従業員からの「信頼」の重要性
従業員にとっての「働く意義」を高レベルで満たす意識を持ち、働き方や制度もそのように変えていくことが、自社と従業員のベクトルを合わせ、その力を引き出すことにつながります。
企業が培ってきた「信頼」は、これからの時代に社会や顧客に対しての価値創造を強化し、より多くの対価を得るための貴重な経営資源ですが、他にも注目すべきポイントがあります。それは、「信頼」が従業員の働き甲斐を強化し、企業にとっても従業員自身にとっても非常に良い効果を生む、ということです。
■企業と従業員の関係が変化している
近年、企業と従業員の関係性が変化しているといわれます。長きにわたり「終身雇用」と称されてきた日本企業の一般的な雇用形態は、少なくとも絶対的なものではなくなり、転職市場は活況を呈しています。また、新型コロナウィルスの流行を契機としてリモートワークが急速に拡大したことで、働き方にも様々な選択肢が出てきています。
「昭和の時代は残業なんて当たり前、むしろ欲しいものを買うために喜んで遅くまで働いていたけどなぁ…」とは、近年のマンパワー不足にお悩みの、とある社長のお言葉です。確かに、昭和から平成に変わるころは、24時間働くことを至高としたテレビCMなども当たり前のように流れていました。
そこから年月が経ち、令和の時代となった今日においては、従業員が1つの企業で働き続けるということは、もはや絶対的な価値観ではなくなりました。また、いわゆるZ世代という呼び方をされる今の若い人たちにとって、働くことの目的は、生活の糧を得る手段であるというだけでなく、社会や自分自身の人生をより良くする、というところにまで拡がりを見せています。
一方で、労働力そのものは、日本全体の人口減により中長期的には減少・希少化していくことが見込まれています。だとすれば、多様な労働観を持つに至った従業員をいかにして確保し、より力を発揮してもらえるようにしていくかは、多くの企業にとって重要な経営課題になるはずです。
■「信頼」が従業員の帰属意識や貢献意欲を高める
企業が持つ「信頼」は、従業員エンゲージメント、すなわち従業員が持つ企業への帰属意識・貢献意欲を高めていくうえで、非常に重要な意味を持ちえます。当社では、企業の「信頼」を「ステークホルダーからの期待に応える力やその充足度合い」と定義しており、従業員からの「信頼」という意味では、労働に見合った対価や労働環境の提供がきちんとなされることが、その基盤となります。
ですが、先ほど述べた労働観の変化を前提とするならば、労働の対価や環境が提供されるという基盤だけでは、もはや従業員の期待を十分に満たすことはできないと考えるべきです。これからの従業員にとって、働くことはあくまで自分の人生を豊かにするための一側面に過ぎず、金銭以外の要素、特に自分が働くことで社会や顧客にとってどのような貢献ができるか、といった意味付けが重要になっていきます。
端的にいえば「働く意義」ということになりますが、これを日々の業務の中で従業員に対し明示できる企業は、より従業員の期待を満たすことができるという意味で、従業員からの「信頼」を高められる企業だということができます。つまり、自社で「働く意義」を高め、明確に示すことが、自社に対する従業員からの「信頼」を増幅させるのです。そのような形で従業員から信頼される企業には、その信頼を価値と捉える多くの人が集まるでしょう。
■社会・顧客への価値提供が、働く意義にもなるようにする
当コラムでは一貫して、社会や顧客からの「信頼」を対価に変える手法をテーマとして取り上げていますが、ここでいう「社会や顧客からの信頼」と「従業員からの信頼」は、異なる概念ではありません。「信頼」の本質が相手の期待に応える力やその度合いだとすれば、社会・顧客・従業員のいずれにとっても重要と思われる領域で自社の「信頼」を定義づけすることが、企業と従業員のベクトルを合わせることにつながります。
社会・顧客・従業員に対する信頼を合わせるとして、どの要素から考えていくべきかは企業の置かれた状況により異なります。ですが一般的には、まずは顧客の期待を満たすことを優先すべきです。なぜなら、企業に対価をもたらすのは顧客であり、その対価無くしては、どんなに素晴らしい活動であっても真の意味で発展していくことはないからです。まずは対価獲得を優先する形で自社が重視すべき「信頼」を定義し、その結果として生まれる社会的意義を特定・強化していくことが、多くの中小企業にとって現実的な道筋になるでしょう。
続いて考えるべきは社会への貢献です。顧客への価値提供、すなわち本業を通じて、社会に対しどのような良い効果を生み出せるかを明確にしましょう。適切な雇用や納税など、当たり前の義務を果たすことはもちろんのこと、社会課題の解決に積極的に貢献する企業・事業であることをはっきりさせれば、そこには大義が生まれます(ただし、実はその裏で大きな負の影響を生み出している、ということは避けなければなりません)。
顧客に提供する価値や、社会のなかで事業を営む大義が明確になれば、「従業員にとっての自社で働くことの意義」も自ずと形作られていくはずです。これが、人生の限られた時間の一部を費やしてでも、従業員がその会社で働きたいと思える会社づくりの第一歩なのです。
ここでいう「自社で働くことの意義」を従業員にどのように伝えていくか、あるいはいかにして社会・顧客の信頼につながる行動をとってもらうか、といった観点では、セオリーとされる具体的な施策が存在します。それらについては回を改めてご紹介したいと思いますが、まずは従業員を独立したパートナーとして捉え直し、彼ら・彼女ら一人ひとりの人生における意義のひとつを付与する意識を持つことが、これからの時代に従業員の帰属意識や貢献意欲を高めるうえでは大切になります。
「信頼を対価に変える」トラスタライズ戦略は、対従業員という観点からも受け入れられやすい考え方のひとつです。企業の「信頼」を、様々なステークホルダーの観点から見直し、最終的にひとつのコンセプトとして集約・結実させることが、次の時代の経営に確固たる軸を築くことにつながっていくのです。
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