「信頼を対価に変える仕組み」づくりのために
「信頼を対価に変える」上で不可欠な「仕組み」を構築するためには、「作業・方針・価値観」を明示することで「他人に仕事を任せられる」状態を意図してつくることが大切です
前回のコラムでは、自社の信頼の増幅・競争優位構築のための、仕組みを整えることの重要性について述べました。実際の仕組みの具体的なあり方は、その会社の業種や規模、社風等によっても異なりますが、今回は仕組みの設計にあたり多くのケースで共通すると思われるポイントをご紹介します。
■仕組み化とは「他人にねらい通りの成果を継続的に挙げてもらうこと」
「仕組み」という言葉を聞いた時に、思い浮かべるものは人によって異なるかもしれません。部署間での業務分担など仕事の流れを指す場合もありますし、機械仕掛けの装置を指すこともあるでしょう。当社が提唱する「信頼を対価に変えるための仕組み」を作る際には、「他人にねらい通りの成果を継続的に挙げてもらうこと」を重視しています。
この「他人に」というところが重要で、業務を社長自らこなすのではなく従業員等の他人に「任せる」ということは、企業の成長において極めて大きな意味を持ちます。「他人に任せる」という決断が無ければ、企業は社長ひとり(だけ)の業務量・体力・精神力を超えるものにはなりません。いかに優秀な社長であっても、1日は他の人と同じく平等に24時間であり、そう遠くないうちに必ず限界が訪れるためです。
文字にして書いてみると至極当たり前のことですが、実際には「最後は社長自ら何とかする」という状態に陥り続けている会社は少なくありません。誰かに任せるにも説明のための時間が必要だったり、そもそも任せること自体ができないように見えるケースもあるためです。もちろん、仕組み化にも一定の時間やコストはかかりますが、未来永劫発生し続ける業務を他の人に担ってもらえるならば、思い切って早く実施してしまった方が効果は大きくなります。
また、ここでいう「仕組み」とは、部署間での協業の進め方・業務フローといった要素も当然含まれますが、方針や価値観の伝達のやり方など、現場作業からは一歩引いた要素も含みます。具体的な作業のみならず、人々の目標や価値観といった概念をも伝達・定着させる仕組みを整えることが、価値創造に向かって会社を持続的に動かしていく上では非常に大切であると当社は考えており、日々のコンサルティングのなかでもそのようにご提言しています。
それでは、他人にねらい通りの仕事をしてもらう精度を高めていくにはどうすればいいのでしょうか。そこには大きく分けて2つの方向性が存在します。ひとつは、個々人が手掛けるべき業務を正しく理解・認識してもらうこと、もうひとつは「ねらい」に沿った行動をしようとする誘因を高めることです。後者については報酬制度や採用など、人事の施策にある程度集約されるということもあり、今回は前者についてご紹介します。
■「作業・方針・価値観」を示して、本当の意味で仕事を任せる
他人を通じて仕事をしてもらうのが難しいのは、そもそもその業務のねらい、進め方などを正確に伝えるのが難しいためです。逆に言えば、その難しさを緩和するのが「仕組み」の重要な役割のひとつということでもあります。ここでは、他人に業務を正しく理解し、実行に移してもらうために考慮すべき3つのポイントをご紹介します。
・作業手順を示す
実際に仕事をお願いする上での手順や注意点を具体的かつ明確に示すことで、その仕事を再現してもらうことを目指します。作業手順書や、お手本となる動画など、いわゆるマニュアルを充実させる場合もありますし、新人を熟練者につけて指導してもらうといった教育の仕方もこれに該当します。
マニュアル類が整備され業務が明確化されていることは、人の入れ替わりが発生する企業において、仕事の再現性を高める上で非常に効果的です。しかし実態としては、あまりにも煩雑で参照されないマニュアル、長い間更新がされておらず実行に移せなくなっているマニュアル、更新のために大変な稟議が必要で見て見ぬふりをしたくなるマニュアルなども存在します。「守れるマニュアル」を作成・活用するためには、内容だけでなく作成や変更のプロセスにも留意することが大切です。
・方針を示す
仕事を本当の意味で「任せる」ためには、個別の作業のやり方だけを伝えるだけでは残念ながら不十分です。当然のことながら、具体的な作業そのものの選択をお願いするケースもありえます。企業が大きくなればなるほど、仕事をより抽象的な単位で任せる必要が出てきます。例えば、「売上の拡大」、「業務の生産性向上」といった仕事を誰かに任せる場合、作業内容を細かく指示するというよりは、その進め方も含めお願いする、というケースもあるでしょう。
このような場合には、マニュアルよりも具体性は劣りますが、各個人または部署が目指すべき状態・実行すべき施策などをまとめた「方針」を整備することが有効な場合があります。一定の期間(例えば1年)の間に実現したい自社の姿を社長の方針として示し、その達成に寄与する方針を各部署や個人の計画に落とし込んでいくというやり方です(「方針管理」と呼ぶこともあります)。期の初めに、目指す姿や実施事項を全社ですり合わせておき、それに従って仕事を進め、定期的に振り返り・軌道修正を行うことで、直接の作業指示をせずとも、大きな方向性を間違えることなく仕事をしてもらうことができるでしょう。
・価値観を示す
他人に仕事をお願いする場合、前述した通り作業内容や方針を示すことで、大きな方向性を揃えて仕事を進めてもらうことができるでしょう。とはいえ、人々が日々業務を行う際、これだけで適切な判断ができるかというとそうとは限りません。明文化できない業務、あるいはそもそもお願いすることを想定していなかったような業務も、日々の仕事の中では発生します。
例えば、接客業務においてお客様から過去に例をみないようなクレームを受け、すぐ対応しなければならない状況が発生したとします。対応の仕方を予め具体的に指示されていないなかでカギになるのは、現場の考え・判断です。こうした状況でも、会社として妥当と思えるアクションを取ってもらうためには、自社が何を大切にするかという価値観を、常日頃から個々人に伝えておかなければなりません。
これは一朝一夕にできるものではありませんが、朝礼等の場で何度も繰り返し言及したり、ワークショップなどの教育プログラムを用意するなどして、自分事として落とし込んでもらうことが有効です。また、社外に対して発信することも、その価値観を大切にしているという信憑性を高めることにつながります。加えて、そもそも自社の価値観に理解・共感を示してくれる人を予め採用段階で選ぶことも大切です。
■仕組みを正しく導入し、信頼を対価に変え続けられる会社へ
繰り返しになりますが、他人に仕事を任せる「仕組み」を導入するにあたり、導入すべき具体的な施策は会社によって異なります。ですが大きな考え方としては、今回ご紹介した「作業・方針・価値観」など、異なるレイヤーの施策を有機的に組み合わせることで、本当の意味で仕事を任せられる状態を作っていくことが大切なのです。
もちろん、「信頼を対価に変える」観点では、この作業・方針・価値観のすべてにおいて、自社が創造すべき価値・蓄積すべき信頼の要素が明確に落とし込まれている必要があります。ですが、予めそれらの定義がきちんとなされてさえいれば、仕組みに落とし込むことはそれほど難しくありません。
あなたの会社にも「信頼を対価に変える仕組み」を導入し、真の価値を継続的に創造し続けられる、そんな状態を作り上げてみませんか?
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