』です。
「この業務は、どうやったらもっと楽にできるようになるだろうか」
「もっとよいキャッチコピーはないだろうか」
考えている時に人は成長するのです。
その考えている分野に向かい能力が伸びるのです。
業務の改善ができる社員を育てたいのであれば、それについて考えさせる必要があります。
また、その社員のキャッチコピーをつくる能力を伸ばしたいのであれば、そのためにしっかり考える機会を与える必要があります。
考えさせれば、育つのです。
逆を言えば、考えることをさせなければ育たないと言うことです。
社長が改善のアイディアを出すばかりで、多くの社員は毎日同じ作業をしています。
一部の出来る社員がキャッチコピーを考える一方で、他の社員は坦々と体を動かしています。
この状態は、「学生が毎日同じ問題を繰り返し解いている」のと同じです。
中学一年の問題を毎年やっているのです。一年目は頭を使うものの、翌年からはそれが必要なくなります。これで頭が鍛えられるはずがありません。
それと同じ状態に社員をしているのです。
考える機会を与えていません。考えざるを得ない状態にしていません。
その結果として「人が育たない」のです。
そして、「うちには考える社員がいない」と嘆いています。
これは喜劇としか言いようがありません。
考えさせるから育つ、考えさせないから育たない、唯それだけです。
急いで、補足をする必要があります。
間違っても、「その考えさせる機会を社長自ら与えよう」としてはいけません。
一人の社員を捕まえて「これを考えてくれ」ではいけないのです。
それでは、長くは続きません。忙しくなった時に、社長の意識はそっちに回らなくなります。また、社長の目の届く範囲だけの取組みになります。
会社として、その仕組みを獲得しなければなりません。
『継続的』かつ『自動的』に社員に考える機会を与える仕組みです。
また『全体的』でありかつ『個別』の状況に合わせる必要があります。
それは「各部署において考える機会が発生する」状態を意味します。それにより各社員に見合ったレベルのテーマが与えられるのです。
その仕組みにより会社全体を考える組織にできます。
その時、会社の空気は大きく変わることになります。良い意味での緊張感と自由さが生まれます。社員同士が自分たちで意見交換をするようになります。彼らの顔にインテリジェンスが宿ります。そして、社長は組織の一体感というものを味わうことになるのです。
その変化は感動であり、経営者としての喜びです。
会社として、『全社員に考える機会を与える仕組み』を所有するのです。
人に「考えさせる最も有効な方法」があります。
それは『書かせること』です。
「この業務の改善案をまとめてくれ」
「キャッチコピーの作り方をマニュアルにしてください」
紙に文章としてまとめてくれるように依頼します。
人は書くために考えます。
考えてから書くのではありません。
書くから考えるのです。
その「書く」ということを全社に展開することで、各部署各層の社員を育てる仕組みを得ることになります。そして、書くことを一つの文化にまでしていきます。
その仕組みの一つが『企画書』です。検討書と言ってもよいでしょう。
企画書を書くためには、創造力を発揮する必要があります。
また、その情報や知恵、考えを整理する必要があります。
「これをやるとどうなるだろうか」、「大きくは3つのポイントがまとめられるな」、「全体のスケジュールと直近のスケジュールも必要だ」
そこに思考の連鎖が起きます。また、深さが伴ってきます。
「企画書」の作成が脳を動かすのです。
この際の注意事項が二つあります。
一つは、「文章で書かせること」です。使うソフトはワードです。
考えを文章で綴るのですからワードになります。
エクセルを使わせてはいけません。それは、あくまでも「表計算」であり、データの分析や解析のためにあります。自ずと文章量は減り、その文章にエモーショナルは宿りません。創造には向かないのです。ワードを使わせるのです。
(面白いもので、考え方や価値観の共有が出来ていない会社ほど、社内にエクセルが多く、ワードが少ない傾向があります。)
もう一つの注意事項が「フォーマットを与えない」です。
企画書を依頼すると彼らはすぐに「フォーマットが欲しい」と言ってきます。絶対に与えてはいけません。
書くべき項目は、その企画書それぞれによって異なります。目的や背景は共通で必要になりますが、役割分担や予算やスケジュールなど、必要とするものは違うのです。
それを考えるからこそ力になるのです。
また、フォーマットを与えてしまうと、社員はその「枠」の中で考えることをします。そのフォーマットにあることだけを考えるのです。
その思考は「創る」「生み出す」ではありません。「問に答える」であり「正解を探す」という行為になります。それでは力が付かないのです。
日本人の殆どは、その人生の中で「何かを創り出した経験」が一度もありません。それはオリジナルの文章を書いたことがないとも表現できます。
それは仕方がないことです。学校教育には「問」があります。その問いに答えることで評価がされます。その答えも誰かが作ったものです。そのパターンの脳が育っていきます。
その一方で、「創る」ことをさせていません。その結果、その能力は開発されずに来ました。
だからこそ、『企画書』に向かわせる必要があります。
その際には、「ワードを使って」と「フォーマットは無いよ」と言葉を添えるのです。
企画書または検討書をじっくり考え作り上げる、
この経験をすると、その人の脳は目覚めることになります。脳が動き出すのです。
そして、その脳は段々とその活動を強くします。手を動かしながらも、考えるようになります。また、それに対し情報収集のアンテナを立てるようになります。
当然、その変化のスピードや強さには個人差があります。しかし、それにより、確実にその社員のスイッチを入れることができます。
そして、その後も企画書の作成という『考える機会』を与え続けるのです。
それにより、人を育てることができます。それにより、人が育つ会社に変えることができます。
社長にとって、『経営計画書』がその企画書にあたります。
経営計画書をしっかり考えつくる、それも正しい形でつくる。
そして、作り上げる。
その時に脳が目覚めることになります。スイッチが入るのです。
冒頭のS社長は、その経験をされました。
いままでも経営計画書に何度か向かったことがありました。
しかし、一度も作り切ることはありませんでした。その必要性を感じることができなかったのです。
今回、正しい作りを知ることができました。それを知れば、確かに組織をつくるために必要であること、また、社員の力の発揮を促す効果があることが解ります。それは、S社のスピードある拡大のためには絶対に必要なことです。
S社長は向かいました。この3カ月、日々時間をつくり向かいました。
その結果出来上がったのです。
事業および会社の企画書である『経営計画書』が出来たのです。
S社長は言われました、「これまで何も考えてこなかったことが解りました」と。
経営計画書が「考えること」を引き出しました。
経営計画書を作るために、考えが深まり、そして、整理されていったのです。
ここでも一緒です。
考えがまとまったから経営計画書をつくる、ではないのです。
経営計画書をつくるから考えがまとまるのです。
私はS社長に言いました。
「これからの一年で更に進化することになりますよ。」
経営脳が目覚めたのです。脳がそっちに向けて成長することになります。
アンテナももっと強く働くようになります。この世の見え方までもが変わってきます。
その大きな変化が起きるのです。
経営計画書は大変ですが、絶対に乗り越えてください。
そこにフォーマットはありません。
また、安易に人に任せたり、他社のものを真似したりしないでください。
我々は、そんな行為を子供や社員がしたら許さないはずです。
社長自身が創ることに向かうのです。
社長自身が考えることに向かうのです。
そこから『考える社員を育てる会社』に成ることができます。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。